ホームルーム探偵・朝霧暁子の事件簿
安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!
Question
「どうして素直に謝れないのっ!」
朝のホームルーム中の教室に、先生の怒鳴り声が響いた。席についたクラスメイト達の何人かがその声に身をすくませている。
でも怒られている当人達は、そんな先生を相手に果敢にくってかかった。
「だーかーらっ! 俺達はやってないって言ってるじゃんっ!!」
「なんでやってないことに対して謝らないといけないんだよっ!」
「この状況でまだやってないって言うのっ!?」
「だってやってないもんはやってないもんっ!」
教室の後ろの方。怒鳴っているのは担任の
そんな一行の頭上の天井には穴が開いていて、足元には崩れ落ちた天井の破片。先生はこの状況を見て、いつものごとく傘をバット代わりに室内野球をしていた三人が、傘を振った拍子に先っぽを天井にぶつけて穴を開けたのだと考えて三人を叱りつけている。対する三人は『天井は勝手に剥がれて落ちてきただけであって、自分達は天井に傘は当てていない』という主張を貫いている。
こんな怒鳴り合いが、かれこれ5分以上は続いていた。
朝のホームルームの時間は15分間。ホームルームが終わるまでに決着がつかなかったら、これ、どうなるんだろう?
変わらず響き続ける双方の怒鳴り合いに亀のように首をすくませながら、僕はチラッと隣の席を見やる。隣の席は僕の幼馴染の席なんだけど……いつものごとくその席に座る人物の姿は見えなかった。
こんな無意味な怒鳴り合い、彼女がいてくれたら一瞬で解決……いや、そもそも怒鳴り合いになることさえなかったのに。
──うぅ……早く来てくれよ、キョーコ!
こういう空気がとにかく苦手な僕は、必死に体を縮こまらせながら心の中で叫ぶ。
その瞬間、まるで僕の心の叫びが聞こえたかのようなタイミングでカラリと教室の前扉が開いた。
僕は反射的にドアの方を見て、そこに思った通りの子がいたことに心の中で歓声を上げる。
──キョーコ!
遅刻したことも、教室中に怒鳴り声が響いていることも気にすることなく……というよりも分かっていないというか、まだ寝ているかのような顔で入ってきたのは、ゆるく制服を着崩した女の子だった。意識して着崩しているわけじゃなくて、寝ぼけていてああいう風にしか着れなかったのかもしれない。カバンは肩からずり落ちているし、髪だって寝癖でボサボサのままだ。
そんな彼女……僕の幼馴染であり、隣の席の主である
最後に僕の方に顔を向けて一言。
「ケータ、……はよ」
「おはよ、キョーコ。せめてカバンは降ろしなよ」
「ん……」
夢見心地のまま、シパシパと眠そうに目をしばたたかせながら、キョーコはモソモソとカバンを降ろす。
それからようやく、キョーコは教室の後ろに視線を向けた。
「……何、あれ?」
良かった! キョーコがやっと気付いてくれた!
「実は……」
僕は手早くキョーコに今までの流れを説明した。キョーコはそんな僕に反応を示さない。だけど状況を観察している瞳からは徐々に眠気が消えていく。
「どう? キョーコ、分かりそう?」
僕がひと通り話し終えてそう問いかけた時には、キョーコの目はパッチリと開いていた。
「ああ、実に簡単な話だ」
キョーコはチラリと時計に視線を向けた。ホームルームの時間は残りあと5分。
5分もあれば、キョーコには十分だ。
「さて。無意味な怒鳴り合いを終わらせようじゃないか」
キョーコは優雅に立ち上がると、前髪に手を入れて髪をかき上げ、そのまま後ろ髪までまとめてとかした。たったそれだけで寝癖だらけだった髪がスルンッと綺麗になる。着崩れていた制服さえ、今のキョーコにはオシャレな着こなしにしか見えない。
「諸君! 静粛に!」
たった一瞬で誰もが見とれる美少女に化けたキョーコは、パンパンッと手を叩くと声を上げた。不思議なくらい響く声に先生まで怒鳴り声を引っ込める。
そんなキョーコの姿に、クラスメイト達がざわめいた。
「キョーコが起きた!」
「ホームルーム探偵のお目覚めだ……!」
遅刻常習犯にして居眠り常習犯。起きている時間よりも寝ている時間の方が長いという問題児。
だが覚醒していさえすれば、ホームルームの残り時間、たった5分でクラスメイト達が抱える『謎』を鮮やかに解き明かす、我がクラスが誇る最強の探偵。
人呼んで『ホームルーム探偵』朝霧暁子。
「こんなこと、眠っていても簡単に分かることだ」
そんな
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