第42話 謎の男
「おらぁ、不完全な魚人なんだ。魚人は普通は水魔法が使えて、そして人間の上半身に魚の下半身を持ってんだ……」
俺は無言で聞く。
「俺の格好を見れば分かるだろ?俺たちは魚の顔を持った異常種なんだよ。だから、俺たちは水棲帝都アルカから追われたんだ」
水棲帝都アルカ、確かキャラクタークリエイトの時に出身として選べた場所の一つだったか。
「……それで、なんだよ。何が言いたいんだよ」
俺のヤジのような言葉を無視するようにギョンゾは語った。
「追われて、迫害されて俺たちは行き場を失ったんだよ。だけど、この新大陸の行きの船を見つけたんだよ。自分を天才だと思ったぜ……。新大陸に行けば、もしかして俺らの居場所があるんじゃねぇかってな」
だが、そうではなかったようだ。ここでも、その格好で追い出され、流れついた獣人領で食料を持ってるやつを積極的に襲っていたらしい。そこで、盗賊団と呼ばれるようになったというのだ。
こいつらが、ナナシが言っていた盗賊団、なんだろう。
「ある時に、科学者様を襲ったんだよ。だけど、負けた。一つも触れることさえできずに俺たちは地面に転がされてたんだ」
……
いつの間にか、俺は空を眺めていた。
さっきまで、誰かの食料を分けてもらおうと思って襲っていたのに。
記憶があいまいで、俺が体を起こして周囲を見渡すとオクとヒラが地面に転がっていた。
「な!?おめぇら……」
心配して駆け寄ると、息はしているようだった。
安心して、どういうことなのかと周囲を見ると、俺を見つめるように切り株の上にその科学者様が座っていた。
体のラインが見えないようなマントを羽織り、もみあげを片方首まで伸ばしてまとめたような髪型をしており、うつろな目が身に付けている丸ぶち眼鏡から見えていた。
頭が良さそうに見えて、科学者なのか……?と俺は第一印象で感じた。
その姿を見た瞬間、俺たち3人がこの科学者様を襲って、返り討ちにあったことを思い出した。
「おめぇは……、いったい」
「お前たち全員に真実を知らせるほどの力を俺はまだ持ってない。だが、正義は示すことができる」
淡々と告げるようなその声に俺は呆けた声を出す。
「は?」
いきなり何なんだと思った。正義って、何のことだ?
「せ、正義?」
「そう、正義だ。俺はそれを知っている、いや、知った。」
「何を言って」
俺の言葉など関係ないように科学者様は続けた。
「正義とは、他の誰にも縛られず、自身の主張、自由を守る力だ」
「守る力」
俺は科学者様の話を聞いて、なぜかとても『守る』という言葉に強く惹かれた。
「お前の記憶を見させてもらった。実に空虚だな」
瞬間、俺の頭に血が上る。
「なっ、俺を侮辱するってのか……」
俺たちのあの苦労の日々を笑われた俺は大きく声を張り上げるが、それに被さるように科学者様は言う。
「いや、事実だ。空虚だ、あきらめろ。どれもかれも空虚なんだよ、俺にとっては、いやこの島全員にとって」
その男が立ち上がり、俺の前に立つ。
俺は科学者様の顔を見やり、言う。
「殺すのか?俺を」
「いや?同胞を殺すわけないだろう?その代わり、これを持て」
そう言って、何らかの骨でできた笛を俺の手のひらに乗せた。
「これは?」
「俺は異世界人の感情を知る必要がある。お前たちは異世界人を探せ、そして捕まえろ。異世界人を捕まえた時、または捕まえきれなかったら、この笛を吹け」
「……どういう」
要領を掴めない俺の言葉を遮るように、彼は最後に言った。
「いいか、正義を執行する対象は異世界人だ。お前の過去の行いもすべて、すべてが奴らのせいだ。全部、全部。お前の過去も憂いも苦しみも憎しみもすべて清算される。」
「正義を執行しろ」
言われた言葉を必死に理解しようとしていると、男の姿がいつの間にか消えてしまっていることに気が付いた。
「……兄貴ぃ、おれらぁ寝ちまったんでしょうか?」
「ん?おれもでゲソか?」
消えた男と代わるように、俺の子分たちが起きだした。
「どういうことなんだ……?」
先ほどのは夢だったのか、とも考えそうになるが、俺の手の平にはさっきと同じように骨の笛がぽつんと存在していた。
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