ご挨拶。



 お出迎えを受けて、僕はビシッと傭兵風の敬礼で挨拶する。


 右胸に左拳を当てて、右手は後ろ腰に回して、足元は肩幅で真っ直ぐ立つ。背中を伸ばして胸を張る。

 

 登録の時に受けた面談で、あのセクサロイドを勧めて来たお姉さんから習ってた傭兵の敬礼だ。ラビータ帝国の軍人や兵士は額に手の平を当てる敬礼だけど、傭兵はこうするのが習わしだそうで。


「やぁやぁ、良く来てくれたね。会いたかったよラディア君」

 

「ようこそ、アルバリオ邸へ。ゆっくりして行ってね」

 

「ご来訪をお待ちしておりました。邸内で歓待の準備もしてありますので、どうかお楽しみ下さいます様に…………」


 そして、ものすっごい歓迎された。意味分からないレベルで歓迎された。

 

 僕がビシッと決めたら、推定アズロンさんらしき人と、その奥さんっぽい人がわぁ〜って僕の所まで来て、背中をポンポンされたり、頭を撫で撫でされる。

 

 燕尾服が最高に決まってる執事さんも、深々と僕に頭を下げて九○度のお辞儀だ。それ、かなり高位の相手にやるお辞儀じゃ無かった?

 

 なんか、マジでフィクションブックの貴族家に迷い込んだみたいな気がして来た。大丈夫? 此処ってちゃんとガーランド?


「歓迎、有難う御座います。あの、依頼人のアズロン様で宜しかったですか?」


 歓迎は有難いのだけど、まず依頼人かどうかを確認したい。僕の中ではまだ若干、この依頼が何かの間違いじゃねって思ってたりするから。

 

 この歓迎もそれに拍車を掛けてる。だって、こんなに歓迎される理由が僕には無いもの。なにか凄まじい勘違いが発生してないか、心配になるレベルだ。


「ん? あぁ、ワタシとした事がっ……!」


 僕の問いに、挨拶だけで名乗って無い事を思い出した推定アズロンさんは、大仰に手の平で顔を覆って「しまったぁ〜」と言ってる。リアクションが演劇っぽい。


「そうっ、ワタシがアズロンだ。アズロン・アルバリオ。突然、名乗りもせずに失礼したね。ビックリさせたかな? 君に会えたのがあまりにも嬉しくて、名乗る礼儀すら頭から飛んでしまったよ。どうか許しておくれ」

 

「ふふ、ごめんなさいね? ワタクシはポポナ・アルバリオ。アズロンの妻で、ポロンの母よ」

 

「セルバス・コリオルと申します。何か御座いましたらお申し付け下さい」


 ようやっと、ポロンちゃん以外が名乗ってくれた。

 

 ええと、ポポナさんがアズロンさんの奥さんで、ポロンちゃんの母上なのが確定したから、アズロンさんもポロンちゃんのパッパで当確。執事さんはセルバスって名前なのか。

 

 ちょっとフィクションブックに出て来る執事伝統の名前『セバスチャン』もしくは『セバス』に似てて、テンションが上がる。ついでにリスペクト感も上がる。後でサインください。


 …………で、だ。

 

 あの、ポロンちゃんさん?


 彼女、未だに固まってるのである。

 

 ポカーンとした顔のまま、口の端からヨダレが垂れそうな程に口を開けて、僕を見て固まる蝋人形と化している。


「…………あの、ポロンちゃん?」

 

「………………………………はぅぇッ!?」


 声を掛けると、やっと再起動。

 

 なんだろう。うん、いや、少し考えれば分かるんだけどさ。


「あの、やっぱり、あんな服を着ていた僕が、女装男が予想より気持ち悪くて教わりたく無いって事でしたら、まだ一応ギルドに通せば依頼はキャンセル出来ますので……」


 そう。そうだよ。普通に考えて、あの服着てきゃるっきゃるの声だった僕が、実際に会ったらコレって、もはや詐欺と言って良い。

 

 仮に、仮にだ。僕が男だとカミングアウトしたけど、もしかしたらちょっとした理由で女装せざるを得ないとしても、女装がとびっきり似合う女の子っぽい男の子って可能性もあったし、いや普通ならそう考える。

 

 だってあれだけのクオリティだったんだ。女装止めても女の子っぽいだろうと考えるのは当たり前だろう。

 

 それが、なんだ? バトルジャケットにカーゴパンツの傭兵ルックでオールバックのスラム孤児? 詐欺ってレベルじゃねぇぞ。もはや強盗だ。何をしたたかに盗むのか知らないけど、確実に何かを盗んだ強盗だ。詐欺なんてやんわりした物じゃない。

