ゆうどう
生糸 秀
ゆうどう
僕は、冷めているやつだ。自分でもそう思う。
「文化祭楽しみだな!!みんなで盛り上がろうぜ!!」
とか、こういうノリについていけない。
「浜本、最近調子はどうだ?みんなと仲良くやってるか?」
先生は、そんな僕のことを気にしているようだ。
「別に、普通ですよ。」
「そうか、普通が一番だな。ガハガハ。」
先生は、ガハガハと笑う。そんな笑い方初めて見る。でも、どこか懐かしい気もしている。なんでだろう、どこかで見たことがあるのかな?そんなことを考えていると、
「明日の文化祭だけど、浜本ちょっとギター演奏してくれない?」
と、先生が急にふっこんできた。
「え?なんで急に?というか、僕がギターやってるってなんで知ってるんですか?」
僕は実は、ギターが趣味で家でこっそり練習している。でも、学校では帰宅部だし、秘密にしてるから、だれにも知られていないはず。なのに、なんで先生は知ってるんだ?
「いや~、文化祭中にステージいっぱいあるだろ?そのうちの一個で、俺歌う予定だったんだよ。でも、ギター弾いてくれるって言ってたやつが、急に他の予定が入ったとか何とか言ってきてさ。頼むよ。」
「いや、無理ですよ。なんでそんなことしないといけないんですか。僕、そういうの一番嫌いなんですよ。目立つの好きじゃないんで。」
「でも、頼めるのお前くらいなんだよ。軽音部のやつとか、もうステージの予定パンパンでさ。」
「いや、だから無理ですって。ていうか、なんで僕がギター弾けるの知ってるんですか?」
先生はにやりと笑って、
「お前のことは、何でも知ってるよ。じゃ、明日13時に6番ステージで待ってるから。」
と言い残して、去っていった。
こまった。もちろん、弾くつもりはない。でも、僕はあの先生が結構好きだ。なんでか知らないけど、めちゃめちゃ親近感がわく人だ。だから、そんな先生の頼みは断りたくない。でも、文化祭でギター演奏するとか、チョー寒い奴って思われるじゃん。
その日の夜は、明日どうしようか悩んで眠れなかった。でも、次の日僕はギターをもって文化祭に行った。
先生の歌聞いてみたいし、別に僕がメインじゃないし、言い訳をいくつも頭の中で呟いて、学校に向かった。
「え?浜本ギター弾けるの??弾いてみてよ!」
案の定絡まれた。いつも、すかしてる奴認定の僕が、文化祭でギターを弾くとなれば、クラスメイトも冷やかしに来る気満々だろう。
「いや、滝乃先生に弾いてくれって頼みこまれたから、仕方なく。」
僕は、顔を見られないように、必死に下を向いて、それだけ答えた。今僕の顔、絶対赤い。クラスメイトの顔、見れない。
「へー、そうなんだ。」
「てか、滝乃先生って誰?」
「さー、知らね。」
僕に絡んできたやつらは、案外そっけなく、そのままどっかに行った。滝野先生は、僕らのクラスの授業を持ってないから、知らない人もいるようだ。
13時になった。僕は約束のステージに向かった。
「おーい!浜本!!待ってたぞ!」
先生は、ニコニコして、こっちを見ていた。
「いや~、お前ならやってくれると思ってたよ。ガハガハ。」
僕は、いや、別に、とか何とか言いながら、先生の隣で、6番ステージの様子をうかがった。
・・・客いなくね?6番ステージは、ぽつぽつと3.4人の客が入れ代わり立ち代わり、見ているだけだった。
「そりゃ、”6番”なんだから、そんなもんだろ。ガハガハ。まあ、だからお前を呼んだってのもあるけど。」
先生は、僕の視線を見て、そういった。僕は、なんだか、拍子抜けした。文化祭のステージってもっと何十人も人が見てるもんだと思ってた。でも、3.4人って・・・目立ちたくはないけど、さすがにそれは少なくない?なんか、大勢の前で、ギター演奏して、え?浜本ギターできるの?すげー!ってなるの、ちょっと期待してた自分が恥ずかしくなってきた。
「よし、次俺らの番だ。行くぞ。」
先生は、そういうと、ぐんぐん進んで、ステージに立った。僕は慌てて、後ろを追った。
