第13話 初めてのパーティ行動(6)

 現れた箱の形状は棺桶に近く、薄べったい代わりに長さがある。

 見た目は金属製で、上部に蓋があった。


 講習で聞いた話によれば、【宝箱】はモンスターを倒したときに稀にドロップするのだという。

 中には武器や防具、消費アイテムなどのダンジョン産アイテムが入っているらしい。


 だが【宝箱】には、トラップが仕掛けられているケースもあるとのこと。

 それに対応するスキルがない場合には、かなり厄介なことになることもあるとか。


 俺がその旨の言及をすると、小太刀さんはえへんと胸を張る。


「ふっふーん♪ 実は私が、そのスキルを持ってるんだなこれが」


 小太刀さんはそう言って、箱に向かって手をかざし、こう唱えた。


「【トラップ探知】!」


 すると宝箱が、ボウッと赤い光を放った。

 それを見た小太刀さんは、「ふむふむ」と口ずさむ。


「しっかりトラップがあるみたいですね。種類は【クロスボウボルト】。開けようとすると中から矢が飛んできてダメージを受けるやつです」


「トラップの種類まで分かるんですか? 俺には赤く光っただけに見えたけど」


「うん。その辺はスキルの使用者にしか分からないみたいです。ま、何であれ関係ないんですけどね──【トラップ解除】!」


 今度は宝箱が緑色の光を放ち、次にカチャッと音がして、光がやんだ。

 小太刀さんは「これでよし」とつぶやくと、無造作に宝箱の蓋を開く。


 小太刀さんが「おっ」と言って宝箱の中から取り出したのは、鞘に収まった一振りの中型剣だった。


 ちなみに宝箱自体は、剣を取り出したら黒い靄になって消滅してしまう。


 小太刀さんは剣を鞘から引き抜いて、俺に見せてきた。


「これ、ブロードソードですね。たしか武具店で3万円ぐらいしたと思うので、結構なお宝ですよ。私は短剣二刀流に慣れちゃったのであれですけど、六槍さん使ってみます?」


「えっ、いいんですか?」


「チッチッチッ、六槍さんにあげるとは言ってません。報酬の分配はダンジョンを出てからまた考えましょう。でも一時的な戦力アップになるんだとしたら、今はそれも一手かなって」


「なるほど。しかし、うーん……」


 俺も槍に慣れちゃったんだよな。

 将来的にも槍スキルを伸ばしていく予定だから、槍の扱いに習熟しておいた方が得策だし。


 それに、もう一つ。


「今から第三層に行くのに、使い慣れてない武器を使うのも、ちょっと不安なんですよね」


「今から……? ああ、六槍さん、今のでレベルアップしました?」


「です。ホブゴブリンの経験値、なかなかですね。14ポイントか」


 俺は自分のステータスボードを操作しながら、戦果を確認する。

 ホブゴブリンを倒して経験値を獲得したところで、レベルが3から4にアップしていた。


 俺はさらにスキル修得画面に飛んで、迷うことなく【MPアップ(魔力×4)】を取得する。


 先に迷った四つのうちに入っていなかったスキルだが、第二層で戦ってみて、今最も必要なのは【アースヒール】のためのMPプールだと実感したのだ。


 何しろそこが生命線だ。

 ごりごりHPが削られてその分だけごりごりMPが減っていくのだから、MPの余裕が探索能力の余裕であり、心の余裕にもなる。


 もしそれでMPに余裕が出るなら、【ロックバレット】を修得して活用する未来も出てくるしな。


 というわけで、4レベルになった俺のステータスはこんな感じだ。




六槍大地

レベル:4(+1)

経験値:72/130

HP :40/40(+13)

MP :28/36(+12)

筋力 :9

耐久力:10(+1)

敏捷力:8(+1)

魔力 :9(+1)

●スキル

【アースヒール】

【マッピング】

【HPアップ(耐久力×4)】

【MPアップ(魔力×4)】

残りスキルポイント:0




 1レベルの時と比べるとだいぶ強くなった感じはするけど、どうなんだろう。

 そういえば──


「小太刀さんのステータスって、どんな感じなんです?」


「え、六槍さん、乙女のステータスを見たがるんですか?」


 ドン引きした様子で自分の体を抱いて、身を引く仕草を見せる小太刀さん。


 えっ、何それ知らない。

 ステータスってそういうものなの?


 俺が下手を踏んだかと恐々としていると、小太刀さんが警戒の素振りを解いて「えへっ」と笑う。


「──という冗談は置いといて」


「……冗談だったんですか。ヤバいこと言ったかと思って心臓バクバクでしたよ」


「あははっ、すみません。でもやりこめられてばかりだったので、少しやってやった感あります」


 そう言ってぺろっと舌を出す小太刀さんである。


 いいように弄ばれている気がするのはこっちなんだけどなぁ。

 小悪魔もほどほどにしてほしい。俺の平常心が耐えられない。


 が、それも半分は本当だったようで──


「でも実際、ステータスはセンシティブなものなので、あまりみだりに聞いたりしない風潮はあるみたいですね。人に『給料いくら?』って聞くと失礼になるのと同じで」


「あー、そうなんですか……。すみません、知りませんでした」


「いいですいいです、六槍さんなら全然教えます。それにパーティメンバーなら秘密主義も良くないですし──【ステータスオープン】」


 小太刀さんはそう言って、自分のステータスを開いて俺に見せてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る