第44話 宝箱(残念?)

 宝箱の中に入っていたのは「麻痺消しアンチパラライズポーション」だった。


 がっかり、というほどでもない。

 宝箱といっても、武器などの大物が入っているケースのほうがレアなのだ。


 なおスーパーレアなケースとしては、「スキルスクロール」や「シード」と呼ばれるアイテムが宝箱から出てくることもあるらしい。


 スキルスクロールは、「【トラップ探知】のスクロール」「【ファイアボルト】のスクロール」など様々な種類があり、使用すると所定のスキルを修得できるというトンデモアイテムだ。


 シードは「筋力のシード」「耐久力のシード」など四種類があって、食べると該当する能力値が1ポイント永久にアップするという、これまたトンデモなアイテム。


 出現確率はいずれも天文学的な低さだそうで、競売に出れば今の俺たちではまったく手が出ないような値がつくらしい。


 当然ながら俺たちは、どちらもいまだ一度もお目にかかっていない。

 そんなアイテムは夢のまた夢だ。


 話を現実に戻そう。


 今回出てきた麻痺消しポーションは、武具店でも購入してきたが、保険としてたくさんあって困るものじゃない。

 武具店で買うと一本5000円もするしな。


 手に入れた麻痺消しポーションは、小太刀さんの【アイテムボックス】に収納する。

 宝箱は黒い靄となって消え去った。


 一連の宝箱開け作業を見ていた弓月が、ぽつりとつぶやく。


「けど宝箱にトラップが仕掛けられてても、風音さんが全部解除しちゃうから意味ないっすね。ちょっと味気ない気もするっす」


「んー、なんなら火垂ちゃん、私が【トラップ探知】する前に開けてみてもいいよ。いろんな味がすると思うな。矢が飛んできたり、毒針が飛んできたり、爆発したり」


「すいませんっしたー! 風音大先生、今後とも【トラップ探知】、よろしくお願いしますっす!」


 弓月は腰を九十度折り曲げて、小太刀さんに向かって深々と謝罪した。

 相変わらず愉快な挙動をするやつだ。


 対する小太刀さんは、それを見てニコニコしていた。

 小太刀さんの笑顔、ときどき怖い。


 余談だが、宝箱のトラップにはいくつか種類があるらしい。


 洞窟層で遭遇したトラップの大半は【クロスボウボルト】という種類のもの。

 これは宝箱を開けた者に向けて矢が発射されダメージを与えるが、それ以上の効果はない。


 対して、洞窟層でも稀に遭遇する厄介なトラップが【爆発】だ。

 これは宝箱を開けた瞬間に箱が爆発して、開けた者にダメージを与えると同時に、箱の中身も消滅してしまう。

 そんなことになったらショックで寝込んでしまうと思う。


 それに加えて、森林層で遭遇する宝箱のトラップには、【毒針】【麻痺針】の二種類が追加されるとのこと。

 小さな針が飛び出してきて、箱を開けた者にバッドステータスの「毒」や「麻痺」を与える効果があるという。


 今、小太刀さんが解除したトラップは【毒針】だったようだ。

 もし【トラップ解除】がなかったら……トラップで毒を受けて、中に入っているのは麻痺を解除するポーションとなれば、なんとも歯痒そうだ。


 ちなみに「毒」は、八時間ほど効果が持続し、その間は継続的に毒ダメージを受け続けるというもの。

 毒消しアンチドーテポーションや毒消しの魔法がない場合には、致命的な結果にもなりうるようだ。


 あと宝箱といえば──


「そういえば俺も、スキルリストに【宝箱ドロップ率2倍】が出たんですよね。まだ取れてないんですけど」


「あ、六槍さんもですか? それはやっぱり欲しいですよね。私が全部の敵を倒すわけにもいかないですし」


「ですね。収入に直結するので。ただ正直、取りたいスキルが多すぎて困ってます」


 11レベルになったときに、俺の修得可能スキルリストはかなり拡張された。

 具体的にはこんな感じだ。



▼修得可能スキル(どれもスキルポイント1で獲得可能)

●武器

・槍攻撃力アップ(+10)

●魔法

(なし)

●一般

・筋力アップ(+1)

・耐久力アップ(+1)

・敏捷力アップ(+1)

・魔力アップ(+1)

・HPアップ(耐久力×5)

・MPアップ(魔力×5)

・隠密

・気配察知

・アイテムボックス

・宝箱ドロップ率2倍



 11レベルで新たに修得可能になったのは【槍攻撃力アップ(+10)】【ガイアヒール】【HPアップ(耐久力×5)】【MPアップ(魔力×5)】【宝箱ドロップ率2倍】の五種類だ。


 このうち【ガイアヒール】は、11レベル時に取得したスキルポイントを使って真っ先に取得したので、修得可能スキルリストからはすでに消えている。


【ガイアヒール】は治癒魔法【アースヒール】の強化版だ。

 消費MPは8点と【アースヒール】の二倍の重さだが、回復量が大きい上にもう一つ重要な特殊効果がある。


 そんなわけで【ガイアヒール】はすでに取得したので、修得可能スキルの新着は残り四種類。


 このうち【槍攻撃力アップ(+10)】や【HPアップ(耐久力×5)】【MPアップ(魔力×5)】は着実に戦闘力をアップしてくれるスキルなので、やはり余裕があったら取りたいスキルではある。

 森林層に入って敵も強くなっているし、この先もどんどん階層を下りていくわけだしな。


 それに加えて【宝箱ドロップ率2倍】だ。

 これもきわめて有用であることは疑いない。


 あと新着ではないが、もし余裕があったら、俺のちょっとした弱点を補ってくれる【敏捷力アップ】も上げていきたいところだ。

 もっとも敏捷力はレベルアップでも増えるし、多少上げたところで焼け石に水という気がしないでもないが。


 さらに、前々から余裕があったら取りたいと思っていた【アイテムボックス】も、まだ取れていないんだよな。


 スキルポイントを得るために必要なのは、当然ながら、レベルアップだ。


 レベルアップによる純粋なステータスの向上も、今後の攻略のためには当然大事。


 レベルアップのためには、モンスターをたくさん倒すこと。

 それも洞窟層の弱いモンスターではなく、森林層の強くて経験値の多いモンスターをだ。


 幸い俺たちは、森林層でも戦えている。

 このままガンガン攻略していこう。


 そう思って進んでいたら、次に出会ったのは──


「……出たな、キラーワスプ五体編成」


 第五層のキラーワスプ、最多編成の群れと遭遇した。


 敵との実力差が小さい場合、「数」の要素は戦局を大きく左右することにもなりかねない。


 少し離れた場所に姿を現した五体の巨大蜂は、会敵するなり、俺たちに向かって高速で飛来してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る