居留守したいカルボルト1



 子供達に食事を奢り、そして別れた。

 

 カルボルトは和やかな気持ちでホテルの自室に戻り、得難い体験だったと思いを馳せる。

 

 理不尽に抗い、歯を食いしばり、強かで、賢しく、しかして純粋な命。

 

 カルボルトから見た孤児達は、全員が全員、そんな将来が楽しな傑物の卵に見えたのだった。


 特に、ラディアと言う古代機乗者オリジンホルダー


 稼いだ金を九割以上、躊躇い無く機体に注ぎ込める精神性。

 

 乗機はオリジンで、関係は良好過ぎる程に良好。

 

 操縦技術は中々の物で、知識もあり、そして足りなければ得ようともする。何より歳の割には頭が切れ、見目好いのも高ポイントだとカルボルトは判断している。

 

 傭兵とは、あらゆる物を利用して金に変える人種だ。時には命や信用などと言う、取り返しのつかない物でさえまきへとべる。

 

 そんな傭兵に於いて、人から好意を向けられ易い容姿というのは、得難い才能の一つだ。


「例えば、ウチの団長とすぐに会えるかもしれねぇ、とかな」


 ランク八。オリジン並のレア存在であるランク九を番外とすれば、事実上の最高ランクとすら言える。そんな相手とコネが持てるかも知れないなら、やはりあの容姿は得難い才能で間違い無いと、カルボルトは再認識した。


「なんなら、ずっとあの格好でニコニコしときゃ、その辺の馬鹿は勝手に良い様に動くだろうさ」


 アンチエイド措置を受けて、なるべくあのくらいのサイズ感を保ち、オリジンと言う希少性に乗っかって喧伝出来る、美少女過ぎる新人機兵乗りライダー…………。

 

 カルボルトは、彼の愛機が発言した通り、内心でだったと肯定する。


「はぁー……、さぁって、団長にどうアポ取ろうかねぇ」


 カルボルトは悩む。ラディアには撮影を禁止されたので、団長には口頭に於いてラディアの存在を語らねばならない。

 

 カルボルトが所属する傭兵団『永久旅団』を纏める才媛、団長ライキティ・ハムナプルは、高ランクかつ要職にあり当たり前に忙しい。

 

 そんな相手に見ず知らずの、ランク一の傭兵を紹介すると言ってアポを取るのは、正味な話し不可能に近い。

 

 しかし、カルボルトは成さねば成らない。


「…………あの人、口頭だとどうせ信じねぇ癖に、あの美少女装少年の存在を知ったら知ったで、何故紹介しなかったとブチギレるに決まってる」


 きっと、カルボルトが「いや、団長が信じなかったんじゃ無いか」と言っても、ライキティは「信じるまで粘れよッ!」と理不尽に怒る。

 

 カルボルトから見たライキティ・ハムナプルとは、そう言う人間だった。


「あー、シリアスの撮影忘れたの痛てぇなぁ。聞くの忘れてたわぁ」


 流石に本物のオリジンである証拠を持って行けば、そっちのルートからアポを取れたのだろうが。カルボルトはシリアスにムービーの撮影に着いて聞くのを忘れていた。


 今日の明日でまた連絡を取って会いに行くのも、流石に押しが強過ぎる。下手な事をして嫌われたらオリジンとの伝手も消える。

 

 カルボルトは地味に板挟みだった。


「まぁ、ラディアの坊主が女装してる時に紹介した方が、団長は機嫌良くなるだろうし、坊主はシリアスと交渉して女装サービスを週一にしてたしな。アポはその日に合わせるとして、数日は明けるか。もしくは数週間か」


 永久旅団はガーランドに居着く傭兵では無い。新人団員の機体を用意する為に、ランクの低い警戒領域を回っている途中なのだ。

 

 ガーランドでは当然、ガーランドの警戒領域に産出するデザリアを集めてる。予定では三機から五機の鹵獲を計画中だ。

 

