第97話 村と特別ミッション
村人の案内で街を出て、のどかな街道を歩いていくこと四時間ほど。
俺たちは目的地であるウォルズ村にたどり着いた。
道中は、新鮮な光景でいっぱいだった。
草原、森林、小麦畑、牛馬をひく農夫、河川と橋、エトセトラ。
そうしてたどり着いたウォルズ村も、一面の麦畑や牧草地に囲まれた牧歌的な集落だった。
木造の柵に囲まれた敷地内の住居の数は、五十あるかないかぐらい。
日が暮れ始めるぐらいの時間に到着した俺たちは、そのまま村長の家へと案内された。
村長宅では、広めの応接室に通されて席を勧められ、三人分のお茶を用意してくれた。
着席した俺たちの向かいに座るのは、この村の村長だ。
老齢に差し掛かったぐらいの歳で、穏やかそうな人柄に見えた。
「よくぞおいでくださいました、冒険者の皆様。皆様には、村の近くの洞窟に棲みついたゴブリンどもの討伐をお願いしたいのです」
そう言って村長は、洞窟の場所を教えてくれた。
洞窟は、村を出て森の中を小一時間ほど歩いたところにあるらしい。
洞窟までは、村人の一人が案内してくれるという。
それから村長は、苦々しい顔をしてこう付け加えた。
「この村に住んでいた狩人の一人が、ゴブリンどもに殺されたのです。このままやつらを野放しにしておけば、より多くの村人が被害に遭うやもしれません。どうか冒険者様、ゴブリンどもを退治してくだされ」
「分かりました。最善を尽くします」
俺は緊張しつつも、そう答えた。
モンスターに人が殺された──そういうのは、俺たちの世界のダンジョンでは滅多に聞かない話だ。
隣では風音さんと弓月も、神妙に息をのんでいた。
この世界では、ダンジョンの外にもモンスターが徘徊しているらしい。
俺たちの世界でも過去にはそのようなことがあったというが、現在は一般市民の目に触れるところにモンスターが現れることはまずなかった。
モンスターがいるのはダンジョンの中だけ。
モンスターを実際に目にするのも、その脅威に晒されるのも
その点は、この異世界と俺たちの世界とでは、大きく事情が異なる。
というかこの世界、俺たちの世界のそれと同じ意味での「ダンジョン」が、どうやら存在しなさそうなんだよな。
ともあれ、ひと通り話を聞き終えた俺たちは、さっそくゴブリン退治に向かうことにした。
だがそこで、一つ事件が起きる。
村長宅を出ようとしたとき、家の扉がけたたましく叩かれる音がした。
村長が応対に出ると、村人らしき男が慌てた様子でこう訴えた。
「大変だ、村長! チェルシーのやつが、一人でゴブリンの洞窟に行っちまったらしい!」
「なんじゃと!? 愚かなことを。冒険者に依頼するから先走るなと、あれほど言っておいたというのに」
「えっと……どういうことですか?」
俺が聞くと、村長は再び苦々しい表情を見せつつ事情を説明した。
「チェルシーは、ゴブリンどもに殺された狩人の娘なのです。そして『覚醒者』でもあります」
「『覚醒者』?」
「はい。いずれは村を出て、冒険者になるのだと息巻いておりました。ですがそんな矢先、ゴブリンどもに父親を無惨に殺されたのです」
どうやら「覚醒者」というのは、俺たち
実戦経験ゼロの1レベル
「たとえ『覚醒者』とて、ろくな経験も積んでおらぬ者がたった一人でゴブリンの群れを討伐しにいくなど、無謀すぎます。──冒険者様、勝手を承知でお頼み申します。どうかチェルシーを、ゴブリンどもの魔の手からお救いいただけませんか? 追加の報酬もどうにかお支払いいたします。どうか、どうか」
村長はそう言って、俺たちを拝んできた。
事態を知らせにきた村人もまた、頭を下げてくる。
さらに条件を詰めると、救助できなくてもペナルティはなし。
救助できたら金貨3枚の追加報酬を約束された。
さて、どうするか──
風音さんと弓月を見ると、二人は俺をまっすぐに見つめてうなずいてきた。
まあ、そうだよな。
俺は村長に伝える。
「分かりました。俺たちにできる限りのことはします。今すぐ出立するので、洞窟までの道案内をお願いします」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
村長たちから何度もお礼を言われた。
会ったこともない異世界の住人といっても、自分にかかわりがあるところで人が死ぬのは気持ちのいいことじゃない。
できることなら助けてやりたいと思った。
と、そのとき──
ピコンッと音がして、視界にメッセージボックスが現れた。
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特別ミッション『ゴブリンの洞窟に向かった村娘を救助する』が発生!
ミッション達成時の獲得経験点……2000ポイント
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驚いた。
弓月と風音さんも、目を丸くしている。
「び、びっくりしたっす」
「ふぇぇっ、こういうのもあるんだ」
想定していなかったボーナスミッション。
これが「特別ミッション」か。
だがそれよりも、今は一刻を争う可能性が高い。
俺たちは村人の案内で、ゴブリンが棲みついたという洞窟へと急ぐ。
手遅れにならなければいいが──
そのチェルシーという狩人の娘が、俺たちがたどり着くまで無事でいてくれることを祈るしかなかった。
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