船召喚。



 色々と思い馳せながら、ムク君の手を引いてエレベーターへ。上に行く為のエレベーターは一階から降りた物とは別で、ゲートフロアには止まらない仕様らしい。これで六階に。


「…………おにーちゃん、ありがと」

 

「いや、うん。女の子の中に一人取り残されるのは辛いからね」


 ムク君が遠い目で僕にお礼を言った。五歳がして良い顔じゃないぞコレ、いったい何があったんだ…………。

 

 聞くのも憚られるので、とにかく上へ。…………上に参りマース☆


「おお、凄い!」


 そして辿り着いたのは、海だった。

 

 いや、マトモな海を見た事ないのに、僕が「海だった」って感想を持つのはオカシイか。フィッシャーマーズ六階のフロアは、『イメージの中の海』その物だった。

 

 建物内だと忘れそうな程に広大で、空と海で空間が青に染まってる。

 

 エレベーターは砂浜エリアに到着して、僕らはそこから箱庭の景色を眺めてる。


「向こうに行けば、堤防が有るのか」


 砂浜で釣りをしてる人も沢山居るけど、砂浜を超えて奥の堤防で釣りをしてる人も居る。更に、ボートなんかも出てるので、割と何でもアリに見えてしまう。


「そうよ。このエリアは、ライトゲームなら大体出来ちゃう場所なのよ」


 僕にはそのライトゲームとやらが何を指すのか分からないけど、初心者にも入り易い何かなのは理解出来た。

 

 師匠が居ないので詳しく最適な選択は出来ないけど、僕にはこの場にある程度慣れてるちびっ子が居る。


「ムク君、教えてくれる?」


「うんっ! いーよっ♪︎」


 ニッコニコしてるムク君にまず、スタイルを選ぼうと教えられる。

 

 スタイルとは要するに釣りの方法を指す言葉で、基本的には餌釣りダイレクト疑似餌釣りテクニカルの二つが有って、初心者にオススメなのはダイレクトだそうだ。

 

 今時の釣りなんてダイレクトもテクニカルもどっちだって疑似餌を使うそうなんだけど、内容を理解したら呼び方に違和感が無くなるから大丈夫と言われる。

 

 ふむ、ダイレクトはあれか、ホログラムや疑似臭気装置を使った餌を利用して魚を釣って、テクニカルは生物に似た疑似餌を操って、生きた小魚なんかを自分の技術で再現して魚に食わせる釣りなのだと。

 

 だから餌を使ってダイレクトに釣りをするか、疑似餌をテクニカルに操作して魚を魅了して釣るか、そんな分類になってるんだね。


「おすすめはね、これ! ホロコマセ! ホログラムがね、お水の中でおさかなのごはんを、きらきらみせてたべさせるの!」

 

「…………あー、うん。ネット検索も合わせて理解した。ふむ、コマセ釣りね」


 他にも、ホロサビキ釣りとか、ホロカゴ釣りとか、ホログラムを利用したダイレクトスタイルが結構有る。勿論ホログラムを使わないダイレクトスタイルも有るけど、多分師匠も僕にコレを勧めてるんだろう。持たされた品々にちゃんとホロコマセ用のアイテムが揃ってた。


「コレで何が釣れるのかな」

 

「いろいろー! えっとね、ここだと、あじ、かな?」

 

「…………アジ。ふむ、美味しいのかな」

 

「おいしいよ! フライにするとね、ぼくすき!」


 なるほど。ならば釣らねば。

 

 僕はムク君に手伝って貰いながら、ホロコマセのセッティングをする。

 

 ロッドを起動して、伸ばした竿先から更に伸ばした糸を引っ張って、用意されてる仕掛けリグのセットを結ぶ。しかしムク君からダメ出しが入って、やって貰う。


「あのね、つりのときはね、こうむすぶんだよ……」

 

「え、なにそれ無駄に複雑……」

 

「のっと、っていうの」


 普通に固結びしたら違うよって言われて、じゃぁお願いって頼んだら慣れた手付きでシュルシュルと結んで行くムク君。その結び目は、なんか、こう、綺麗だった。


 釣りで使う結び方を「ノット」と呼ぶらしい。覚えたぞ。


 ムク君凄いな。コレなら別に、師匠に聞かなくてもムク先生に聞けば良かったかも知れない。


「ムク君は釣り好きなの?」

 

「うん! えっとね、がんばると、ごはんがおいしくなるのー!」


 なるほど。釣った魚をパックしてくれるって言うし、自分で頑張ったら頑張った分だけ、頑張って釣った魚が夕食のテーブルに並ぶ。そう考えると子供のモチベは爆上がりするだろうと思う。

 

 楽しいし、自分の遂げた何かが成果として夕食で見れる。それは明らかな達成感で、尚且つ美味しいと来た。頑張らない理由が無いし、好きに成らない訳が無い。

 

 僕は小さな釣りの達人ムク先生にセットして貰った釣竿を担いで、早速砂浜に突撃しようとした。


「あ、おにーちゃんまって。コマセは、すなはまより、てーぼーのほうがいいよ? ふねのほうがもっといいけど」

 

「あれ、そうなの? じゃぁ船にする? あれって何処で借りれる?」

 

「えーとね、ふねはね、しぎるかかるの」


 むむ? 船は別料金なの?

 

 ふふふふっ、僕に任せ給えよ少年。

 

 急に僕の得意分野が来たお陰で強気になった。このフロアの誰よりも僕は『シギルを払う』のが得意だと思うよ。

 

 教えて貰うと、端末で申請すると船を出して貰えるらしい。一時間で五○シギルのレンタル料なので、市民的には結構高い。


「えと、……おふね、たかいよ?」

 

「ムク君、忘れたの? 僕ってシギルを沢山持ってる傭兵なんだよ?」


 速攻で船を召喚し、砂浜に現れた船に乗り込む。借りたのは中型のパワーボート。

 

 当然メカちゃんも誘い、するとメカちゃんとキャピキャピしてた女の子二人も着いて来て、必然的にマッマさんも来た。


「さぁ、船釣りだ」


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