第34話 ケンジのストーリー

「このゲームって、若者から見ても変わっているか?」


 ケンジは寝ているエマの頭を軽く撫でながら、そう俺に聞いた。


 俺は少し考えた後に言う。


「やっぱり……、変わってますよ。こんなNPCがリアルなゲームは僕としても初めてです。それに、風景だってリアルとほんとに変わらない……。ここが本当の異世界だと言われても信じますね、僕だったら」


 ブレイブバードの温かみを感じながら、高速で流れていく子鬼の森の景色を見る。風景の一つ一つが緻密で、まるで子供の時にテレビで見たアマゾンの密林の上空映像のようで、なぜか懐かしいという感情が沸いた。


 ケンジも風景を眺めてつぶやき始める。


「やはりそうか。このゲームに慣れた今ではまだ普通にいられるが、最初の頃は驚愕の連続だった」


 そう言って、ケンジはゲームの始めたころの記憶を語りだした。



……



 俺がこのゲームを始めたきっかけは息子のリンが一緒にやろうと誘ったからだった。正直、興味はなかった。だが、リンのあまりのしつこさに俺はしぶしぶ了承した。


 俺はこのゲームで手に入れた慣れないからだで息子に手を引かれていた。


「お父さん!早く行こうよぉ」


「分かったからリン、一旦落ち着け」


 俺と息子のリンはキャラクタークリエイト画面で獣人を選択し、気が付けば二人でどこぞの噴水の前に立っていた。俺のキャラクターは俺の20歳の時の肉体を再現したトラの獣人であり、作る時に何らかの警告が出ていたが、読むのが煩わしく飛ばしてしまっていた。


「ちょっと、待て」


 その結果として、意識が俺の今の体に追いつけないのだろう。歩くたびに疲労感が途轍もなかった。


 その後、少し歩いて休憩してを繰り返しながら俺は周囲を見渡していた。


 このゲームを最初に見た時に感じたのが、リアルという言葉だった。風景は現実と遜色ない。なのに獣人という獣の耳や尾が生えた人間が町中を堂々と闊歩しているその光景の異様さに俺は驚愕した。


 リンに色々ゲームについて聞くと、これらのほとんどはNPCで、少数のみが俺たちと同じようにゲームをプレイしているプレイヤーだというのだ。ゲームを若いころで卒業してしまっていた俺にとっては、この歩いてるほとんどの人がゲームのキャラクターだとは到底信じられなかった。


 気だるい体を支えながらこの衝撃の光景にフリーズしていると、狸の獣人となったリンがほほを膨らませて抗議の目線で俺を見ていることに気が付いた。


「早くいこ!もうちょっとで冒険者ギルドだって!」


 リンは俺が45歳辺りで生まれた子であり、15歳になっていた。遅く生まれた子であるため、俺も妻も心底甘やかして育てた結果、高校1年という反抗期の時期に反し、お父さんと一緒に遊びたいと俺をこのゲームに誘っていた。


 親としては息子が親と一緒に遊びという気持ちはとてもうれしいが、いかんせん親離れが全くできてないと少し心配だった。


 その後、俺とリンは冒険者ギルドという場所で良く分からない契約を済ませ、一通りの探索を終えた後、初めてのVRゲームの体験を終えた。


 

……



 次にゲームをしたのは、リンが学校に行って家にいない時だった。その時俺はちょうど仕事が休みとなっており、何となくやってみようか、という気持ちで一人でimagine worldにログインしていた。


 そして俺はあるチームに参加させてもらい、探索を行っていた。そこは魔結晶の洞窟というダンジョンであり、俺を含めた3人のパーティーでダンジョンへと挑んでいた。


「お強いですねぇ、ケンジさん」


「……」


 チームの一人である猫の獣人のネウスはとても喋りが好きな青年だった。俺の様子をうかがいながら、ことあるごとに俺に話しかけてきたが、俺はそこまで話し上手ではなかったから話半分で聞いていた。


「ケンジさん、すごいですねぇ!」


 もう一人のチームメンバーは犬の獣人のワーフだった。本当の犬のように人懐っこく、俺の周りをウロチョロしていた。


 彼らとの冒険は順調なように見え、見かける魔物もそれほど強いものはおらず、俺はかなり楽観視していた。


 そうして、順調に洞窟を進み、中間あたりで休憩を始めた時にあることが発覚した。それは俺が異世界人(プレイヤー)であり、彼らがNPCであったことだ。


「え!ケンジさんって異世界人なんですか?」


「わぁ、そうなんですか!初めて見ました!」


 物珍しそうにこちらを見る2人に俺は反応に困り、頬をかいた。


 そこでどうやら俺たちのようなゲームをプレイしている奴は異世界人と言われていることに気が付いた。


「異世界人って伝承の人ですよね!すごいなぁ」


 興奮したようにワーフの耳や尻尾が跳ねていた。


 俺はそんな様子を見ながら、この2人が人間ではなかったということが心に残った。実際に話して同じ人間であると思っていたが、まさかのゲームのキャラクターだったということが俺は信じられなかった。


 ボッーっと、休憩しながら考えているとネウスが困ったような顔をしながら言った。


「ケンジさん、そろそろ洞窟から出ませんか?ポーションとかも少ないし、危険なんじゃ?」


「?いや、大丈夫だろう。このまま制覇したほうが都合がいい」


「そうですかね……」


 その後も胸に何か心に異物のようなものを感じながら、休憩後も俺たちは洞窟を進んでいき、ついに洞窟の最深部へと到着した。


 そこには、魔結晶なる紫の巨大な結晶を守護するこれまた巨大な土人形が俺たちを待ち構えていた。

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