第2話

   

「ほら、ゆうこ! こんなところで振り回しちゃダメだよ」

 無人駅の改札を通って、ホームに向かって歩いてくるのは、二人組の少女たち。一人はボーイッシュな短髪で、もう一人はセミロングだった。

 お揃いのセーラー服を着ているので同じ高校の生徒らしいが、この近辺に高校なんて存在しないはず。学校行事で訪れたのだろうか。


 友人から『ゆうこ』と呼ばれたのは、ボーイッシュな髪型の方だった。セミロングの友人の言葉通り、木刀のようなものを振り回している。

 ちょうど学校行事の可能性を考えたばかりなので、「修学旅行のおみやげで木刀を買い、早速振り回して遊ぶ学生」というシチュエーションを思い浮かべてしまう。しかし、すぐにその想像をかき消した。

 修学旅行の行き先として、こんな辺鄙な田舎を選ぶ高校なんてありえないからだ。そもそも彼女が振っているのも、木刀にしては長すぎるではないか。

 アイスホッケーのスティックのように、先端が少し曲がっている形状だった。いや「曲がっている」というよりも「っている」というべきかもしれない。その程度の微妙な曲がり方だ。

 しかも、ゆうこだけでなくセミロングの方も、同じく長い棒状の物体を手にしていた。ただし剥き出しではなく、細長い布袋に入れた状態だ。まるで釣り人が釣り竿を持ち運ぶみたいだが、ここは海も川も遠い山の中であり、そもそもセーラー服のまま釣りをしたら汚れるだろうから、釣行というのも当てはまらないはず。


「大丈夫だよ、どうせ誰もいないし……」

「その考え方がダメなんだよ! 今朝も『誰もいないから』って廊下で自主練して、怒られたばかりでしょ?」

「あれは先生が厳しすぎるよ。廊下だって合宿所の一部なんだし、だったら……」

「ダメダメ! 練習は道場のみ! それが部活の基本だよ!」

 どうやら二人は、部活の合宿の帰りらしい。

 なるほど、私も学生時代の部活では、合宿として何もない田舎へ行かされた覚えがある。練習しか出来ない環境になるので、辺鄙であればあるほど、合宿には適しているのだ。

 しかし普通、合宿ならば引率の教師がいるはずであり、部員だって二人だけでは少なすぎると思うのだが……。

   

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