ライオンハート fade to R.E.D.

羽田和平 Kazuhei Wada

≪戦況報道記事≫ 誰が月を戦争に駆り立てたのか?



モルト政府官製報道資料第五十二号:民間軍事会社フェネスリテラによる戦争分析


※当該記事における民間軍事会社フェネスリテラ、ならびにアルクリア・ベースメント報道社はウィレ・ティルヴィア政府領内・公都シュトラウスに本社を置く機関です。

 月のモルト・アースヴィッツ政府は惑星領においても変わることなく報道の自由を担保します。

 また、軍統治下にある皆さんにも平等に情報提供をさせていただく観点から、この記事をモルトランツ領域にお住いの皆様に開放いたします。

情報の取捨選択に細心の注意を図り、記事中にある扇動的な表現にご注意ください。

 また、文中には難しい表現、異様な表現もございますので、読まれたくない方はこの限りではございません。

 それでは、皆様の健やかなる日々を祈念しております。




Ⅰ 状況整理

 以下情報は、両陣営がこれまで語ってきた戦争の目的である。

 民主主義的な取材により両陣営の主要人物から証言を取り、また我が社でもこの戦争がもたらす影響を鑑みて、両陣営の思惑を整理した。

 これを広く報じることは意義深く、このすべてが開かれた戦争を考えるにあたって有益なものと判断し、以下列挙する。



モルト・アースヴィッツ軍事政権

名目

 ウィレが重ねてきた数々の植民地政策に対して実力をもって対抗する。

両政府の関係を不健全にする全ての陰謀を暴き、糾弾する。

宇宙移民の自治権を守りモルトが自前で開発した宇宙規模に及ぶ確信的利益の防衛を果たす。


野心

モルトによるウィレ全土の征服

モルト民族の特権階級化


ウィレ・ティルヴィア政府

名目

 先制攻撃してきたモルトへの防衛のため、惑星側の戦力を結集して対抗する。


野心

モルトの開発した宇宙規模に及ぶ権益の奪取

モルト民族の信念の破壊と服従


 第一占領地、モルトランツの現状課題は以下である。

 この地はモルト軍にとって最初の侵略地である。これからの占領軍統治に当たってはこの地の政策が踏襲されるとみられる。


 モルトはモルトランツ市民の信頼を得ることを第一着手点としているとみられる。

 占領後、郊外にある広域指定暴力団のアジトを瞬時に粉砕したほか、反社会的勢力・政治団体を多数検挙しモルトランツ市警に首領と複数の幹部の身柄を引き渡したのはその政策の一環とみられる。


 人道的な統治をウィレに喧伝し、ウィレ国民のウィレ政府に対する信頼を崩してモルトの政治に対する同意を取り付ける必要があるため、当面強圧的な政治権力を行使することはないとみられる。

 また、先述の犯罪組織の粉砕により、モルトランツ市警と良好な関係を築き、占領後の統治を市警とモルト進駐軍の相互協力によって行っている。



Ⅱ.前大戦における戦術兵器が無効となった経緯と現在の戦争


 最終戦争による惨禍から世界における戦争技術は一変した。

 超速電算システムと、地表に配備された高速連射可能な電磁砲の組み合わせによる飛翔体の完全撃墜システムや電波誘導を無効とする電磁波ジャミング兵器が普及する。大気圏内外における弾道ミサイルはその誘導能力を無効化され、大陸間弾道弾の威力は半減した。


 これらの防衛パッケージを東西大陸の軍事企業がウィレ・ティルヴィア統合政府の後押しを受けて、経済圏への参加をセットとして各国に売却する。

 当然、各国は全世界を巻き込んだ核戦争の直後でもはや軍事能力らしいそれを持たず、結局は大陸への併合を望むより他になくなった。

 かつてシュトラウス共和国連邦と呼ばれたシュトラウス中央政府は、この強力な傘を盾に影響を増大させ、惑星を統一。

 惑星名ウィレ・ティルヴィアは統一国家の名前となった。


 この時点で、惑星内の敵対組織は過激派テロ組織を除き、消滅したが、ただひとつウィレに面従腹背する勢力があった。月に政治中枢を置くモルト・アーシス自治領(現:モルト・アースヴィッツ)であり、彼らはこの経済軍事協定を無視し、独自路線を進む。


『宇宙地政学的に、月政府を敵対勢力に仕立て上げることは予測不能な事態を呼びかねない』との専門家、学者の声を無視し、ウィレ・ティルヴィアはモルトを敵対勢力扱いする発言を強める。