先生から言われてた曲は、原曲は、ギターだけの曲だけど
「歌詞は、俺が適当に作った。ガハガハ。」
と先生が言っていたから、適当に歌うんだろう。まあ、僕は、ギターを演奏すればいいだけ。
舞台上で、チューニングを少しして、客席をちらりと見る。相変わらず、人は少なく、知り合いもいない。
よし、まあラッキーかも。知り合いもいないし、客も少ないし、目立たないだろ。
はーっ、と息を吐き、演奏を始めた。
ジャーン。ジャカジャカ。ジャンジャンジャーン。
思ったより、緊張せず難なく弾けている自分がいた。この曲は、ギター演奏者にとっては有名な練習曲とでもいうべきもので、僕も、ギターを始めたばかりのころに良く弾いていた。
ジャンジャンジャーン。ジャカジャカジャーン。
僕結構うまくない?客席からは、パラパラ拍手も聞こえてきた。楽しいかも。僕、人前でるの結構得意なのかもしれない。
そう思って、パッと横を見ると、先生がいるはずの場所には、だれもいなかった。
急にパニックになった。そういえば、先生の歌声聞こえないなーとか思ってたけど、演奏に夢中で、気づかなかった。
客席を見ても、先生の姿は見当たらない。
なんで、先生いないんだ。どこに行った?でも、演奏の手を止められなかった。聞いてくれている人、いるし。変な使命感から、僕は、演奏を最後までやり切った。
相変わらず、3.4人しかいなかったけど、お客さんは最後まで聞いてくれていて、ぱちぱち拍手をしてくれた。
でも、僕は急いでステージを降りた。
「滝乃先生~!」
そして僕は、先生を探し回った。周りにすごい目で見られても、大声で叫んで探し回った。
「浜本、だれ探してるんだ?」
クラスメイトに呼び止められた。
「滝乃先生だよ。見なかった?」
そいつに尋ねると、
「は?だれ?それ?何先生?」
と、そいつは不思議そうに僕をみた。
「いや、滝乃先生は滝乃先生だよ。ほら、ガハガハ笑う。あのー・・・」
と、そこまで言って、はっと気づいた。滝乃先生って、なんの教科の先生だっけ?
あの先生の授業受けてないのに、なんで、僕あの先生のこと知ってるんだっけ?
あれ??そう考えると、僕はあの先生について、何にも知らないことに気が付いた。いつから知ってるのか、何の先生なのか。なんで僕がギター弾いてるのを知ってるのか。
思い出そうとしても、先生に関する記憶が、スカスカとつかめない感じで、何も思い出せない。どうしてだ。思い出せない・・・
結局、あの先生について何も思い出せず、数日が経った。
先生はそれ以降、姿を消した。というか、もともと、存在しない人だったのかもしれない。学校の、誰に聞いても、先生を知らないと言うから。
ガハガハ笑う、滝乃先生。
それだけしか、思い出せない。でも、僕の好きな先生だった。
あれは、もしかして僕の妄想か?いや、いや、それにしては鮮明な・・・いや、でも本当に誰も知らないなら、周りからは確実にそう思われてるよな。
あのステージの後、浜本君ギター上手なんだね!とクラスの子に言われて、ちょっと嬉しかった。意外と冷やかしてくるやつはいなかった。
案外ああいうのおちょくってくるやついないんだなと知った。僕も、すかした感じで構えてないで、ちょっとはノリに乗ってみてもいいかもしれない。人前で演奏するの結構楽しかったし。そう思ったこと、滝乃先生に伝えたい、感謝の気持ち伝えたい、って思ったのに・・・
「ガハガハ。」
先生の笑い声が聞こえて、パッと後ろを振り返った。
・・・誰もいなかった。空耳だったみたいだ。先生どこ行ったんだろう。
それから、数年たったけど、一度も先生に会うことは無かった。
チーン。
僕は、仏壇に手を合わせて、ふと父親の遺影に目をやった。
そこには、ガハガハという笑い声が聞こえてきそうな、父の笑顔が収められていた。
ゆうどう 生糸 秀 @uisyu
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