第366話 クエスト達成

 一行はやがて山を下り、森を抜けて、街までたどり着いた。


 ロック鳥の卵も無事だ。俺はひとまず安堵する。

 割れないように丁重に抱えてくるのは、結構大変だったのだ。


 しかしノリで卵を持って帰ってきてしまったが、ロック鳥の卵を手に入れるクエストって正式に受けてないんだよな。

 どうしようこれ。


 さておき、そのままホルムルンド家の屋敷まで直行する。

 すると娘が返ってきたと聞いたホルムルンド伯爵が、屋敷の門前まで猛烈な勢いですっ飛んできた。


「エルヴィーラぁああああああっ! 無事でよかったぞぉおおおおっ!」


「ち、父上、ただいまなのだ。あと、苦しいのだ……う、ううっ……うわぁああああんっ! 父上ぇええええっ! 怖かったのだぁあああっ!」


 伯爵のふくよかな体に力強く抱きしめられたエルヴィーラは、最初は何でもないという顔をしていたが、すぐに瞳に涙をため、やがて大泣きを始めた。


 感動の父子再会……なのだが、ホルムルンド伯爵の印象があまり良くないせいか、いまいち感動が伝わってこない今日この頃。

 エルヴィーラのほうは生意気娘ながら、無事に帰ってこれて良かったねという感じではあるのだが。


 ちなみに執事のオーヴェという人に関しては、放置して帰ってきた。

 この父子の相手をしていて日々のストレスでもあったのかもしれないが、やったことを考えると擁護しようとも思わない。

 とりあえず状況報告だけして、あとは野となれ山となれだ。


 それよりも──と、俺はホルムルンド伯爵とともに屋敷の門前まで出てきた冒険者ギルドのお姉さんに、ロック鳥の卵を取ってくるほうのクエストもどうにか受けていたことにならないかと訴えてみた。


 お姉さんは「分かりました。伯爵と交渉してみます」と言ってくれた。

 頼もしい。とても助かる。


 さて伯爵とエルヴィーラのほうはと見ると、すぐに娘を風呂に入れなければという話になったようで、伯爵はメイドの一人に至急風呂を沸かすように命じていた。


 話がひと段落したところで、エルヴィーラが伯爵に訴える。


「父上、お願いがあるのだ。あそこにいるニルスを、オーヴェの代わりに我が家の執事として雇ってほしいのだ」


 エルヴィーラが指さすのは、俺たちの後ろで所在なげにしていたニルスだ。

 当人は「マジで言うのかよ」とあきれた様子だったが、見たところ嫌がっている様子はない。


「なんと……? 私のかわいいエルヴィーラよ、あれが何者だかは知らんが、あんな小汚い小僧では我が家の執事には相応しくないだろう」


「小汚くないのだ! 父上、ニルスは私を助けてくれた恩人なのだ! 悪口を言うのは父上でも許さないのだ!」


「お、おお、そうなのか。彼がエルヴィーラを助けてくれた恩人だと。それは知らぬこととはいえ失礼をしたな。だが当家の執事というのはいささか……」


「いや、だからエルヴィーラ、俺は──」


「ニルスは黙っているのだ! ここは私に任せるのだ!」


 びしぃっと、エルヴィーラはニルスに指を突きつける。


 ニルスはというと、バツが悪そうに頬をかきながら「もういいか、どうなっても。あとは成り行き任せだ」とあきらめの様子を見せていた。


「大地くん、どうする? 彼の過去のこと、報告しておく?」


 風音がこっそり耳打ちで相談してくる。


 それなんだよなぁ……。

 報告するのが筋ではあるが、報告すると彼が縛り首になると聞いてしまうと、さすがにためらわれる。


 何の内緒話っすか、と寄ってきた弓月にも、風音が耳打ちをする。

 すると我が後輩は、俺たちだけに聞こえるコソコソ声でこんなことを言ってきた。


「本人が自首するって言ってたから、うちらはそれを信じたんすよ。そういうことでよくないっすか?」


「……お前、ホント要領いいな」


「あー、それでいいかぁ」


 そんなわけで、弓月の案を採用。

 当人が自首すると言っていたので、俺たちは特に報告する必要もないと思っていたことになった。


 実際のところ、当人が本当に自首するのかどうかは分からない。

 自首したとして、彼が本当に縛り首になるかも分からない。

 単に思い込みである可能性もある。


 ただいずれにせよ、俺たちの手で引き金を引くのは、やめておこうと思った。

 ある意味で共犯であり、法秩序を事実上破っているとも言えるが、俺たちはそういう決断をしたのだ。

 どちらにしたって何かしら汚れないといけないのなら、自分の心に従いたい。


 その後、話が落ち着いたところで、冒険者ギルドのお姉さんが伯爵に交渉を持ちかけた。

 俺がさっき頼んだ、ロック鳥の卵に関するクエストの件だ。


 これはお姉さんの交渉が巧かったからか、俺たちがエルヴィーラを救出してきて上機嫌だったからか分からないが、伯爵は快くクエストの受諾と達成を認めてくれた。


 ロック鳥の卵を明け渡し、Sランククエスト二つ分の達成報酬を受け取る。

 さらに──


───────────────────────


 特別ミッション『誘拐された伯爵の娘を救出する』を達成した!

 パーティ全員が50000ポイントの経験値を獲得!


 ミッション『Sランククエストを3回クリアする』を達成した!

 パーティ全員が80000ポイントの経験値を獲得!


 新規ミッション『Sランククエストを6回クリアする』(獲得経験値200000)が発生!


 六槍大地が56レベルにレベルアップ!


 現在の経験値

 六槍大地……2864804/3133157(次のレベルまで:268353)

 小太刀風音……2779636/2848853(次のレベルまで:69217)

 弓月火垂……3085451/3133157(次のレベルまで:47706)


───────────────────────


 こんな感じでミッション達成となった。


 この際、どうやらSランククエストのクリア回数も、二回分でカウントされたようだ。

 未達成ミッションのリストを見ると、先刻まで『Sランククエストを3回クリアする(2/3)』だったものが、『Sランククエストを6回クリアする(4/6)』に変わっていたのだ。


 というわけで、今日の仕事は終わりだ。

 ホルムルンド家の屋敷を出て、冒険者ギルドのお姉さんとも別れると、いつもの三人と一体のメンバーになる。


 ちなみにニルスは、エルヴィーラの希望により屋敷に居残りだ。

 この後どうなることやら分からないが、案件はすでに俺たちの手を離れた。


 時刻はちょうど昼食時

 よく晴れた青空の下、風音が伸びをする。


「んんっ……! 今日は早い時間にクエストが終わったね。どうしよう、ひとまずお昼ご飯だよね?」


「あ、うちここに来る途中に、気になるお店を見つけたんすよ。イートインできるパン屋みたいなんすけど、洋食っぽいのもやってる感じだったっす」


「へぇー、良さそうだな。よし、ほかに意見がなければ、そこで昼食にするか」


「さんせーい♪」


「クピッ、クピーッ♪」


 俺たちは弓月が気になったという食事処を目指して、都市ラハティの街中をのんびりと歩いていくのだった。

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