第10話 カラル
さて、次は罠生成、罠設置の実験をしに行こう。とは言ってもどこでするか分かんないし、メアリさんに聞きに行こう。
修練場から出て、通路を通ってメアリさんのところへ行く。相変わらず真ん中では冒険者たちがどんちゃん騒ぎをしていて騒々しく感じる。
メアリさんのいる隅の受付所の所は今空いている。これなら迷惑はかからないだろう。
「メアリさん、すいません。聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「あ、カジさん。いいですけど頭大丈夫ですか?」
メアリさんは少し驚きながら俺に言う。
あれ、すっごい失礼なこと言われてる気がする。
「えっと、一体どういう意味ですか?」
「覚えていませんか?カジさんは昨日修練場で金級冒険者同士の組手に巻き込まれて死亡したことになっているんですが?」
「ああ、昨日のあれか」
昨日死んだことか。あれってゲームのNPC的にはどういう反応になるんだろうか?
「えっ、というか僕死んだことになってるんですか?」
「いえ、あのカジさんは異世界人とわかってましたからね。異世界人は死んでも蘇るという伝承もありますからね。ですが、カジさんがあの場で死んだ後、頭が潰れていて一時阿鼻叫喚と化しておりました。その後、死体は消えていましたけど」
「あ、そのすいません」
ゲームの世界だけど、ほかのプレイヤーもいたかもしれないし迷惑かけちゃったかな?ていうか、頭が潰れてってグロ!ゴア表現の緩和を願いたい。
「いえ、カジさんは悪くないですよ。悪いのは巻き込んだ金級冒険者の方です。いくら復活することができる異世界人でも許されることではないです。それで金級の彼らから謝礼を預かっておりまして。カジさんが来たら渡しておいてほしいと」
メアリさんは受付のカウンターの下から袋を出す。
「この中身は?」
「この中身はスキル強化の実です。これを食べればスキルのどれか1つを強化できるレアアイテムですよ」
袋から出して見せてくれる。袋から出た実はイチゴの色を黄色にして巨大化したような見た目だ。
「ほお、これが」
すかさず鑑定を使う。
『スキル強化の実
ランク10 品質A 重量1
この実を食べるとスキルを1つ強化可能。強化したスキルは以前のスキルとは隔絶した強さとなるだろう。』
……これやばいんじゃ。
俺は大いに驚く。
これって絶対魔物1体も倒したことないプレイヤーが持つべき物じゃねぇわ。
「全く、謝罪の1つもないなんて、なってない人達ですね」
いやいやメアリさん。これは謝罪よりも何倍も価値があるわ。これなら殺してくれてありがとう!まで言えるわ。……あれ?俺、別にMではないんだが。
「まあ、謝罪は別にいいですよ。それより罠のスキルの実験したいんですけど、そういう場所ってありますか?」
「あぁ、そういうのは実験室ですね。実験室はあちらです」
メアリさんは左の方を指差す。そこには扉があり、扉の真ん中には実験室と書かれたプレートが下げられている。
「あ、ほんとだ。ありがとうございます、メアリさん」
「なんてことないですよ。あと、金級冒険者の2人については許してやってください」
「ええ。じゃあ、行ってきます」
「お気をつけて」
メアリさんに頭を下げた後、実験室に向かう。
実験室のドアを開ける。
「うぅ、臭ぇ」
ドアを開けると薬品の刺激臭や臭気が鼻を突き抜ける。いくつかの薬品を混ぜた変な匂いもする。
中を見るとマスクをつけた人たちがフラスコの前に座り、薬品などを入れて混ぜ混ぜしていた。他には薬草のようなものをすり鉢でゴリゴリと擦った後、粘着性のある液体を混ぜている。さらに他にはひらひらとした黒いローブを着た老婆が大釜の前に立って大きな匙でぐるぐる混ぜている。まさに魔女って感じだ。
「おおぅ」
これは俺がいていい場所なんだろうか。文系なんだが、俺。
周りをチラチラ見ていると練習室と書いてある矢印がある。俺のスキルはそっちでやった方がいいだろうと矢印に従って行く。
行って見ると、大きな扉に出会う。手を当てて力を込めるとギィーという音とともに室内の様子が見えてくる。
「おおぅ、こっちもすごいな」
そこは全部石で作られた部屋であった。広さは、学校の体育館20個分はありそうな広いスペースとなっていた。冒険者ギルドよりも大きな場所となっているが、こんなスペースは外から見てもなかったように思う。
こう、魔法の力でなんかしてるのだろうか?
ともあれ、そこで沢山の人が練習もとい黒魔術をやっていた。いや、見てる分には本当に黒魔術なのだ。剣を浮かして高速で動かしていたり、ヤギ頭の悪魔みたいのを呼び出していたり、スライムのような粘着性のありそうな物体を無限に増殖させていた。
また魔境に来たかと思いながらも左端に移動し、罠スキルを試す。
「罠生成!」
罠生成を唱えるとウィンドウが現れる。
『罠生成
トラバサミ 必要時間 5秒
鳴子 必要時間 10秒』
これで作りたいものを選択すれば良いのかな?
