アリアは攻撃型のモンスターが欲しい
「来い、来い。攻撃スキルあるやつ、来い!」
物欲センサーまる出し。
どころか、思いっきり物欲を口に出しながら魔力を両手に集中させている。
地面に光る魔力の円。
早朝の森に漂う甘いバラのような魔力の香り。
別にドライアドに不満があるわけでは無い。
回復スキルは強力だし、植物操作も補助としては優秀だ。
だが、アリアはどうしても、攻撃型のモンスターが欲しかった。
ここにどんなモンスターがいるのか、
妖精や精霊はいるのか、
そんなこと、当然アリアは知らない。
これは
はたして、アリアの目の前現れたのは――。
齢、七十に至ろうかという老人だった。
白い髭を伸ばし、ナイトキャップを被っている。
手に持っているのは大きな白い袋。
少なくとも、物理攻撃は得意では無さそうだ。
だがしかし、見た目は老人でもモンスター。
まだ魔術攻撃ができる可能性は残っている。
袋を担いだ老人は、ゆっくり光の円に歩み寄る。
光の円は老人を包み込み、光球がアリアの身体へ飛び込んだ。
――――――――――――――――――――
【名称】ザントマン
【説明】
老人♂の姿をした精霊。姿を消すことができる。
袋の中にある砂は、他者を眠りへと
「早く寝ないとザントマンがくるぞ」
「ザントマンがくるとどうなるの?」
「眠りの砂でお前を眠らせるのさ」
「じゃあ、ザントマン来たら寝かせてもらうよ」
「………………」
【パラメータ】
レアリティ E
攻撃力 F
耐久力 E
素早さ D
コスト C
成長性 D
【スキル】
透明化
眠りの砂
――――――――――――――――――――
「あああぁぁぁ。補助型かああぁぁ!」
自分のほかには誰もいない森の中。
アリアはひとり、やるせない気持ちを灰色の曇り空に叫んだ。
「いや、嬉しい! 嬉しいんだけどっ!!」
そして突然のフォロー。
情緒不安定、というわけではない。
これはザントマンの気持ちを
せっかく、アリアを主人と選んだのに、
早々に要らない子だと言われたら、モンスターでなくとも気を悪くする。
「また、こんど挑戦してみよう」
落ち着いて考えてみれば、サンドマンのスキルはかなり強い。
敵を眠らせてしまえば、圧倒的に優位な状況を作れるのだから。
今は新たなモンスターの加入を純粋に喜ぶことにした。
アリアはその場でゴロンと寝転んだ。
がっつり持っていかれた魔力回復のためだ。
召喚契約は大量の魔力を消費する。
モンスターを呼び寄せるあいだ、魔力を垂れ流しているのだから当然だ。
ラキスと一緒に守護者になってから、もう一週間が経過した。
あっという間のような、長かったような。
その間、禁足地への侵入事案はたったの一件。
しかも
アリアは侵入者が埋葬された場所を、花で飾り付ける『弔い』の仕事をした。
逆に、それ以外はなにもしていない。
獣を狩り、温泉に入り、獣を食べ、早々に寝る。
安定しているが面白味には欠ける生活。
あっという間だと感じているのは、
毎日に変化がないから。
長かったと感じているのは、
一日中やることがないから。
アリアはもうこの生活に飽きてきていた。
これなら王宮の方がまだ刺激的だった。
ちなみにラキスは、
「俺が求めていたものはこれだ」と言っていた。
曇り空を見上げたまま、アリアはため息とともに独りごつ。
「なにか面白いことないかな」
我ながら、なんとも
しかも自ら動くつもりはなく、ただ待っている。
そもそも『面白いこと』とはなんだ。
カサリ。
アリアの背後、茂みの方で物音がした。
(もしかして、またウリ坊?)
一週間前の黒歴史を思い出して、アリアの顔が不意に熱くなっていく。
(今度は、ドライアドを呼ばずに仕留めてやる)
予想だにせず訪れた、汚名返上の絶好の機会ではないか。
ドライアドであれ、ザントマンであれ。
モンスターの力を借りず、
そうすれば、あの黒歴史を闇に葬れる気がした。
茂みに動きはない。
とすれば、まだ先ほどの場所にじっとしているに違いない。
アリアは音を立てないよう、静かに茂みへと近づいていく。
これ以上近づくと、気づかれてしまうかもしれない。
やはりドライアドを召喚すべきか。
アリアはひとしきり悩んで、はたと気づいた。
「うわ。ドライアドを召喚する魔力が残ってない」
先ほどの召喚契約で失った魔力が回復するには、圧倒的に時間が足りない。
ならばどうする。
先ほど手札に加えたばかりのサンドマンか。
眠りの砂を使えば、簡単に仕留められそうだ。
ドライアドよりは召喚に必要な魔力も少ない。
しかしサンドマンを召喚すれば、
そして眠りの砂のスキルを使えば、
おそらくアリアの魔力はほとんど底をつく。
魔力切れ特有のダルさ。
眠気と軽い吐き気、さらには動悸まで伴うあの感覚はできれば遠慮したい。
(ダメでもともと。召喚無しで、やるだけやってみよう)
アリアは初心にかえり、
手に持った短刀をギュッと握りしめる。
そして茂みに近づくと、「えいっ」と勢いよく茂みの中へ飛び込んだ。
だが残念無念。そこにウリ坊の姿は無い。
「あれぇ? 気のせいだったのかなぁ」
渾身の一撃は、空振りに終わった。
周りに誰もいないとはいえ、どうにも気恥ずかしい。
アリアは、後頭部をポリポリとかき、羞恥心を誤魔化そうとする。
上を見上げると、雲の色が濃くなってきていた。
もしかしたら雨が降るかもしれない。
「まあ、いいか。降られる前に帰ろう」
あまり遅くなって、探しに来られても恥ずかしい。
アリアは
しかし、その目に飛び込んできたのは、全身を黒装束で覆った『侵入者』だった。
反射的に後ろへと飛びすさり、短剣を横向きに構える。
黒装束の侵入者は一体何者なのか。
まずは本人に訊いてみることにする。
答えてくれるとは思えないが、それでも尋ねてみるのはタダだ。
もしかしたら、大サービスで教えてくれるかもしれない。
「お前、だれ――ガッ!!」
アリアの後頭部に衝撃が走った。
無防備だった背後からの一撃。
アリアは歪む視界の中で、首を後方へ捻った。
やはり、と言うべきだろうか。
そこには、もうひとりの黒装束の姿があった。
アリアは顔を横に向けたまま、かたい土の地面にうつ伏せで倒れた。
後頭部に感じる激痛。
この痛みのおかげで、ギリギリ意識を保てている。
「おい、まさか殺してないだろうな?」
「うんー。たぶん、いきてるう」
黒装束のひとりがアリアの首に手を当てる。
脈があることを確認すると、ほぅと嘆息した。
「脈はあるな。このまま小屋まで連れて行くぞ」
「うんー。わかったあ」
「…………。おまえが
「あー。そっかあ」
ゆっくりと喋る方の黒装束が、
アリアの身体を小脇に抱えて歩き出した。
(ボクはどこかに連れていかれる?)
黒装束たちの会話から、アリアは自分が置かれている状況を確認する。
(なんとかして、助けを呼ばないと)
この黒装束たちが、どうして自分を
しかし殺されなかったことは幸運だったと考えるべきだろう。
生きてさえいれば、打てる手もある。
アリアは黒装束たちに聞こえないよう、小さな声で「サモン」とつぶやいた。
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