第15話 やり直し、届かぬ一手
俺に出来ることは何がある……! ソリスのような剣術も腕力もなければ、ルーンのように魔法を使えるわけでもない……! だけど、ここで何かをしなければ完全に足手まといだ!
ソリスが身をひねる。寸での所をネメアの爪が通り過ぎる。彼女にはきっと全ての攻撃が見えている。だが、未だ互いに無傷で膠着状態に陥ってしまっている。
「ライトニング!」
ルーンの杖から稲妻が走る。ネメアは反対の手でそれを薙ぎ払う。次いでソリスがその隙を攻め込む。ネメアは身をよじってそれを回避する。あの巨体にして猫らしい動きまでしている。その身体能力がソリスでさえ攻め込み切れない要因なのだろう。
ルーンが更に魔法を繰り出し、ソリスが斬り込むが、猫は俊敏に避ける。ソリスも傷を負ってはいけないのを自覚しているらしく、回避や防御に動きを割いてしまう。
まだ足りないんだ。一手。あと一手、足りていないんだ。……なら。
「ソリス! ルーン! 俺が引き付けるからその隙に攻め込んでくれ!」
「無茶だ!」
「アンタには無理よ!!」
俺はソリスに借りた剣を構える。刃毀れしていて斬れそうにない。彼女曰く廉価版で気まぐれに買っただけのおもちゃだそうだが、俺にはこれが重くのしかかる。
動きづらい。走れない。思うように避けれる気がしない。だがそれでもいい。俺はやり直せるんだから。
「リドゥッ!!!」
絶対に誰もフォローに来れない距離。ネメアが俺の前に飛び込んでくる。立ち止まってその動きをよく観察する。
爪と爪の間は広く、上手く避ければそこに入れそうだ。俺は身をよじって狙い通りに避けようとするが、上手くいくはずがない。腹部が爪に裂かれる。
「ぐああああああああ!!!」
痛みに声を上げる。ネメアの特殊能力、傷を永遠の物にするというのはこういうことか!! 何度も何度も傷を負った感触が俺を襲う。痛みが引かない!!
ルーンが魔法を放ち、ネメアを退かせ、ソリスが手を伸ばして俺の元へ走って来るのが見えた。――意識が物凄い勢いで消え失せていく。このままでは動けなくなる。急げ――俺は彼女に答えるように指を振る。
画面が現れる。画像をタッチする。
光が溢れる。
「無茶だ!」
「アンタには無理よ!!」
二人が叫ぶ。ネメアが迫る。爪を避けようとさっきより更に身をひねる。
「リドゥッ!!!」
爪が俺の両脇を通り過ぎる。その瞬間。
「ぐああああああああ!!!」
ネメアが、俺が避けたのを認識していた。黄色く濁った白目と真っ黒な瞳孔に俺が映っている。こいつは俺が避けたのを狙って、少し爪の軌道を変えたんだ。――俺の左腕が切り裂かれている。
再びルーンが魔法でネメアを狙い、退かせる。ソリスがこちらにやって来るのを見ながら、俺はまた画像に触れる。
光が溢れる。
「リドゥッ!!!」
体を左側にひねる。するとネメアはそれを認識して軌道を変えてくる。なら、俺はそこに剣を突き立てる!!
「ぐああああああああ!!!」
刃が簡単に折れ、その破片が俺の右肩を貫いた。痛みが永遠に続く。方法は悪くないはずだ! もう一度!
光が溢れる。
「リドゥッ!!!」
ネメアが俺が避けたのを認識する。その爪を受け流すべく、俺は剣を構える。
「ぐああああああああ!!!」
再び刃が折れ、今度は左肩に突き刺さる。永遠の痛みがやって来る。激しすぎる痛みに俺の意識は急速に遠のいていく。
ルーンが魔法を数発撃ち、ネメアを退かせる。次いでやって来たソリスに手を取られた。
「アンタ何やってんの!! こんな重症、アタシたちじゃどうしようもない!!」
ソリスに激しく怒られる。彼女の心配の裏返しなのだろう。痛みで力が抜けて倒れる俺を、彼女は必死に支えてくれている。
彼女は俺をそっと地面に寝かせて、再び戦いに赴こうとする。だが、俺が彼女の服の裾を掴んで止める。
「放しなさい! あいつを早くやっつけてアンタの傷をなんとかしなくちゃ!」
「いい……んだ。ソリ、ス……」
「良いわけないでしょ! アンタの人生まだまだ長いのよ! こんなところで死なせないから!!」
ダメだ、ソリスが熱くなっている。俺は必死に裾を掴んで捕え続ける。
「放しなさい!」
「違う……んだ。教えて、ほしい、ことがある……」
「え……?」
後方ではルーンが大規模な爆発魔法を使っている。木々が爆ぜ、火事となっている。ルーンも俺がいなければこれだけ魔法をぶっ放せるのか。
俺の様子が死期を悟ったわけではないと気付いたソリスが、膝をついて俺の口元に耳を当てる。
俺は震える手を宙で振りながら、訊ねる。
「攻撃の、受け流し方……さっきの……何が、悪かったか……」
「アンタ、なにを――っ!」
彼女が俺の目を見て言葉を詰まらせる。そうだよ、ソリス。俺はまだ諦めていない。
「アンタの受け流しは基本的には悪くない。だけどさっきの攻撃に対して刃を立てすぎていたわ。力を受け流す方向を意識して、あの爪には垂直に力を入れるんじゃなくて、爪の根元の方向へ滑らせるように力づくで振れば折れずに耐えられたはずよ」
「ありが、とう……」
俺は震える指で宙を叩く。
光が溢れる。
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