トラバサミを選択する。
両の手のひらからなんらかの力が集まってきている。俺は手のひらの力を強く意識する。すると次第に手のひらに熱が帯び始め、バチバチと電流のようなものが流れる。
辞めずに力を込めるとピカッと一瞬光って空中に光る玉が出る。その光る玉は次第に小さくなっていき、最後にはなにかが飛び出してくる。
俺はそれを慌ててキャッチして見る。それはトラバサミであった。
トラバサミを実際に見たことないが、ゲームのような歯がとってもギザギザしていて痛そうな見た目をしている。
「おお、できた!」
『罠生成レベルアップ!1→2』
罠生成を使えたので、罠設置を使おうとすると何やら声が聞こえた。
「おーい、そこの君」
声がした方を見ると、手を振って俺に近づく男が見えた。髪が短髪で中性ぽい顔の獣人だ。頭の上にピョコと耳が生えている。
こんな人、俺は知らないから罠設置の実験をしようと後ろを振り向くと、
「無視しないでよー」
という声が聞こえる。そしてまた振り向くとさっきの獣人がはぁーと息を切らして立っていた。
「あなたは?」
「ちょ、ちょっと、まっ、て。」
息が上がっていてうまく喋れてないので少し待つ。
「ふぅー、ごめんね。僕はカラル。金級冒険者だよ」
と胸を張って言う。
「えっと、僕はカジ。金級冒険者の人がどうしたんですか?」
ちょっと警戒気味に言う。
「そんな警戒しないでよー。さて、本題に入るんだけど」
「本題ですか?」
「うん。大事なことさ」
カラルは少し神妙そうに言う。
「君ってさ……罠のスキルを持っているの!?」
カラルはなぜかいきなりテンションが上がった声で聞いてくる。
「えっ、罠のスキル、ですか?」
「うん。そうそう、そうそう。罠だよ。罠のことだよ。さっき見たよ、君が罠のスキルを使ったの。この目でしかと私は見たよ。見間違いなんてありえないよ!」
そう彼は早口に言う。とっても嬉しそうにはしゃいでいる。俺と同じぐらいの身長だが、子供のようにはしゃいでいてちょっと引く。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。どういうことなんだ?」
すると、カラルはピタッと止まる。
「え?知らないの?」
「知らないってなにが?」
「巷じゃあ、罠スキルをとっている人がほとんどいないってこと」
カラルは結構衝撃的なことを言う。
「え?そうなの?」
「うん。まあ、罠スキルはちょっと欠陥が多いからね」
「欠陥って?」
「例えば、罠は事前に作っておかないといけないから罠を切らすと使い物にならない点や、一度設置したら使わないと外せないってこと」
「うわ、大きい欠陥だな。特に2つ目。設置したらずっと残ってしまうってことか?」
「うん。だから、君がさっき使っていたトラバサミを自分で外すには枝とか石を使わないといけないねー」
「トラバサミぐらいだったら普通に解除出来そうな物だけどな」
「うーん、それは魔力で作った罠は解除できないんだ。使わなかった罠は外せないっていうより、発動させないと消えないって感じかな」
へえー。結構有意義なことを聞いたな。 それにしても罠スキルはあまり使えないのか。
「ご指導ありがとうございました」
「あっ、うん。……って違う違う!」
後ろを向き逃げようとすると肩を掴まれる。
「何か?」
「何か?じゃないよ!」
「はあ」
「君は罠を使うつもりだろう?」
「そうですね。では、さようなら」
また後ろを向くが肩を掴まれる。
「カラルさん、離してください。僕のめんどくさい人センサーがビンビン反応しています。ていうか、あなたは何をしたいんですか?」
「罠を使う人に先輩ぶりたいんだよ!」
「えっー」
ただ先輩ぶりたいだけなの。
「そう言わないで。君、罠だけ使うんでしょ、でしょ!」
「いや、剣も弓も使うつもりです」
「えっ!うそぉ……」
俺が剣も弓も使うと言っただけでテンションがく落ちしたな。腰とか背中に剣と弓持っているの気づかないのか?
「だけど、罠使うよね…?」
「ええ、そのつもりです」
「だよね!」
テンションがぐんと上がっている。なんなんだ?
「カラルさんは罠だけ使うスタイルなんですか?」
こういうのは作戦[喋らせて飽きらせよう]でいこう。
「うん、そうだよ。私は罠だけで金級冒険者に上がった男!人呼んで…」
カラルは1拍会話を開ける。だが、1拍開いた後も喋らない。
「ひ、人呼んで?」
合いの手を入れてみる。
「人呼んで…なんだっけ?」
こいつ……。
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