第38話 ボス部屋へ

「パンパカパーン! 昨日でうちもバイト終了っす! 今日から専業探索者シーカーとしてガチでやっていくっすよ!」


 翌朝、ダンジョン前のいつもの集合地点に行くと、例によって朝っぱらから元気な弓月が待っていた。


 ちなみに小太刀さんは、なぜか弓月を後ろから抱いて、その頭をなでこなでこしている。


「おはようございます、六槍さん」


「お、おはようございます……?」


 にこにこと満足げな様子で挨拶をしてくる小太刀さんに、俺は困惑しながら返事をする。


 なんでそうなっているんだ。それ平常運転なの?

 羨ましすぎるぞ弓月のやつ。


 さておき、合流した俺たちは、いつも通りに準備をしてダンジョンへと向かう。


 魔法陣でダンジョン内へと転移して、第一層、第二層、第三層と下り、第四層へと到着した。


「でも毎度毎度、第一層から下りてくるのも大変っすね。ずっとこんな感じなんすかね?」


「ん……? お前ネットの情報見てないのか。第四層と第五層の間にはワープポイントがあって、そこ踏めば次からダンジョン転移の際にそっちも選べるようになるらしいぞ」


「あ、そうなんすか。や、一応見てはいるんすけどね。うち基礎知識編は見ても、完全攻略編はあまり見ない主義なんすよ」


「どういう例えだそれは」


 古の時代、ゲームの攻略本文化が全盛の頃には、一つのゲームの攻略本が分冊で出ていたこともあったのだとか。


 スキルや魔法やアイテム、モンスターのデータなどが満載の基礎知識編に、街やダンジョン、イベントやストーリーの情報が載った完全攻略編……って、実にどうでもいいな。


 そんなよく分からない会話を繰り広げながら、第四層のモンスターを蹴散らしつつ、俺たちはボス部屋へと向かって進んでいく。


 第四層でも、雑魚戦はほとんどが完封勝利だ。

 やはり弓月がいると、状況がまったく変わってくるな。


 ボス部屋前までは、上層から下りてきた時間も含め、最短コースを通って四時間ぐらいかかる。


 朝の八時過ぎにダンジョン入りして、ボス部屋前にたどり着いたのは、ちょうどお昼時の時間だった。


 先にランチにしようかという緊張感のない意見も出たが、人間はちょっと空腹ぐらいのほうが調子がいいということで、このまま突入する方針に決まった。


 ちなみに弓月は、ボス部屋前にたどり着く少し前の戦闘でレベルアップ、8レベルへと上昇した。


 スキルは味方の武器攻撃力を強化する【ファイアウェポン】を取得。

 ボス戦のための布陣が完成した。



弓月火垂

レベル:8(+1)

経験値:558/860

HP :40/40

MP :49/76(+4)

筋力 :9(+1)

耐久力:10

敏捷力:12(+1)

魔力 :19(+1)

●スキル

【ファイアボルト】

【MPアップ(魔力×4)】

【HPアップ(耐久力×4)】

【魔力アップ(+2)】

【バーンブレイズ】

【モンスター鑑定】

【ファイアウェポン】(new!)

残りスキルポイント:0



 俺、小太刀さん、弓月の三人は、石造りの大扉の前で、互いにうなずき合う。


 俺が代表して、オーブに手をかざす。

 ゴゴゴゴッと荘厳な音を立て、大扉はゆっくりと開いていった。


 開いた大扉を通って、俺たちは部屋の中へと踏み込んでいく。


 扉は石造りだが、内部は土壁の大洞窟といった感じ。

 その薄暗い大部屋は、ゆうに体育館ぐらいの広さがあった。


 俺たちが進んでいくごとに、左右の壁に設えられたいくつもの松明たいまつに、手前から順にボッ、ボッ、ボッと青い灯がともっていく。


 俺たちが部屋の中央までたどり着いた頃には、松明の灯が速度を上げて追い越していって、やがて大洞窟の奥までを照らし出す。


 大洞窟の奥には、骨を組み上げて作ったような玉座があり、そこに一体の大柄かつ屈強なゴブリンが頬杖をついて待ち構えていた。


 ホブゴブリンをさらに一回り大きくしたような体格。

 ホブを格闘技のミドル級だとするなら、明らかにヘビー級のウェイトだ。


 金属製と思しき鎧に身を包み、背には王者のマント、頭にはドクロで作られた王冠らしきものをかぶっている。


 そいつはゆっくりと立ち上がると、骨の玉座に立てかけてあった大剣を手に取る。


 同時に、玉座の周囲に四つの人魂のような炎が浮かび上がり、それらが形を変えてモンスターの姿となった。

 ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンシャーマンがそれぞれ一体ずつだ。


 ちなみに、軽く十秒以上もあったその登場シーンの間、俺たちはどうしていたかというと、全員で強化魔法バフをせっせとかけていた。


 俺の【プロテクション】、小太刀さんの【クイックネス】、弓月の【ファイアウェポン】により、それぞれの身体能力や武器の威力が強化される。


 ボスの登場シーン中は、敵モンスターには何だかよく分からない謎のバリアが発生しており、攻撃を仕掛けても無駄だというのが先人の残した情報である。


 ただ裏技的に、この間に強化魔法バフを使うのは有効という抜け道がある。

 そのため俺たちは、ボス戦前のレベルアップでそれらのスキルを優先して取得していた。


「──来ます!」


 小太刀さんの警告の声。


 ほぼ同時に、玉座のヘビー級ゴブリン──「ゴブリンロード」が雄叫びを上げる。

 ロードは配下のモンスターを引き連れ、地鳴りを起こす勢いで駆けてきた。


 その速度は、ロードだけが圧倒的に速い。

 後方でどっしり構えるなどといったことはせず、ボスが率先して突撃してくるタイプだ。


 ゴブリンロードの雄叫びが、戦闘開始の合図。

 俺たちはそれぞれ、すぐに放てるよう準備しておいた攻撃魔法を発動する。


「くらえ、【ロックバレット】!」


「行けっ、【ウィンドスラッシュ】!」


「終焉の炎よ、すべてを焼き尽くせっす! 【バーンブレイズ】!」


 俺、小太刀さん、弓月が放った一斉魔法攻撃が、敵モンスターの群れに炸裂した。

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