第11話 ペッパーウルフ

「あっ、何にも言われてなかったんだ」


 ……ちょっとうざい。


「……はあ、罠の有効性はよく分かりました。では、これで」


 ハイテンションにはついてけないのでどこか別の場所に行こうとする。が、


「待ってよ!」


 またしても逃さないように俺の肩を掴む。


「またですか」


 俺はうんざりした声色で行ったがカラルはそんなのものともしない。


「やっぱり罠の先輩だし、先輩の力を見せておこうと思ってね」


「へぇー、見せてくれんですか」


 これは単純に興味があるな。金級がどれほどの腕前か見せてもらおうかな。


「うん。じゃあ行くよ」


 そう言いながらカラルは両手を自分の前で勢いよく合わせる。そして、手を離れさせていくと手の間からは電気の放電のように緑色の線が暴れている。ある程度離した後、また勢いよく手を合わせると


「よっと、できたよ」


 カラルが手のひらを俺に突き出してくる。


「あの、何も見えないんですけど」


 俺が言うと、カラルはハッとした表情になり、


「ああ、ごめんね。これ透明な罠なんだ。自分では見えてるんだけどね」


 透明な罠なんてあるのか。透明な罠ってつまるところ最強じゃないか?


「これってどんな罠なんですか?」


「ん?んぅぅぅぅ?まあ、見てからのお楽しみかな」


 俺はカラルの言う透明な罠を鑑定してみた。


『???

?????????

??????????????

?????????????????』


 うわっ!なんだこれ。透明な罠は鑑定できなかった。多分、鑑定のレベルが足りないのか?


 驚く俺に対し、カラルは手を握りしめ、透明な罠を投げた。


「あっ、カラルさん危なくないですか?」


 今、俺とカラルがいるのはギルドの練習室だ。他にもスキルの練習をしているのがたくさんいる中で罠なんて発動したら危険極まりない。


「ん?ダイジョーブ。死んじゃう罠とかじゃあないからね」

 

 いや、死なないからって人が多いこんなところでやっていいのか?


「ああ!それよりほら!あそこの人が罠踏みそうだよ」


 カラルは俺の肩をゆすりながら指を指している。


 いや、透明な罠なんだから俺には見えないんですけど!?


「ほら、あの子に当たりそうだよ」


 カラルがそう言って指を指していたのはコウモリのような黒い体毛を持つ獣人だった。彼は剣を振り下ろし、薙ぎ払う練習をしている。汗をかきながらも必死に剣を振るい頑張っている。


「…あの人ちゃんと練習してるんだし、やめたほうが」


「ダイジョーブ」



……



 剣を振るってる獣人の人は練習のラストスパートに入っていた。十字に斬る練習をしたり、足運びを練習していた。前横に素早くステップを行なっている。だが、後ろにステップをした瞬間、「カチッ」という音が聞こえた。


「ん?」


 彼は何か近くで音がした気がするが、何も見えず、練習に戻ろうとするが、


「ん?うわ!」


 彼の後ろには何かがいた。白い球体がいつのまにか現れており、その周囲には風が集まっていた。


「え?なに?」


 球体の周りの風はどんどん勢いを増し、風に色がついていく。透明から薄い緑色となり、空間に緑の薄いベールが下ろされてるかのようだ。だが、変化はこれで終わらない。色のついた風が徐々になにかの形にへんかしていっている。形は四肢を型取り、尾を生み、頭を作った。狼を象っている。


 それは真ん前にいた彼の方へ向かっていく。


「うわ!?うわわ!?」


 彼はいきなりのことで訳が分からず、近づいてくる狼のような何かから逃げようとする。


 だが、狼も最初の方はゆっくり向かっていたが、徐々に速度が速くなっている。


「うわああ、助けて!?」


 彼は狼の様子を見てよりパニックに陥り、大声を上げて練習室を走り回る。その様子にほかの練習してた人も異変に気付き、なんだなんだと騒がしくなる。


 逃げ回っている彼を見て、狼を止めようとした大きなハンマーを持った獣人がハンマーを振り下ろす。


「なに!?」


 ハンマーは当たり、狼の形が崩れるが、瞬時に元通りになってしまう。狼はハンマーを当てられたことを全く気にすることもなく、逃げている彼を追いかける。


「あっ」


 逃げていた彼はつまづいてしまい、狼に追いつかれてしまう。狼は彼に飛びかかった。


 死んでしまう……そんなことを思いながら目をつぶったが、一切痛みが来ない。


 目をうっすらと開けると、白い球体が彼の目の前に浮いていた。


「へ?」


 白い球体はいきなり勢いよく破裂した。


「うわ!?」


 とっさに目を覆うがなにも痛みがない。だが、体からは何か異常が起こっていた。


「へっ、へくしゅ!へっ、へくち!」


 鼻の奥がムズムズして咳が止まらないのだ。目を開けると何か風と共に黒い粉が浮遊してるのがわかったが目もムズムズして痒くて目から大量の涙が出る。


「わわわわ、なにごれ へっ、へくしゅ!」



……



「うわぁ、なんですかあの黒い粉は?」


 なんか涙流して咳しまくっててえぐいんだけど。


「あれは胡椒だよ。ね、死にはしないでしょ?」


 死にはしないけどひどい罠だな。一生懸命練習してた彼の後ろから球体みたいなのが現れて、それに風が集まって狼になっちゃって最後には故障撒き散らすって罠なのか?自立歩行するって罠の域に治らないよな?


「あの罠の名前はペッパーウルフ。ね、すごいでしょ!?」


「いや、すごいんですけどこれはやばくないですか?」


「へ?」


「胡椒が空気中に散らばってものすごいことになってるんですが」


 俺の目の前は阿鼻叫喚の地獄と化している。空気中に散った胡椒が他の人に入って涙が出るわ咳が出るわ鼻水が出るわでもうひどい有様だ。練習室から避難してる人も沢山いる。


「どうするんですか?」


 俺は指差しながら言う。


「うーん、私たちも避難しよっか」


 うわぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る