罪を負わせてしまった
悪夢ならどれだけいいかと願っていた日から翌日。
テレビやネットでは、とある男女二人が重傷を負ったというニュースで持ちきりだった。犯人の行方はいまだに掴めておらず、捜査が続いているらしい。これが俺の住んでいない県の、あるいは遠くの街であればただふーんと流すだけだったんだろう。
でも、このニュースは真衣の家の近所で起こったと報じられていた。二人揃って、真衣の家の裏道で刺されたらしい。つまり、あの時見た花蓮の返り血は……。
「……覚悟を決めよう」
正直、学校には行きたくない。真衣のことで色々と聞かれるだろうし、二人が一緒に家にいたと言うのは、浮気されていたことを示唆するには十分すぎる事実。きっと俺は、哀れみの目で同級生から見られてしまうだろう。
それでも、俺は花蓮と話さなくてはいけない。真実を知って、花蓮とこれからについて話し合わないと……このまま俺はズルズルと事を引きずるだけだ。
そうしてなんとか学校に行く気力を沸かせて、俺は登校した。案の定昨日事件にあった奴らの彼氏であり友達である俺はいろんな人から好奇の目で見られてしまい、普段なら話しかけてこない人からも声をかけられる始末。俺は早く花蓮のところに行きたかったんだけど、この調子だと放課後花蓮にまで迷惑をかけかねない。
だから俺がようやく花蓮と会えたのは、放課後になってからだった。
「ずいぶんと人気者でしたね、先輩」
部室に行くと、普段と何も変わらず執筆を続けている花蓮がいた。昨日あったことなんて花蓮にはなかったかのように落ち着いているその様は、とても俺には理解できるものじゃなかった。
「……なんで、そんなに落ち着いているんだ?」
「先輩のお役に立てたからですかね」
「……じゃあ、やっぱり」
「ええ。私があの二人にちょっとしたお仕置きをさせてもらいました」
淡々と、平然とした顔で花蓮はそう答えた。どうして人を痛めつけた事をそんな普通に語るんだよ、いくら俺のためとはいえ、そんな……。
「……本当に、ごめん。俺のために……花蓮の手を汚させちゃって」
「先輩が気にすることなんてありません。あの二人は当然の報いを受けただけですから」
「……」
人が人を痛めつけることなんて、本来なら許されることじゃない。個人的な感情に任せてそんな事をするのは、罪人の行いだから。
これから花蓮は警察に捕まってしまうのだろうか? そりゃそうだよな、二人に重傷を負わせたからには、逮捕されないわけがない。でも、そしたら俺は信頼していて、大切な後輩である花蓮とまで一緒にいられなくなる……。
俺が罪を負わせてしまったから。花蓮がしなくていい事を、俺はさせてしまった。その後悔が俺を襲い、震えが止まらなくなる。覚悟はしていた。でも、それを受け止めきれるほど俺は強くなかったらしい。本当に情けない、後輩にこんなことさせてしまって……。
「先輩」
「……か、花蓮?」
ぎゅっと、花蓮は俺のことを包み込むように抱きしめる。
「私は、私があの二人を許せなかったからしただけです。先輩は何も悪くないんです、被害者なんです、先輩は。だから、自分のことを責めないで」
優しく抱きしめながら、花蓮は俺の耳元にささやく。その言葉が俺の心に染み渡り、また俺は泣き出してしまう。そう言ってくれる花蓮の存在が、本当に嬉しくて、先輩として俺が引っ張らなくてはいけない立場なのに、今の俺はとことん花蓮の優しさに甘えていた。
「……花蓮」
泣き終わり、改めて花蓮の顔を見ると心臓がドクンと鳴る。それに、今まで普通に、後輩としてみることができていた花蓮に視線を合わせるのが恥ずかしくなっていた。
すぐに俺は理解した。もう花蓮は俺にとって、可愛い後輩では留まらない存在になったんだって。
「先輩、私はずっと先輩のことを愛しています、あんなクズみたいに裏切ったりしません。だから……」
その感情を、花蓮は察したのか。それとも、元々俺に抱いてくれていた好意を今ぶつけるべきだと思ったのか。恥じらいつつ、花蓮は俺に告白をしてくれた。
「……ああ。絶対、これからずっと花蓮のことを守るよ」
お互いの顔を見合わせて、俺たちは互いに抱きしめあう。
「大好き……大好き、大好き……先輩……んっ」
本能的に、溢れ出る好意を抑えられなかったのか俺たちはキスをしてしまう。あの時見てしまった、二人のキスと同じ、いや、それ以上に激しく舌を絡ませながら、お互いを求め続ける。そのキスは、真衣と初めてした時よりもずっと気持ちよくて、ずっとしていたいと思わせるような快楽を味わってしまった。
もう、俺は何も失いたくない。花蓮がやったことが人間社会の中では悪であろうとも、俺は絶対花蓮を守る。
「ずーっと、一緒にいましょうね……先輩」
「ああ……ずっと一緒にいよう、花蓮」
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読んでいただきありがとうございます!
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