つまり、君は僕の事が好きって解釈で良いんだよね?
レイノール斉藤
道具の役割と使い道における考察(掌編)
「私は常々こう思うのよ」
「…なんだい?」
こう訊かないと彼女は次を言わない。つまり、ここで僕が何も言わなかったり、別の話題を振れば、彼女が常々何を思っているのかは永遠に分からず終いというわけだ。
ただ、その後彼女の機嫌がどうなるかという問題が次に立ちはだかってくるのだが……。
「アンドロイドに人間的な感情を与えてはいけない、と」
僕はすぐに応えず、ウェイトレスが置いたコーヒーを一口飲んだ。……苦い。誰だ、こんなの商品化したのは。
でも彼女が「コーヒーをエレガントに飲む様が格好良い」と言うからには嫌でも飲まざるを得ない。
「何故そう思うんだい?」
「アレはあくまでも道具。道具というのは目的があって作られる。ドライバーでネジを締めたいのに、そのドライバーが緩めたい!とか言い出したら使い物にならないでしょ?」
そう言って彼女は肉を切る為に作られた金属加工物で牛ステーキ肉を切り分け、食べ物を手を汚さずに口元へ持っていく為の金属加工物を使い、それを口に運んだ。
「確かにそうだ。アンドロイドが自分で考えて勝手に意図しない事をすればどうなるか、それ系の映画を見なくても想像はつく」
雑踏が騒がしくなってきた。昼飯時に入ったのだろう。会社から一気に出てくる人達を眺める。
彼らは一瞬だけ仮の解放を謳歌した後、直ぐに建物に戻っていく。まるで囚人だな、と思った。
「やっぱり貴方もそう思う?まあ、一番問題なのはそういう設計をした奴だと思うけど。それとも、ユーザーの倫理観が狂っているのかしら……」
僕は通りかかった男女のカップルを横目で見る。二人ともお互いしか見えていない雰囲気を全身に纏い、実に幸せそうだ。
女性の側がアンドロイドなのは二人にとっては障害ですらないのだろう。
「えーと、君が言いたい事を端的に纏めると……」
「何?言ってみて」
「つまり、君は僕の事が好きって解釈で良いんだよね?」
「……」
彼女は赤面しつつ、少し俯きがちに頷いた。
※過去作『二本目の煙草が燃え尽きるまで』と世界観がリンクしています
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