 そして惑星間の緊張が限界を迎えた大陸歴28世紀に入り、モルトはひそかに、この完璧な防御線をくじくために、ひそかに兵器を開発する。


以下はその戦争目的を遂げるためにモルトが用意した戦術兵器である。

現在確認されたものを以下に記す。



Ⅲ.モルト軍戦術兵器


グラスレーヴェン


 はるか高みの大気圏外から専用装備を使って惑星へと降下する能力を有した鋼鉄の巨人。

陸上を踏破しつつ手に持った“火砲”で敵を撃破できる。

 上半身には高度な対空火器管制を内蔵し、航空機、陸空の無人機、弾道弾、巡航弾、歩兵用携行式誘導弾をほぼ完璧に迎撃する。

それまで主流であり、戦場の常識であった弾道弾攻撃、制空戦、空爆を無効化し戦争に新しいルールを持ち込んだ新たな戦場の支配者(ゲームチェンジャー)。


 宇宙生まれのモルトが圧倒的に陸上を制覇する象徴として開発されたとみられ、その機構、とりわけ原動力は謎に包まれている。


グライフェートンカノック


荷電粒子ビーム兵器

巡行ミサイルの意義が薄まったことで次の戦場の支配者に位置付けられた宇宙の新兵器。大気に弱い。大気減衰によるエネルギーの散乱を防ぐため、超大型空中戦艦の底部から、地上に対してほとんど垂直に照射される。

 レンズのような照射部によってエネルギーを鉛直に伝えるため力場を展開する。

照射時の光景は恐ろしくも美しいオーロラ現象となって展開される。これは広くオンライン(SNS)で話題となり、ウィレ民間人に対してはグラスレーヴェン以上に、本戦争の象徴として印象づけ、モルトの圧倒的な兵力を認識させる結果となった。


軍内部としても、大気圏で使用されるとは想定されていなかったため、ウィレを混乱に陥れた。




神の剣

 超大口径荷電粒子砲。もとは隕石誘導兵器、メテオストライカーとして開発されたものの、照準の正確性に難があり直接地上を攻撃する荷電粒子砲に切り替えられた。敵味方問わず破壊し、地下シェルターを掘り返し、地上を不毛地帯に変える。

 照射時には熱線の他、膨張した大気により球状の爆風が発生する。その爆発力は軍事爆薬換算で40クルタンム(kt)とされ、最終戦争で使われた戦術核に匹敵する。

 モルトの敗色濃厚となったノストハウザンの闘いにおいて初使用され、世界にショックを与えて以降、ウィレを脅迫、恫喝する手段として多用されている。


人質核

 戦術核を「撃つ」「落とす」ことが不可能になった結果「「置く」ことになった。

数々の破壊兵器の登場によって、それまで大量に用意されてきた核兵器は無用の長物となったため、ウィレ、モルト双方の陣営は過去の殺戮の遺産をむしろ都市を含む各地にばらまくことになった。

 しばしば負けそうになると核を起動し、勝敗をうやむやにしようと試みつつつばぜり合いを展開する。


 以上が今日の世界においてたびたび人口に膾炙する軍事用語である。


 だが、都市の大量破壊による戦後復興の困難化、惑星環境の変動と人類の絶滅危険性の高まりを背景に、両陣営は短期間で戦争の帰趨を決する戦いを展開しなければならず、大戦当初に使われた全滅覚悟の破壊兵器の数々は使用頻度を減らしていき、結果人型機動兵器同士、あるいは歩兵による、血で血を洗う占領地争奪作戦殴り合いの様相を呈することになる。


 これに対し、ウィレ軍は従来の戦車、ホバー技術を軸とした新型兵器を開発。

 戦争開始後三日でロールアウトという、異例の速さでモルト軍進軍地域に派遣した。急激な開発と配備の為、異例尽くしとなったものの、グラスレーヴェンに対してだけは幾重もの工作活動によって既にその開発計画を掴んでおり、対策が進んでいたとみられる。


ウィレ軍による、対グラスレーヴェン兵器は以下である。


Ⅳ.ウィレ軍対抗戦力兵器


アーミー

 モルトに内通したスパイによってもたらされた情報から、必要に迫られて開発された戦車寄りの半人型機動兵器。大きさはグラスレーヴェンの1.8倍。

 こちらはホバークラフトによって最大五メルほど陸上を浮遊しつつ、最高時速三百カンメルで滑るように移動しながらミサイル以外の多様な重火器を叩きこむ。

 回転による慣性力を利用しながら早さと力任せにグラスレーヴェンの二回り以上太い拳を打ち込むことでグラスレーヴェンはほぼ確実に戦闘不能にできる。

 直近5日前のノストハウザンの闘いで投入され、首脳部が期待する十分な戦果を挙げたとの報告が入っている。


 この記事は開戦当初から現在までの大手報道会社が報じた情報と、敵国に対し政治的意図をもってリークされた各情報を統合、さらに現場の戦況報告から熟考されたものである。


 先日のノストハウザンは大規模かつ悲惨な戦いとなった。

学者や専門家の予想では、大陸の大部分を占領したモルト軍に対してウィレ軍が対抗できる手段は限られるとの見方が強く、まだまだウィレ軍の敗色は濃いまま戦況が推移するものとみられている。


以上が大陸歴2718年6月10日時点での戦況となる。


この惑星と月に、一刻も早い平和がもたらされることを祈り、レポートを終える。


共同執筆:民間軍事会社フェネスリテラ

文責:アステライオ・マルトウ 

(アルクリア・ベースメント報道社 戦時報道班キャップ)



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