第22話 心配
『名前 カジ
種族 獣人(きつね)
レベル11
能力値
HP 16
MP 12
力 6(+4/+3)=10/9
防御 5(+3)=8
器用さ 8(+1/+2)=9/10
速さ 8(+1)=9
魔力 5
スキル
罠生成 5
罠設置 4
剣術 6
弓術 4
鑑定 4
アーツ
パワースラッシュ (MP-1)
自動設置 (MP-3)
罠解体
装備
胴 緑大蜥蜴のジャケット
脚 緑大蜥蜴のズボン
腰 マジックポーチ(小)
足 革のブーツ
背中 矢筒 20/50
武器 ブロードソード/強化弦弓』
インスタント麺を食べ終えた俺はすぐさまゲームにログインしていた。
すっかり見慣れた獣人の街並みを眺めながらステータスを確認する。
レベルが11まで上がり装備の更新も行ったため、能力値は軒並み上がっていた。罠設置もレベルが4になり、同時に設置できる数が4つになった。だが、一番変化があったのはアーツの部分だ。
前までは1つも取得していなかったのだが、剣術を5レベルに上げてアーツスラッシュが、罠設置4レベルで自動設置と罠解体が取得できた。
これらのアーツは強力だ。アーツの使い方は簡単だ。使用したいと思いながらアーツの名前を発言。すると矢印が現れ、その通りに行動すればできる。
例えばパワースラッシュの場合、使用することにより叩き切りたい方向に矢印が生まれ、その方向通りに切ると発動する。
そうすることで相手に対して強力な威力を叩きこむことができる。その威力は大木の幹を水平に叩き切るほどだ。その分、隙は大きいが……。
アーツを使ってみた感触としてはこの誘導の矢印は結構自由が効くようだ。あっちの方に使いたい、こっちに使いたい、そう思えば矢印の向きや長さは変わっていく。つまり、みんながみんな型通りの動作は行わないということだ。もちろん無理な動作の変化ならばアーツは発動しない。
多分、サカタが使っていた土の魔法などの魔法系も同様な使い方なのだろう。土の槍を上に降らしたり、地面から発射させたりバリエーションがあった。
だが当然、アーツには不便な点もある。
まず1つはMPを消費すること。一般のゲームと同じように強力なアーツは無限に使うことができないということだ。罠解体はMP消費はないが。
2つ目はクールダウンが存在すること。アーツは連続使用は出来ず、必ず間をおかねばならないため、MPの続く限りのアーツのゴリ押しはできない。ちなみに、このクールダウンはそれぞれのアーツに設定されており、同じアーツは連続使用は出来ないが、違うアーツどうしであればだが連続使用できる。
アーツの確認、ステータスの確認も終わり、別に異常がないことを確認する。
「確認はいいか。よし……ナナシのところに行ってみるか」
俺はステータスを閉じてナナシのいる場所へ向かった。
……
ナナシを連れて街に戻った後、あいつは街の小さな道具店で住み込みで働いていた。道具屋の仕事は辛くはあるだろうが、店主のおばあさんは優しく、2人で楽しく暮らせていた。
「よお、ナナシ」
俺は道具屋の仕事が終わり、椅子に座って休憩しているナナシに声をかける。
「あっ、カジさん!」
ナナシは立ち上がろうとするが、俺はそれを止めた。
「いや、立たなくていいよ。それよりお腹空いてるでしょ?」
俺は自分のバックに手を入れて熱々のホットドックを2本取り出した。今持っているカバンはマジックポーチ(小)というもので文字通り魔法のポーチだ。
『ポーチ容量 アイテム:44/100
金貨:15000/50000
アイテム(経年劣化無し):
ポーション(下級)×15
ホットドック×3
おしぼり×4
スキル強化の実×1
トラバサミ×13
簡易落とし穴×4
森の罠×3
生活用品』
このカバンは見た目よりも色々物が入り、しかも中では時間経過が発生しないという科学の根底をくつがえす素晴らしいものだ。無理があるがまあ、ここはファンタジーな世界だから。
「うわ~、ありがとうございます!」
「ああ、それとおしぼりもね」
俺はお湯で濡らしたタオルもナナシに上げる。これはバックの時間経過が起こらない特性とバックのシステム上中身が混ざらない特性を合わせて作った簡易おしぼりだ。一応、ナナシが手づかみで食べて食中毒にならないように作っておいた。
「はい!」
ナナシは手をしっかりと拭いてホットドックにかぶりつく。俺もそれに合わせてホットドックにかぶりつく。
「おいしぃ」
「うん、うまいな」
ナナシは笑顔でホットドッグをしっかりと味わって食べている。労働の後のご飯は染みるようでとても美味しそうに食べている。俺はその光景を見ながら口に運ぶ。
けっこう大きいがソーセージの肉の部分までちゃんと含めて噛みちぎる。するとおいしさが口に広がった。
「うまいなぁ」
現実ではありふれたものでしかないが素直に美味しいと感じられるいいごはんだった。
ゲームの世界だからこそこういうありきたりなものが美味しく感じるのかもしれない。まあ、俺が現実に帰ったらインスタントづくしだからかもしれないけど。
このソーセージも魔物の肉らしいがどんな魔物かはよくわからない。
「カジさん……あの、お代わりを……」
先に食べ終わっていたナナシが俺の顔を申し訳なさそうに見ていた。
「ん?しょうがないなぁ」
俺はマジックポーチからお代わりを出した。
「それで、最近はどうだ?」
食事を終えた後、俺はナナシから近況報告を聞く。この道具屋の店長は優しそうなおばさんだから別に問題はないとは思うが、一応ナナシの安全のために聞いていた。
ナナシは俺が助けただけのNPCだ。本当は別に気に掛ける必要はなく、その場限りの存在……。システム上は放置しても全然いいはずなんだ。だけど、まるで本当に生きているかのようなリアルさから俺は自らの境遇とナナシとを照らし合わせていた。
「おばあさんがとっても優しくしてくれて毎日楽しいんです!それにカジさんも来てくれるから僕は一つも退屈しません!」
「……そうか、それは良かった。ナナシが楽しんで生活してるのを聞いてホッとしたよ」
現実がいやでゲームでしか真面目に話すことができない俺がNPCと現実の自分と重ね合わせていた。
俺のこの生活には限りがある。どのようなゲームでも限りがある。ましてこのゲームはオンラインのMMORPG。サービスが続くのは5年、10年、はたまた1年なのかもしれない。俺ともう会えないと知ったらナナシはどのような顔をするだろう?NPCは悲しむだろうか?もしそうならせめて、その悲しみが積もらないようにしたかった。
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