こんな事も有ろうかと。



「じゃぁ一旦、VRバトル内に移動しましょうか。確かバトルシティの端っこに機動練習出来るインスタンスエリアがあったはずなので、そこで練習しましょう」


 イヌ型。ダンゴムシ型。アリ型。サソリ型。アルバリオ邸の専用部屋に並んだ四つのライドボックスに収められた、四種類の陽電子脳ブレインボックス

 

 凄いよね。ポロンちゃん以外の人が乗る機体、全部虫型。

 

 誰も気にしないんだろうけどさ。ウェポンドッグの生産元であるサンダリア共和国と、シリアスや他の虫型を作ってたハイマッド帝国がガチガチの敵対国だと知ってる僕には、なんか不思議な物を感じてしまう。


「よし、じゃぁ僕もログインしようか」

 

『了解。外の駐機場で待ってる』


 アルバリオ邸の外に出て、駐機場に居るシリアスに乗り込む。

 

 その際、セルバスさん以外の使用人さんに「お帰りですか?」と聞かれたので、事情を説明した。お帰りの準備はしなくて大丈夫ですよ。

 

 お金持ちの家は帰るだけでも色々と有るので大変だ。


「さて、ログイ--……」

 

『停止推奨。ラディア、一つ忘れている事がある』

 

「……ん? 何?」

 

『女装。プレイヤーネームが同じなので、そのままだとマズイ』


 ……………………嘘やん。

 

 信じたく無かった。いや、ダメじゃない? 持って来てないよ?


『こんな事も有ろうかと』

 

「嘘じゃん」


 なんで用意してあるの? どうやって用意したの? なんで用意したの?


 こんな全然嬉しくて頼りにしたくない「こんな事も有ろうかと」要らなかったよシリアス…………。

 

 コックピットの奥の方に、ちょっとした物を仕舞って置けるスペースがある。そこのコンテンツの一つガコッと勝手に開き、中には何やら布っぽい物を梱包してる透明な袋がががががが……………。


「なして?」

 

『可愛いから』


 ものっそい簡潔な答えが返って来た。愛され過ぎて涙が出て来る。

 

 しかし、確かに身バレは怖い。僕は文句も言わずに女装を開始する。シリアスの中で裸になるの、めっちゃ恥ずかしい。全部見られてしまう。


「…………いやん」

 

『記録した』

 

「いやごめん許してッ!?」

 

『記録した』


 記録されてしまった。二回言われた。大事な事だったのかな。

 

 ちくしょう。しかもなんか地味に、ケースの中にオートメイクパイセンが居るじゃん。お前二機目かよぉ……。無駄遣いぃ……。

 

 コネクテッド・ヘアコンタクトも完備され、まさかの完全クオリティでの変身だ。せめて簡易型かと思ったのに…………。


「どうやって用意したの? 誰が手伝ったの?」

 

『オジサン・サンジェルマンの所有するボットの中から、比較的小型の物を借りて、シリアスがボットを操作してコックピット内に仕込んだ』

 

「自分で仕込んだって言ってるのコレ蛇足だったって自覚あるじゃん」

 

『そんな事は無い』


 完全女装した後、僕はもう色々諦めてVRバトルにログインした。数分前にアルバリオ邸の中で別れた男がきゃるっきゃるになってる事を、僕はどうやってアズロンさん達に説明すれば良いのか。


『ログイン完了。フレンドのポイントをマークする』

 

「ポロンちゃんは、…………って目の前じゃん」


 良く考えたら、ログアウトしたの此処だもん。当たり前じゃん。

 

 僕は早速ホロ通を入れる。ホロ通ホロ通。


『あ、ラディ--……』


 通信が繋がった瞬間、にぱって笑う眩しい顔がピタって止まる。僕は時間を停止させる能力を手に入れたのかも知れない。使用方法は女装なので可能なら使いたく無い能力だ。


『……………………なんでです?』

 

「僕が聞きたい」


 ちなみに、もうボイスチェンジモジュールは起動してるし、エフェクトランチャーも動いてるので、僕の周りはキラッキラしてる。


『…………やっぱり可愛いです』

 

「あ、ありがとう。…………あの、なんかシリアスがコックピットにオートメイクプリンタ積んでてさ、後で使う? シリアスの演算したメイクって凄いよ。ソースは僕の今の顔だ」

 

『………………ちょっと興味あるです』


 それから、初ログインなら他の三人も此処に居るはずなので、僕は直立不動で一ミリも動かないダングとデザリアとアンシークを見付けて、スキャニングする。ビンゴ。

 

 まずはローカル通信で繋ぐ。途中、やっぱり機体の通信が分からなかったのかポロンちゃんのコックピットにアズロンさんとかが聞きに来るシーンが見えて面白かった。

 

 本物そっくりなのに、奥の方に見えてる壁がガチャって開いてアズロンさんが入って来るの凄いシュールだった。

 

 技術的にはアレなのに、ライドボックスってが凄まじく簡素なんだよね。カッコ良く中に入れる扉とか、そんなん無い。本当に部屋に入る扉みたいにガチャっと開く。しかも手動。

 

 で、ローカル通信で繋いでから事情を説明して、その後にホロ通信って予定だったのに、ポロンちゃんのコックピット経由でバレてしまったからもう良いや。

 

 五人でホロ通信を繋いで、僕の女装で全員を改めて驚かせ、それから事情を説明した。

 

 取り敢えず、世の中にはネットリテラシーと言う考え方が有るらしく、僕が「身バレ防止を徹底してます」と言えば、大人三人は皆、凄い納得してくれた。助かった。

 

 それで、この場でポロンちゃん以外の三人に簡単な歩かせ方だけを教えて、ゆっくりゆっくり初心者歩きをしながらエリアを移動する。

 

 都市内なら戦闘は発生しないので、インスタンスエリアまでは快適だ。


「考えたらこれ、一緒にゲームしてるだけで一日に一○○○シギル? 働いてる人達に怒られない?」

 

『あっはっはっは! 大丈夫さ! これは立派な専門職業の技術供与なのだからね!』


 それもそうか。


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