返り血を浴びながら、笑っていた
「……あ、あれ?」
気がつくと、俺は公園のベンチで横たわっていた。もうすでに辺りは真っ暗で、照明が壊れているのか公園の周りには全く明かりがなく辺りがよく見えない。
確か、花蓮がどこかに行こうとするのを止めようとしたら、いきなり経験した事のない衝撃が身体に走って、そこから記憶がないんだよな。そうだ、花蓮! 花蓮は今どこに……。
「あ、起きられましたか先輩」
物音一つしない静寂の中で、聞き慣れた声が俺を呼ぶ。どこにいるのかと思い辺りを見回してみるも、どうも見当たらない。
「後ろですよ」
「うわぁ!?」
正面の辺りをキョロキョロしている俺をからかうように、花蓮は後ろからチョンっと俺の頰をつついて俺をびっくりさせる。なんて心臓に良くないことをするんだ……もうこれ以上びっくりしたくないのに俺は。
「可愛い反応ですね、先輩」
背後から正面にやってきて、どうやらクスッと花蓮は笑っているようだった。
「あ、あのなぁ……いるなら早く言ってくれよ」
「ごめんなさい先輩。寝ている先輩の姿がとっても可愛かってので、ついつい見惚れてしまいました」
「嘘つけ、絶対からかっただけだろ。……あのさ、花蓮。さっき、どこに行ってたんだ?」
恐る恐る、俺は花蓮にどこへ行こうとしたのか聞く。あの時の花蓮は、何かを決意したかのようだった。だから、俺の話を聞いて二人のところに行ったんじゃないかって予感させられてしまったから、聞かないではいられない。
「どこにとは?」
花蓮は素直に答えない。
「お、俺がなんでか気絶する前に、お前がどっか行こうとしてただろ!? まさかだとは思うけど、お前が……二人のところに行ったんじゃないかって思って」
「行っていたら、先輩は嫌でしたか?」
その口振りは、俺の予感を否定していなかった。暗闇の中、花蓮がどんな表情をしていたのかはわからなかったが、静かに語る花蓮の声は、酷く冷たいののだった。
「先輩は、許せるんですか? あの二人のこと?」
「そ、それは……」
「私は許せません。先輩をあんなに泣かした人たちは、しかるべく罰を受けるべきなんです」
いつも冷静で、客観的で、俺よりも大人びている花蓮らしからぬほど、感情的なその言葉は俺に反論する余地すら与えない。いや、その意見に納得しているだけなのかもしれないが。それでもやっぱり、罰を与えるなんて人間として許されることじゃ……。
「でも先輩。もう、安心してください」
「え……!?」
壊れていた公園の消灯が突然動き出し、辺りが明るくなる。そこで俺は、今まで暗くて見えなかった花蓮の顔が見え、それに驚きを隠すことはできなかった。
見る人を魅了する綺麗な顔立ちである花蓮の両頬、そして首元が、真っ赤な血しぶきを浴びていたのだから。その光景はあまりに衝撃的で、俺は言葉を詰まらせてしまう。どういうことだよそれ……か、花蓮は一体、何をしたんだ!?
「おっと、返り血を拭き忘れていました。すみません先輩、ちょっと怖かったですかね」
返り血を見られたにも関わらず、花蓮は焦る様子なんか一切なく、むしろニコッと笑っていた。花蓮がたまに見せる、可愛い笑顔だというのに。返り血を浴びた状態で見せるそれは……正直、怖かった。
「か、花蓮……な、なんなんだよそれは」
ようやく口が開いた俺は、花蓮のそれについて聞く。正直、その血が誰のものかなんとなく想像はできた。でも、本当にそうであれば花蓮は俺のために、罪を犯したことになる。それを受け入れる覚悟を、俺はしたかった。
「優しい先輩にはできないことを、私が代わりにしただけですよ」
「や、やっぱりお前……」
そのことについて問いただそうとしたとき、騒がしいパトカーのサイレンが辺りに鳴り響く。
「おっと、来ちゃいましたか。先輩、この話はまた明日しましょう」
「か、花蓮!」
それを聞いた瞬間、花蓮はどこかに行ってしまった。追いかけようとするも、気づいたら花蓮のことを見失ってしまい、どうすることもできなかった。本当に花蓮が……いや、まさか……でも……。そう、頭の中で何度も何度も自問自答するも、答えなんてわかるはずもない。仕方なく、俺は家に帰ることにした。
その途中、パトカーのサイレンに呼び寄せられた野次馬が大勢いた。嫌でも聞こえてくる噂話は、俺の予感をどんどん確信に迫らせてくる。
「ねぇ聞いた、近所で事件があったらしいわよ」
「なんでもカップル二人が刺されたらしいね」
「男の方はあれ、切られたらしいよ」
「女の方もなかなかにやばいみたい」
それを聞きたくなくて、俺は駅まで走って向かった。今日が全て、夢だったらどんなにいいか、いつこの悪夢が覚めてくれるんだろうって、そう願わないではいられなかった。
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読んでいただきありがとうございます!
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