暗躍するモノ
@kerutonohoshiyomi
第1話 暗躍するなら合理的でいたい。
深夜二時。
車も人の通りも少なくなった環状八号線をひたすら走る。
50m先には四肢に傷を負い、明らかに動けそうにない外国人の女。
ただ、普通の女ではない。テロ組織に与する大規模テロのための工作員。
一時間ほど前、彼女がテロのために爆弾を道路脇に埋めている最中、俺が見つけ、排除を開始し、今に至る。
彼女はもちろん抵抗した。
彼女は力を持っていた。それは、500万人に一人しか持たない極めて稀で特殊な遺伝子。
その遺伝子とは、未来(十秒先等、個人差アリ)を見る、いわゆる未来予知の遺伝子。
そして彼女はそれに加え、未来予知を持つものにしか扱えない特殊で強力な武器も持っていた。
武道の達人曰く、その武器は強力なかわりに、未来を見ることの出来ない者には扱えず、もし扱えば所有者自信の体も木っ端微塵になる、という。
そして、能力を持つ者が扱えば、最強にいたらしめられる、と。
つまり、彼女は彼女の与するテロ組織では、いや、大半の人間の中で最強であったのだろう。
それにより、一人で任務を遂行できると思っていたのだろう。
俺も同じ能力を持っているということが彼女の計算違いだったのだろう。
俺はゆっくりと彼女に近づく。彼女は怯えたように、恐怖に染まった顔を向ける。
……つくづく思う。こんな表情は見たくないと。
そして死の宣告をする。
「すまないが、死んでくれ。」
外国人だからか、日本語はわかっていないだろうが、俺がどういったことを言ったか、ニュアンスは理解したらしい。
「Пожалуйста.
У меня есть ребенок в моем родном городе. Пожалуйста, простите меня.」
それは、悲痛な叫びだった。子供を守る母のような……。
ちなみに彼女の目が光ってないことから、彼女が能力を使ってないことがわかる。きっと見たくないのだろう。自身の確定した未来を。
右手に力を込めて、後ろに振りかぶり、せめてもの慈悲として、頸を一思いに跳ねる。
少しの弾力じみた抵抗感が手から伝わる。
人を斬る感触は、慣れそうにない。
本当にいやな仕事。
自己嫌悪で頭がおかしくなりそうだ。
ポケットからスマホを出し、電話をかける。2コールピッタリで、電子音の応答がある。
「はい、要件は、なんで、しょう?」
「現在位置は、環状八号線。死体の片付けを頼みます。」
「了解、しま、した。」
これでよし。今日はこれ以上何も仕事はない。帰ろう。ちなみに俺は高校生なのでこの時間帯は警察に見つかれば補導される。
家までここから3km。警察のパトロールの目から逃れながら家に帰る。ゲームに近い。
ただ、よい子は真似しないでね。というかよい子はこんな時間、外にいないか。
パトロールの目から逃れるにはコツがある。一つ目、抜け道や細い道を使う。二つ目、まわり……まあ、俺は自分の能力(未来視的なやつ)を使えば楽勝なんだが。
そうして、家の前まで隠密行動(失笑)で移動し、扉を開け家に入る。
家の扉を開け、リビングに入った瞬間、怒号が聞こえてくる。
「おい!、夏!、何してたんだ!」
「夏?何してたの?」
あからさまに怒った声と、ヒステリックな声。父と母だ。ちなみに夏とは、俺の名前。
父と母にはさっきのような事は、それに関係することも、何も言っていない。上の人曰く、一般人に言えば、どんなことになるのかはわからないとのこと。十中八九必ず誰かが死ぬらしい。
まあ、合理的に考えると俺という暗殺者的な存在が一般人に何らのことがきっかけで伝わった場合、俺にいいことはない。
例えば、海外のそっち系の人から命を狙われたり、有名になりすぎて、身動きがとりにくく(隠密行動の時にすぐばれる)なったりと。
俺の勝手な判断だが、世の中のヒーローはウソっぱちだ。アソパソマソや、反面ライダーを見てるとヘドが出る。
本当に人を救う者は、自己顕示をしない。
ちなみにウルトラマソは身バレしていないっていうので親近感がある。
本当のヒーローは孤独なのだ。それが真の自己犠牲の形。
そう、愛するものが死んでしまった、もしくはいない、それがヒーロー。
ちなみに俺に友達がいないのも、その精神を貫いているか……らだ……。……そう思いたい。
「今日も学校行ってないでしょ?なんで行かないの?いじめられてるならそう言って?何が不満なの?あ!わかった!外でゲームしてるんでしょ?いっつもスマホいじってるし!学校の先生に、それ伝えたらちゃんと学校に来ないなら退学にするっていわれたよ?いいの?」
ヒステリックな母の声。こっちは疲れている。憶測だけでものを語るのはやめてほしい。しかも、退学て、憶測だけでものを語られて、そこまでいくのはマズイ。
ただ、保護者と児童、教師から信頼があるのは学校をサボりがちな児童より、保護者だ。正直うんざり。だけど事情は言えないから、弁明するしかない。
「いや、違うんだよ。あの……。」
「違うって?何が違うの!?私何か間違ってた?言いなさいよ!」
弁明しようにも、こうなる。しかも、こっちは本当の事情を言えない。
それにしたってちょっとは理解してほしい。思春期の少年には、事情の一つや二つはあるものだし。
まあほぼほぼ毎日のことだから、俺が悪いのが大半だけど。
一方父といえば、めんどくさがって寝る準備をしだしている。俺としては、そういう反応の方がありがたい。ナイスファザー。
「次もまた同じようなことがあったら警察に相談するからね?」
「ごめんなさい。」
母がうるさいしめんどくさいが、やはり俺が悪いから、謝るしかない。
とはいえ、明日は朝から静岡県の方に行かなければいけない。
また、同じようなことになるかもしれないなと、両親のお叱りから解放されて、家の二階にある自分の部屋に行く途中、思った。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
部屋につくなり、深夜三時。母のヒステリックな声のせいで疲れていたが、寝ることはできない。明日の任務は、結構重大だから絶対に寝過ごせない。
いつもはこんなに任務は立て込んでいないのだが……。疲れる。精神的にも、身体的にも。
憎んでもいない人を、日本の国防のために殺す。相手は大抵、国際犯罪者とはいえ、やはり自己嫌悪で頭がおかしくなりそうだ。
冬……。なぜか涙が出てきた。疲れていると、涙腺までまともに機能しなくなるのかもしれない。
窓を開け、夜風に浸る。音はなく風が木を揺らす音が響く。ふと、イヤホンを耳にはめて、ケルト音楽を流してみる。俺のお気に入りの夜の過ごし方。こうしていると、この苦難に満ちた現状から少し解放される気がする。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
そして翌朝早朝、両親にばれないよう、外に出る。そして今日も始まる苦難に満ちた生活だった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
さて、俺の仕事は未来を読む特殊な能力を持つテロリストや暗殺者、スパイを抹殺することだ。
この年齢で何故そんなことをしなければならないのか……それには訳がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます