第36話 第四層・再チャレンジ(3)

「ねぇ先輩、この【モンスター鑑定】っていうスキル、取ったほうがいいんすかね?」


「あー、これな。微妙なんだよな。要らないといえば要らないんだが……」


 弓月が相談してきたのは、【モンスター鑑定】というスキルに関してだった。


【モンスター鑑定】は、モンスターのステータスや特殊能力、弱点などを知ることができるスキルだ──と、ネットの情報にはあった。


 ただそのネットに、先人が【モンスター鑑定】で調べたデータが、あらかた載っちゃってるんだよな。

 それを見れば事済むという考え方はあるので、要らないといえば要らない。


 ただ一点、このスキルには重要なポイントがある。


 それは、戦っている最中のモンスターの「現在HP」も見ることができるという点だ。


 俺たちには敵のHPバーみたいなものが見えるわけでもないので、これは有用といえば有用だ。


 特にボス戦なんかでは、俺たちの精神衛生上、重要なスキルになってくるかもしれない。

 あとどれだけHPを削れば倒せるのか分からない状態で長期戦を行うのは、メンタル的にかなりキツイからな。


 そのへんの情報を弓月に伝えると、後輩はうーんと考え込む。


「欲しいは欲しいっすけど、今すぐかって言われると微妙っすね。……てかこのダンジョン、ボス戦とかあるんすか?」


「この第四層の奥にはボスがいるみたいですね。それを倒さないと、第五層には進めないんだとか」


 横から小太刀さんが口を挟んでくる。


「分かったっす。じゃあ【モンスター鑑定】はボス戦前に取ることにするっすよ」


「だな。頼りにしてるぞ、後輩」


「えへへっ。うちもお兄ちゃんや風音お姉ちゃんのことは頼りにしてるっす♪」


「まったく、いやつめ。このこの」


「本当です。かわいいかわいい♪」


「ちょっ、またっ……!? 二人とも、うちを緩衝材にしてないっすか!? ふにゃああああっ……!」


 俺と小太刀さんの手で再びなでくり回された弓月は、なんかまためちゃくちゃになった。


 そのまま順調に探索を進め、やがて帰還の時間となった。


 その頃には、俺の【マッピング】スキルが示す探索済み領域は、第四層全体の三割ほどにまで広がっていた。


 だがまだボスのいる場所──通称「ボス部屋」にはたどり着いていない。

 次回探索時には、ボス部屋を目指してもいいかもしれないな。


 上層への階段を上り、来た道を戻ってダンジョンを出る。


 時刻は夕方の五時頃。

 この時期のこの時間はまだ明るく、川の水面が陽の光を照らしてキラキラと輝いていた。


 今日の探索で成長したのは、何といっても弓月だ。


 第四層では遭遇のたびにゴブリンシャーマンを【ファイアボルト】で撃墜していたため、弓月にはモリモリ経験値が入った。

 結果、なんと一気に7レベルまで上がる大躍進だ。



弓月火垂

レベル:7(+2)

経験値:389/557

HP :40/40(+4)

MP :20/72(+8)

筋力 :8(+1)

耐久力:10(+1)

敏捷力:11(+1)

魔力 :18(+2)

●スキル

【ファイアボルト】

【MPアップ(魔力×4)】

【HPアップ(耐久力×4)】

【魔力アップ(+2)】

【バーンブレイズ】(new!)

【モンスター鑑定】(new!)

残りスキルポイント:0



 スキルはまず、範囲攻撃魔法の【バーンブレイズ】を取得。


 消費MPは【ファイアボルト】よりも重く、威力も劣るが、複数のモンスターを同時に攻撃できるメリットは大きい。


 今日の探索中にも試し撃ちして、ゴブリンやゴブリンアーチャーを高確率で一撃撃破できる威力があることは確認している。


 さらに、次回探索時にボス戦に突入する可能性を考えて、少し気が早いが【モンスター鑑定】を取得した。


 一方、俺と小太刀さんはレベルアップなしだ。

 俺は8レベルなので、ともすれば弓月に追いつかれそうだ。


 しかし弓月は明日からまたバイトで、次のダンジョン探索の約束はまた一週間後だ。


 対して俺は、一昨日がバイトの最終勤務だったので、もはや自由の身。

 日銭も稼がなければいけないし、一週間後までは小太刀さんと二人でダンジョンに潜ることになる。


 その間はまた、自分の育成を重点的に行うことになる。

 ほどほどに頑張っていこう。

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