誕生日プレゼント


「先輩、スマホを見ながら何を悩んでいるんですか?」


 部活中、執筆の休憩がてらスマホをいじってあることを検索していると花蓮が話しかけてきた。


「ああ、真衣への誕生日プレゼントどうするかなって考えてたんだ」


「なるほど、だから薄気味悪くニヤニヤしていたんですね」


「え、そんな変な顔してたの俺?」


「はい」


 そう言われるほどに浮ついていたってことか……。でも仕方がないだろ、彼氏として真衣には喜んでもらえるプレゼントを渡したいし、誕生日に一緒に過ごすこともすごく楽しみなんだから。


「本当に、先輩は彼女さんのことが大好きですね」


 ため息一つついて、花蓮は呆れ顔をする。やっぱ側から見れば惚気過ぎなんだろう。花蓮にそう言われるとなんか恥ずかしいな……。


「ま、まぁ……う、うん……あ!」


「委員会が早く終わったから来ちゃった!」


 ガラガラと音を立てて、真衣が部室の扉を開けた。ニコニコと笑いながら俺の隣に座ってきた様子はもう本当に可愛くて、もう長い付き合いにも関わらず俺はついドキドキしてしまった。やっぱ俺の彼女可愛すぎる!


「先輩、とても嬉しそうですね」


「え、そ、そんなことは……あるかなぁ!」


「やったぁ! ほんと明彦は私のことが好きだねぇ〜」


 真衣はニヤニヤしながら俺のほっぺたをツンツンする。それにやり返すように、俺は真衣のおでこを人差し指でつつく。


「うわぁ! やったなぁ〜」


「へへ、先にやったのは真衣だろ?」


「ぶー、されて嬉しかったくせに。そういえば明彦、今は何してたの? 小説書いてなかったみたいだけど」


「あ、えっと、そ、そのー」


 しまった、誕生日プレゼントはサプライズで渡したいから出来る限りバレたくなかったんだけど……うーん、いい誤魔化しがパッと思いつかない。


「今は調べ物をしていたんですよ。小説の題材となるものをね」


 悩んでいる俺を見てか、花蓮がナイスフォローを入れてくれた。さすが花蓮、俺の意図をすぐに察してくれた。


「そうなんだ、小説書くのも大変なんだね。でさー明彦、今日は早く終わったんだけどしばらく友達の部活の手伝いすることになっちゃったんだよね。だから、文化祭終わるまでしばらく遊べなさそうなの」


「え、そうなの?」


 真衣の誕生日は文化祭が始まる一週間前。そうなると、おそらく誕生日当日には一緒にいられないということになるのか……。


「ごめんね、私も明彦と一緒にいたかったんだけど、どうしても断れなくてさ」


「ああいいよ、気にしないで。真衣には真衣の事情があるだろうし、俺は気にしないよ。じゃあ、真衣の誕生日を祝うのは文化祭終わってからにしようか」


「うん! 私、ピザとか食べたいなぁ」


「いいなそれ! 真衣の誕生日だし、俺が真衣の好きなピザ買ってあげるよ」


「ほんと! さすが明彦、大好き!」


「!?」


 ぎゅっと俺のことを抱きしめて、唐突に真衣は俺の頰にキスをした。あれ、初めてキスした時は、真っ赤になるぐらい恥ずかしがっていたのに、いつの間にこんな大胆なことをできるようになってたんだ?


「び、びっくりした……」


「えへへ、でも嬉しかったでしょ」


「ま、まぁね」


「やった! じゃあ私そろそろ帰るね。このままいたら、明彦全然小説書かなそうだし」


「う……わかった。じゃあまた、真衣」


「じゃあね!」


 嵐のように突然現れては消え去っていくように、真衣は思っていたより早く部室から出て行った。実際このままいられたら原稿全く進まなかっただろうから、真衣なりの気遣いなんだろうけど。


「見せつけますね」


「あ」


 しまった、花蓮の存在を忘れてた。他人のイチャイチャなんていう、側から見たら面白くもないものを近くで見せられたからすごく機嫌が悪そうだ。


「ほんと、先輩は彼女さんに甘いですね」


「そ、そうか?」


「ええ。でも、それが彼女さんにとっての良さなのかもしれませんが。それで、プレゼントはどうするんですか?」


「うーん、当日には一緒にいられなさそうだけど……やっぱり、プレゼントはその日に渡した方がいいよな?」


「私もそう思いますよ。それで、プレゼントの内容はどうするんですか?」


「……何がいいと思う?」


確実に喜んでもらいたから、俺のセンスが不安になって花蓮に聞いてみる。


「私に聞きます? ……でもまぁ、先輩がプレゼント失敗して落ち込まれるのも面倒ですし、次の日曜、一緒にプレゼント選びに行きましょうか」


「ほんとか!? ありがとう花蓮……恩に着るよ」


「いえいえ、それくらいは大したことではありませんので」


 こうして、俺は次の日曜は花蓮と一緒に真衣へのプレゼントを買いに行くことになった。どんなものを渡したら喜んでもらえるのか、もっと仲良くなれるかなとか、この時の俺は色々と頭の中で真衣とのこれからを考えていたと思う。



『う、うん……ちゃんとしばらく会えないって言ったよ。だから……もっとしちゃおうよ。え? そ、それは……す、好きだもん。明彦も好きだけど……それ以上に、私は——』


 真衣は俺とのこれからなんて、全然考えてなかったのに。


――――――――――

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