 

 それにほら、僕は男らしい傭兵を目指してるしね。仕方ない。うん、仕方ないよ。いやぁ〜、僕の男らしさが迸っちゃったかなぁ〜。


「えっ、いやっ!? ちがっ、ちがうですっ!?」


 しかし、僕がアズロンさんに依頼のキャンセルを進めると、前開けの白いパイロットジャケットをバタバタさせながら、ポロンちゃんがワタワタする。ふわふわのクリームヘアーもほわっほわする。


「いや、でも、気持ち悪いでしょう? あんなきゃるっきゃるの声まで作ってましたから」

 

「そんにゃ事ないぇすっ!?」


 慌て過ぎて噛みっ噛みだ。そんにゃって言った。ないぇすって何だ。


「でも、アッチと乖離し過ぎて気持ち悪かったから、フリーズしてたのでは?」

 

「ちがっ!? 違うですッ! カッコよっ……、あああ違うです違うですぅぅ……!? そうじゃ無いですぅぅう!」


 何かを口走り掛けて急停止、からのバタバタわたわたして、真っ赤になってしゃがんで、帽子を抑えてプルプルし始めてしまった。

 

 何事か。それ、どうしたの? 頭ブン殴られた孤児みたいなモーションだよ?

 

 どうした物かと、アズロンさんを見る。めっちゃ生暖かい目を向けられた。何なんだいったい。

 

 次にポポナさんを見る。ニマニマしてる。何で? そんなに楽しい事有りました?

 

 セルバスさんを見る。感無量って感じで、目頭を摘んで天を仰いでた。なして? それどう言う感情です? この場でその感情って本当に合ってます?

 

 分からぬ。スラム孤児には分からないコミュニケーションなのだろうか。マジで分からぬ。


「えっと、アズロン様。どうしましょうか? 依頼の詳細も纏めたいのですが」

 

「ふむ、そうだね。では取り敢えず、屋敷にご招待しようか。時に、ランクマッチでご一緒だったお嬢さん方は、ご一緒で無いのかな?」


 ご一緒では無いんだよなぁ。と言うよりそんなお嬢様など存在すらしないんだよなぁ。

 

 しかし、僕の都合でタクトのターラをバラす訳には行かないので、誤魔化すしか無い。

 

 誠実でありたいけど、まずその誠実さを向ける最優先はシリアスで、次にタクトとおじさんなのだ。僕の不注意から発生した問題で、道連れの女装バレはあまりに不義理。


「ターラもリアスも、今日は居ません。事情が有りまして、リアスは場合によって会えますが、ターラの方は難しいと思います」

 

「ふむ、そうか。それは残念だ。……歳も近いので、娘の友達になってあげて欲しかったのだが」

 

「それでしたら、無理に会わずとも、VRバトルにでしたら、僕が偶にターラを連れ出しますので」


 リアスはシリアスなので、確定で複座に居る。けどターラちゃんはランダム生成のレアキャラなので、現在この世に居ないのです。許して下さい。


「あっ、リアスさんとターラさんには、会えないですか……」


 聞いたポロンちゃんが寂しそうにする。止めて欲しい。僕の良心を殴らないで。

 

 いや、別にリアスだけなら会える。会えるよ。うん。今此処で、オリジンの事を暴露すれば良いのだ。

 

 僕が古代機乗者オリジンホルダーである事は、別段隠してない。だけど、VRバトルのディアラちゃんと傭兵ラディアが結び付く要因は、リアスの存在は、内緒にしたい。

 

 世間に対する女装バレ要因は、限り無く少ない方が良い。

 だから、出来れば、内緒で居たい。けど、僕は此処に来るまでの間に、既にシリアスへ宣言してる。

 

 秘密にして貰えるギリギリまではバラすと。

 

 さて、僕の目の前に今、ポロンちゃんが居る。せっかく知り合えて、仲良く成れそうだった人との交流が制限されると知って、寂しそうにしているポロンちゃんが、目の前に居る。

 

 僕はそれを解決する術を持ってる。この状態で、これから依頼で操縦を教える生徒に対して、解決出来るのに何もしないのは果たして、誠実と言えるだろうか?

 

 答えは否だ。


「…………あの、アズロンさん。それと、ポポナさんと、セルバスさん。僕の事をどうか、どうか内緒にして頂けるなら、リアスだけはこの場で会える様に出来ますよ」


 僕は依頼人に、ちょっとしたお願いをした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る