 買うよりも高くなっては意味が無いので、低予算で損害も無く、確実な鹵獲を成す為に長期滞在中だが、その予定も早く終わりそうであり、カルボルトは予定をどうするかまで悩み始める。

 

 ガーランド滞在の猶予がまだ有るなら、幾らでも予定を調整出来る。カルボルトは幸い、ラディアからの好感度が高く、頼めば少しくらいは時間を作ってくれるだろうと認識していて、それは実際に正しい。

 

 しかし、つい昨日、突然に、市場に状態のデザリアが三機も流れて来た。急な出物で、旅団の会計担当は悲鳴を上げた。

 

 出物はボロボロだが、鹵獲機として見ると状態は良好。修理されて正規販売される前にコチラで買ってしまえば、鹵獲するよりは高く付くが、正規品を買うよりは安く済む。

 

 そんな非常に微妙なラインの出物があり、永久旅団は悩んだ末にその内の二機を購入した。


「旅団で鹵獲が一機、購入が二機、予定は三機から五機だから、一応はもうガーランドを出れるんだよなぁ」


 もう二機、追加で鹵獲を目指すのか。それとも予定が早く片付いたと喜び、ガーランドを出るのか。

 

 それ次第でラディアに頼む予定の付け方も変わるので、カルボルトは悩んでいるのだ。


「この町を出た後に、美少女装少年とお近付きに成れる機会を不意にされたと団長が知ったら、俺はどんな目に遭うのか…………」


 理不尽である。何故この様な悩みを抱えなければ成らないのか。カルボルトは嘆くしか無い。

 

 カルボルトとしても、ラディアを団長に紹介するのはアリ寄りのアリ。叶うならば傭兵団に引き入れようと考えてる。

 

 オリジンに無理強いは出来ないが、オリジンとそのパイロットから入りたいと願われれば、是非も無い。


「あー、もう、酒でも飲むか」


 期待の新人と、その新人が引っ張りあげるだろう強かな子供達。カルボルトはその将来を楽しみながら、しかし団長と言う理不尽をどうしようかと悩み続ける。


『だっ、だっ、だっ、だっ、団長からの呼び出しだぁ〜!』

 

「うわっ、不吉な着信音が鳴りやがる…………」


 ホテルのサービスで酒でも頼もうかと端末を手に取ったカルボルトは、その手に取った端末が不吉な音を垂れ流す様を嫌な顔で見る。

 

 この巫山戯た着信設定は、カルボルトが自分でやった訳では無い。団長が直々に巫山戯て登録した物で、変更は許されて無い。ちなみに使われてる声は団長本人の物。


「…………はい、こちらカルボルト。……うわっ、ホロ通信かよ!」

 

『やぁカルボルト。まずはランク更新おめでとう』


 通信要求に応答すれば、端末からホログラムが立ち上がっての対面通信が始まる。これは微弱なスキャニングシステムを利用した三次元カメラで、持ち主の状態を端末が簡易スキャンしたデータを映像として使う機能である。

 

 レンズなどを利用した光学撮影機は利用されてないので、カメラ写りを気にする必要は無い。

 

 ホログラムに映るのは、鮮血を彷彿とさせる鮮やかな赤髪に黒のメッシュを入れた、三十代だがアンチエイド措置のお陰で二十代前半に見える才媛の女傑、ライキティ・ハムナプルその人だった。


「お祝いどうも。で? 要件は?」

 

『おいおい、団長が団員の様子を確認するのに、要件なんか要る物かよ』


 ライキティがカラカラと笑う様は、歳相応かは置いといて、見た目相応ではある。凛々しく可憐な容姿のライキティが男勝りに笑う様子は、一定の魅力を生じさせていた。


「はいはい、そうだな。うんうん。で? 要件は?」


 しかし、カルボルトは取り合わない。

 

 何故ならライキティが本当に用事も無くご機嫌伺いなどした事実が存在しないから。だから通信要求を受けてカルボルトの表情は歪んだのだ。

 

 自分から連絡してアポを取るのが難しい相手が、自分から連絡して来るなんて、普通に考えて確実に面倒事なのだ。


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