流石に分かってる。



 ベッタベタに甘えて来るネマの甘えた攻撃によって、シャワーで済ますつもりがバスタブに入りたいと申された結果、一時間くらい使わされた現在。

 

 21時半。


「………………♪︎♪︎♪︎」

 

「ニッコニコのご機嫌じゃんすか」


 バスタブで甘えまくって来たネマの機嫌は留まる所を知らず、鼻歌フンフンさんだ。フンフン過ぎる。

 

 そんなネマがスイスイと動かすシャムが進むマシンロードは、日が落ちてライトアップされるビルディングがキラキラしてて、中々の景色だ。


「なんか我慢してたの?」

 

「…………わかにゃぃ。でも、たのし、かた」

 

「そっすか」


 ネマはスラムに落ちたけど、スラムに染まってない普通の女の子だ。

 そんな八歳の女の子が、遊びもせずに免許取得の勉強に始まり、免許取ったら仕事、仕事、仕事。

 

 ショッピングくらいには付き合ったけど、かと言って子供らしい遊びをしたかって言えば、余裕でノーだ。

 

 だから、今日のコレは、反動なのだ。子供らしく振る舞えなかった、その反動。

 

 バスルームでバスタブにザバーっと入って、身近な人と喋り倒しながら背中を流しあって、実に子供らしい時間と言える。

 

 それでも足りない分は親に、兄に、友達に、甘えられる相手に甘えまくるが如く、僕に構い、そして構い倒される事で補填した。

 

 多分、無意識。だから「わかにゃぃ」なのだ。

 

 ネマも良く分かんない内に、やりたい事やったら思いっきりスッキリして上機嫌なのだ。その理由も自覚せずに。


「ふむ、別に可哀想とか一切思わないけど…………」

 

「…………にゅ?」


 可哀想度合いで言うと僕のが酷いし。

 

 ネマは親に直接捨てられるなんて悲惨な経験をしたけど、その後は割とすぐに僕が拾ってる。

 

 けど、僕なんて四年だよ? ネマが今回こうやって爆発させたエネルギーを、四年溜めたんだよ? ネマは八歳からだけど、僕は六歳からだったからね?

 

 なので、ネマのメンタルを理解した上で、僕の感想と言えば「ふーん」だった。

 

 そうなんだぁ。大変だったんだねぇ。で、それ何週間くらい? へぇ、短い苦労だったねぇ。

 

 みたいな?

 

 とは言え、だからって無駄に厳しくする必要も、その理由も無い。

 

 僕は別に、自分が苦労したからお前もしろや、とか言わない。そんな事言うなら僕の今の幸せもお裾分けし続けないとフェアじゃ無い。

 

 不幸を分かち合うなら幸せも分かち会うべきだ。

 

 僕はシリアスしあわせを独占するので、つまりお裾分けとか御免被ごめんこうむる。となれば、自分の不幸自慢とかする必要など無い。

 

 ネマの不幸はネマの不幸。僕の不幸は僕の不幸。

 

 ネマの幸福はネマの幸福。僕の幸福シリアスは僕の幸福シリアスだ。

 

 要は、甘えたければ甘えれば良いって事。別段、拒否するつもりも無い。

 

 いや無条件で受け入れる気も無いし、無駄に甘やかす気も無い。だけど今の僕には余裕があり、そしてネマも自分の幸福を生み出せるくらいのシャムを得た。

 

 ならその余裕に見合うくらいの懐が、お互いに有っても良いだろう。


 つまるところ、僕が嫌だと思わない程度なら普通に甘えれば良い。


 流石に、僕が嫌だったり面倒だったり、煩わしい事まで我慢してまで甘やかす義理なんて無い。そこは拒否するし厳しくする。

 

 ただそれ以外は別に良いよ。好きにしたら良い。


「ネマはずっと一緒にバスルームで遊びたかったの?」

 

「…………ぅゆ。あそび、たかった」

 

「シリアス的にも、なんかネマは妹的なポジションらしいから、これからは忙しく無い時は遊んで良いよ。我慢しなくて良い」

 

「……………………また、いっしょ、してくれぅ?」

 

「気が向いたらね」


 確約すると煩そうだ。約束したのに! って言って毎回背中を流させられる。


「て言うか、ネマは僕に裸見られて恥ずかしく無かったの?」

 

「なかた!」

 

「あっそう」


 とか言いつつ、サブシートから見るネマの耳がちょっと赤い。無理してんじゃねぇよ。おマセさんめ。

 

 甘酸っぱい空気出してるところ、ほんとゴメンだけど。僕その時って頭の中がオスシでいっぱいだったからね。


「しっかし、なんでだろうな。ネマは見た目だけなら、とびっきり綺麗で可愛いのに、マジで何も思わないんだよなぁ。やっぱり僕がシリアスに惚れ過ぎてるからかな?」

 

『否定。ラディアはポロン・アルバリオには少し露骨に優しい』

 

「え、あれ? いや違うんだよシリアス。あれって、こう、ポロンちゃんってペットっぽくない? シリアスと一緒に飼ったら可愛いかなって…………」

 

『…………困惑。そして警告。ラディア、人間が人間を飼育する行為は帝国法で--……』

 

「いや流石に分かってるよッ!? やらないよッ!?」


 というかポロンちゃんの飼育に乗り出したら、即座にアズロンさんやポポナさんを敵に回しちゃうじゃん。

 

 セルバスさんもあの優しげな笑顔を鬼の形相に変えて僕を殺しに来そうだし、そんなの見たらトラウマだよ。あの人は僕のリスペクト・オールバックなのに。


『要約。例え愛玩家畜に向ける様な好意だとしても、ラディアが可愛さに絆される実例に他ならない』

 

「…………確かに? ポロンちゃんがアリなら、別にネマにも何かあっても良いよね」

 

「……………………ゅ? らでぃあ、やさしぃ、よ?」

 

「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎。いやだからなんでデコスケ野郎って言うと喜ぶの? ふあふあ笑うのやめーや」


 キャッキャしてるネマの操縦で、騒いでる内に目的のポイントまで到着。

 

 今日の夕食は当然、オスシである。


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