第13話 ソリスと農家と職業と
「さて、依頼の確認よ」
もはやソリスがリーダーとして仕切っていることに、俺は何の違和感も持たなくなってしまった。この依頼、俺が面白そうだと思って受けたはずなのに……。
「猫の捕獲と書いているけど、十中八九猫じゃないわね。良くて猫型のモンスターよ。なんで私が確信できるかわかる?」
「いや、わからない」
ソリスは腕を組んでフフンと鼻を鳴らした。石畳の街中でドヤ顔をかます彼女はやはりどこか絵になっていて、実際彼女に見惚れている輩が何人か居た。ルーンは先程依頼を終えて帰ってきたこともあり、地べたでぐったりしている。
彼の体力がないのか、彼女の体力がバケモノなのか。一体どっちなんだろう。個人的には前者であってほしいが……。
「モンスターの捕獲なんて依頼すれば100万ゴールドは下らないのよ。しかもこんなに条件付けてるから500万はいくはずなの。それがただの猫の捕獲として30万まで落とされている。けど、猫の捕獲としては高すぎる。ギルドも当然疑ったはずだけど、多分記憶操作の魔法を掛けられて依頼書が通過してしまっている。あそこの従業員は素人も多いから」
「なるほど……」
「で、問題はこれ。無傷での捕獲よ」
彼女は依頼書を指さして俺へ見せる。『捕獲は必ず無傷で捕らえること』
難しい条件ではあるが何も違和感はない。
「対象が指定されていないのよ。この場合考えられる可能性は二つ。書かなくてもわかるから省いたか、意図的に隠しているか」
「捕獲対象のことだと思ってたけど、違うのか?」
「違う可能性がある、ね。例えばモンスターの爪に猛毒があって、かすり傷でも全身が腐食する奴とか。そいつと戦う時は、猛毒があるから無傷で乗り切れ、って書いてあることが多いわ」
俺は小さく声を上げた。すごい。ランク3になると持っている情報量が違う。これは確かにランク差別のきっかけになってしまうのかもしれない。
彼女は自らの装備をガシャガシャと鳴らすと、俺の腰を指さした。
「アンタ、職業は?」
「え、農家……じゃなくて」
横でルーンが噴いた。職業。ジョブと呼ばれるそれは、戦闘時のスタイルを示すことが多い。
その種類はたくさんあるらしいが、俺はあまり知らない。ジョブと言われて咄嗟に農家と言ってしまうくらいに。なんだよルーンこっち見てニヤニヤしないでくれ。
「装備は取り合えず在り合わせの物を買っただけ、武器は何を使うか決めてないから買ってない、ってとこかしらね」
ソリスが俺の周りをぐるぐると歩きながら言う。全く持ってその通りです。
「とりあえずアタシの武器をいくつか貸してあげるけど……アンタ、何使いたい? ナニ? 鍬? 鎌? 牧草をガシャーってするやつ?」
「農家からは離れてくれ! あとそれはフォークだよ!」
「あら、そのままな名前なのね。食器の方が先なの? 農具の方が先なの?」
「知らない!!」
この間ずっとルーンがくすくすと笑っている。
「答えなさい。アンタの使いたい武器。実際その人にあった武器ってのが色々あるけど、基本的にはそいつが使いたいものがそのまま適正だったりするわ。不思議なことにね」
ソリスは言う。俺の使いたい武器、か。今まで武器を持って戦うことなんてしたことなかったから、何がいいかは確かにわからない。
だけど、ずっと想像してた夢の自分の姿がある。
「剣だ。ソリスと同じ剣がいい」
「そ。まあ定番ね。ならお古を貸してあげるから一旦それで行きなさい」
「あ、ありがとう」
ここまで話しておいてなんだが。ソリスが意外なまでに面倒見がいい。姉御肌と言うか、自然に付き従いたくなる自分がいる。
「ソリスは昔からそうだよ。さって、じゃあもう出発するんだろ?」
「当然! 幸い依頼書に目的地も書いているわ。オルトの森。ここから走れば一時間程度ね」
「つまり二時間半か……」
「なんでアタシの計算から足しちゃうのよ!」
ルーンの言葉にソリスが眉を吊り上げた。ああ、やっぱり体力がバケモノの方だったか……。しかも走りっぱなしで二時間半なんて、この体は可能なんだろうか。流石にそんな距離を走ったことないし、成長期だから体力もどの程度なのか想像がつかない。
と、そうこう言っている内にソリスが走り出した。遅れて俺とルーンが追いかける。街中の石畳を過ぎると、すぐに街道へ出る。道は街中程舗装されておらず、土が丹念に踏み固められているだけだ。これでもまだ走りやすい方だから文句は言うまい。
「そういえばリドゥ、君は魔法は使えないのか?」
走りながらルーンが訊ねてくる。
「あー残念ながら。昔、素質を検査する団体が村に来てくれたけど、その時には何の反応もなかった」
「ギルドの魔法部署の連中かな。魔法は先天性のものだから、後から興味を持っても才能がないことにはどうしようもないもんね」
先天性のもの、か。俺の体も先天的な体質だったが、やり直しの力で普通程度に頑強な体を手に入れられた。肉食わせただけだが……。
もしかすると俺がもう一度干渉することで、バタフライエフェクトを起こして魔法の素質が開花したり……しないか。
と、話をしているとソリスが俺たちの元で下がってきた。
「アンタたち、かなり余裕ありそうね。ペース上げる?」
「あ、いや! すみませんソリスさん! このままでお願いします!」
男二人、彼女にしごかれながら森を目指した。
なんだかルーンと仲良くなれた気がした。
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