世界と契約した異世界帰還者は契約違反を犯した傲慢国王から報酬としてお嬢様ヒロインを奪い取る
三流木青二斎無一門
プロローグクエスト
巨大な爬虫類が喉奥から炎を放つ。
建物は人を巻き込み、一瞬で火の海を化す。
甲冑を着込んだ憲兵団が隊列を組む。
弩を構えて狙いを付け矢を放つが、強固な鱗が先端を弾く。
大樹の様に長い尻尾を振り下ろして、兵士を叩き潰した。
人々の泣き叫ぶ声が響く。
一つの王国は、一体の龍によって滅ぼされ掛けていた。
「デカいな…」
その龍に立ち向かう、一人の青年。
彼の周囲には、数々の英雄が扱う武器が浮遊している。
「けど…仕事だ」
龍に対する威圧を感じながらも。
青年は、一騎駆けて龍を討伐する。
「報酬を出さないってどういう了見だ?」
トグサは苛立ちを噛み締める。
石造りの大広間、玉座に座り絢爛な衣装に身を包む気怠そうな表情を浮かべる男は視線を逸らした。
赤色に黄金の装飾を施された王冠を被る様を見るに、その男性は国王だろう。
トグサの眼光に委縮せずに、傲岸不遜な態度で自らの髭をなぞる。
「だから申したではないか、あの程度のドラゴンを討伐したくらいで、我が国宝の剣を渡すなど暴利が過ぎると」
国王の腰には、黄金を模した鞘に納められた一振りの剣が内包されていた。
トグサは、その武器を欲していた。元より、依頼の内容を確認すれば、その国宝の剣が彼に与えられる対価…報酬だったのに、いざ、国に出現したドラゴンを制して見れば、話は百八十度代わり、国王の態度も横暴なものへと変わり果てている。
トグサは、まさか自分が間違えていないだろうかと不安に覚えて、事前に持って来た仕事の依頼内容を記した書面を開いた。
世界:『中世魔剣大陸』
内容:『最上級クラスのドラゴン討伐』
報酬:『国宝の剣』
仕事の内容も、報酬も彼の知る通りだ。
違うのは、国王から出て来る言葉と態度のみ。
明らかな契約違反だ。
「感謝の言葉くらいはくれてやる…だが、たかが召喚に応じた召使い風情が、国宝の剣を手に入れようなど烏滸がましい、恥を知れ」
「じゃあ…なんで国宝の剣を報酬に出した?」
至極真っ当な質問に対して、国王は暴虐で返す。
「黙れ!!ワケの分からぬ事を!、おい、貴様ら!!」
声を荒げると共に、大広間の隅で待機していた親衛部隊が、トグサを取り囲んだ。
トグサは周囲を見回して、そしてようやく、国王の目的を理解した。
「契約では、我が国の民に危害を与える事は出来ない…もし破れば、貴様は罰を受ける手筈になっている…この親衛隊も私の民、貴様は何も受け取らずに帰る事しか出来ぬのだ」
計算していたのだろう。
悪き龍を討伐し、更に自分が損をしない方法を。
契約を破棄する。それが、国王が選んだ選択であるらしい。
勝ち誇った表情を浮かべる国王に、トグサはゆっくりと口を開く。
「あんたの方から契約を破る、それで良いんだな?」
口調は怒りによって横柄なものに変わっている。
最早礼儀など必要無いと察したのだろう。
口調の変化を感じ取った親衛隊は、穂先をトグサに向けた。
「王の前で何という無礼な口ぶりを!」
「狼藉者には早々に処分してやる!」
トグサを殺そうとする親衛隊。
だが、トグサに恐怖はない。
それよりも、重要な事がある。
「(あのクソ爺の顔を…どうやって歪ませてやろうか)」
考えると同時に、五指を開いて天に掲げる。
引力が発生すると、親衛隊の装備する槍や腰に携える剣が、トグサの掌へと集う。
更に、親衛隊の甲冑が、親衛隊同士でくっつき、そして離れなくなった。
トグサの力だ。それを見た国王は非難する。
「手をあげたが。契約違反だぞ!!」
自分の事は棚に上げてこの台詞である。
「…もう関係ねぇよ」
既に、契約は依頼主の方から破棄されている。
これにより、トグサは契約に掛かれたルールに縛られない。
このまま暴れて、皆殺しにしても、罰が下る事は無いだろう。
だがそれはしない、した所で意味などない。
トグサは考える。如何に効率的に、この国王の顔を絶望させる事が出来るのか考える。
そして、改めて書面を確認して、内容を反復させる。
トグサは、良い復讐方法を考え付いた。
「確か、あんたには王女がいたな?」
トグサが王女の名前を出すと、国王は顔を蒼褪めた。
一瞬で、何をするのか分かったらしい。
「もう国宝なんて代物はいらない…その代わり、娘を貰い受ける事にする」
そう告げると、国王は狼狽し、トグサの足にしがみ付いた。
慌てながら、トグサに考え直す様に伝える。
「待て!わ、分かった!この国宝はお前に渡す!!もうお前のものだ!!それ、それでも足りなければ、この国や他の宝をやろう!!娘だけは持って行くな!!」
拷問でも受けているのかと思える程の悲痛な叫びだ。
当然ながら、トグサは国王を俯瞰しながら。
「駄目だね」
そう言った。
既に、依頼主の方からの契約破棄をした場合の次の手順に移っている。
報酬を渡さなかった場合、帰還者はその世界の中から好きな報酬を選択出来る権利を持つのだ。
「この国の王女を貰い受ける」
その言葉によって契約は受理された。
トグサの体は黄金色の光で包まれていき、段々とこの世界から乖離していく。
「やめろ!!やめてくれッ、私の、私の大事な娘だけは!!」
国王はそう言って契約の変更願いをする。
だが分かり切っている事だろう。
「今更、もう遅い」
その言葉を最後に。
トグサと、トグサが選択した報酬が、この世界から消え去った。
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