エレベーター。



 フレームデッキを歩き、駐機場の至る所から集まる傭兵達は全員が一度最奥に集められ、そこで傭兵はエレベーターに吸い込まれて行く。


 登りと降りが入れ替わり立ち代わり、四基稼働しているエレベーターは無軌道に傭兵を吸って吐いてを繰り返し、エレベーターホールの混雑は永遠に解消しないように思われる。


「…………これ、登り用と降り用のエレベーターをキッチリ分けた方が、結果的に早いんじゃ?」

 

「そうだな。坊主、お前の意見は概ね正しい」


 四基が四基とも、吸って吐いてを永遠に繰り返しているが、その人集りが乗降を邪魔してる。


 エレベーターが空荷で動かないと言う基本的かつ効率的な運用がされているにも関わらず、結果的に時間が余計にかかって効率が落ちている様に見える。

 

 これなら、登りと降りで分けて空荷を許容した方が、結果的に早く人が捌けるんじゃ無いかと思えて成らない。

 

 もう、エレベーター待ちの人混みが邪魔過ぎて、人が降りるのに山程の時間が掛かってるのに、エレベーターが空になって人が乗る時も、我先にと詰め寄って混沌となり、エレベーターが上に行けるまで更に時間が掛かってる。

 

 こんなグッチャグチャな使い方をするなら、登りは登り、降りは降りとエレベーターを専用にしてしまえば、少なくとも人が降りる時にはスムーズに行ける。

 

 だって降り専用の前で待ってても上に行けないんだから、流石に傭兵も降り専用のエレベーターを邪魔したりしないだろう。

 

 それに、四基のエレベーターの登りと降りが入れ替わるから、待ち人がエレベーターホールを右往左往してるのも非効率過ぎる。動線がグチャグチャだ。


「だがな、この方式なら『運が良ければ自分だけはさっさと上に行ける』から、誰もお利口に並んだり、登りと降りを分けて我慢なんてしねぇんだよ。傭兵なんて馬鹿で刹那的なアホンダラが成るもんだしな」

 

「そうなんですか……。結果的に早いのに」

 

「そう、結果的に早いのに。利用率で統計取ったらトータルでアホほど時間を回収出来るのにも関わらず、この方式ならその日たまたま、一発でさっと上に行ってサッと帰って来れる可能性があるから、このままなんだ。…………馬鹿だろ?」


 刹那的過ぎる。

 

 今日も明日も明後日も、整列してスムーズに運用して時間を回収出来たら、トータルでプラスしまくるのに、その日に運良くちょっと多めのプラスが有るかも知れないだけで、こうなってるのか。


「さぁ、駐機場合戦の次はエレベーター搭乗合戦だ。気合い入れろよ?」

 

「……マジか」

 

「マジなのか。コレに突入するのか」

 

「マジなんだ。コレに混ざってエレベーター乗らねぇと上に行けねーんだ」

 

「これ、もう、エレベーター止めて階段の方がいっそ効率的なのでは……?」


 ともかく、カルボルトさんと一緒に男臭い人の津波にダイブする。そうしないと上に行けないから。

 

 身長タッパが無くてガタイも細く、軽くて小さい僕とタクトはもみくちゃのグチャグチャになりながら、人で視界も埋まって前すら良く見えないままエレベーターに乗れる幸運を掴むチャレンジミッションを開始する。

 

 何処どこかで、希少な女性傭兵の体をどさくさで触ってブン殴られたらしい喧騒も聞こえる。「タダで触ってんじゃねぇよ殺すぞッ!」って綺麗で高い声が聞こえて、「金取れる程の体じゃねぇだろブサイクがッ!」って低いダミ声も聞こえた。

 

 …………いくらなんでも酷い言い草じゃないかな。そして女性の方もお金払ったら良いのかよ。

 

 タクトとハグれない様に手を繋いで、むぎゅむぎゅと前に進んでエレベーターを目指す。

 

 大多数の男性傭兵さんは基本的にムキムキで体が硬い。押し潰されて凄い痛い。それに汗臭い。助けて欲しい。

 

 たまに、女性傭兵さんにもムギュってなるけど、女性傭兵さんも仕事柄鍛えてるのか結局硬くて、男性傭兵さんよりはマシだけどやっぱり潰されると痛い。

 

 僕らが小さいから変なところ触りそうになって、それでキッて睨まれて叩かれそうになったけど、僕らが子供だと分かるとキョトンとして「あら、可愛い坊や達ね?」って言われた。

 

 でも僕らの頭を撫でて、僕らが戸惑ってる隙に、僕らを押し退けてさっとエレベーターに消えて行ったのマジでモヤッとする。女性でも傭兵はしたたかだ。


「ラディア、これ右往左往する人波は避けて、一基だけ狙い撃ちした方が結果的に早いだろ」

 

「そだね。そうしよう。…………カルボルトさんは?」

 

「分からん、ハグれた。先に行ったのか、後ろに居るのか…………」

 

「…………うん。上で会える事を願おうか」


 頭撫でお姉さんが消えて行ったエレベーターゲートにしがみついて待つこと五分。僕らは見事にエレベーターを捕まえて二階へ。

 

 ただ、エレベーターに乗れたのに結局限界まで寿司詰めだから、ガッチガチに押し潰されて息が出来ない。

 

 ただ、一度乗ってしまえば、五秒ほどで目的地についてゲートが開き、すぐにエレベーター内の圧力が減る。


 …………え、五秒で稼働してくれるエレベーターを使ってこの有様だったの?


 エレベーターゲートに張り付いた五分は何だったのか。

 

 どれだけゴタゴタすればそんなに時間が掛かるのか。傭兵とは非効率に恋する人種なのだろうか。


「おいラディア行くぞ。取り残されたらやべぇ」

 

「あっ、降りるのモタつくと乗り込んで来る人波で出れなくなるのかっ! それは嫌だ!」


 降り行く人にヒシっと着いて行ってちゃんと降りる。残されたらエレベーター内で潰されながらもう一回往復しなきゃ成らない。

 

 傭兵ギルド二階の受付業務エリアでさえも、エレベーターの乗降は非効率を極めた混沌式だった。

 

 何とか降りて、やっとマシな人混みレベルの場所まですり抜けて一息つく。


「…………はぁ、傭兵ギルドやべぇな」

 

「ね。まさかエントランスに来るだけで大冒険するとは思わなかった」

 

「よう! お疲れだな? しかしちゃんと傭兵の洗礼を乗り越えた二人はだぜ」


 気が付くと、近くにカルボルトさんが爽やかな笑顔でそこに居た。

 

 一人前の駆け出しとはこれ如何いかに。本当の一人前は何人前に成るのだろうか。きっと量が多くて食べ残すに違いない。


「次は一人前の一人前を目指して頑張れよ」

 

「それは、二人前ですか? 二人分も食べられない……」

 

「カルボルトさん、孤児はロクなもん食ってないから胃袋が弱いんだよ。栄養だけある民間レーションが主食だからな。腹一杯なんて経験無いし、さっき焼肉行ったら、食べ放題プランなのに最初の注文だけで腹くちくなっちゃったんだよ」

 

「そりゃぁ少食が過ぎるってもんだぜ。傭兵やるならシッカリ食って、ちゃんと体力付けなきゃな」


 カラカラ笑うカルボルトさんに促され、エレベーターホールから移動する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る