井戸がポンポン。
「…………すっげぇ。これがバイオマシンの中なのか」
移動を再開。今度はちゃんと、シリアスのコックピットの中だ。さっきも外に居たからトラブったんだ。ちゃんと乗ろう。勿論タクトも一緒だ。
シリアスにタクトも乗せて良いか聞いたら、ちょっと嫌がったけど、シートに座らなければギリギリ許すって事になった。細かいお返事はまたルベラお兄さんの端末を挟んでのやり取りだ。
「一人用のコックピットだから、ちょっと狭くても許してね」
「全っっっ然気にしねぇ。むしろ乗せてもらって感謝だ。やっぱ、男ならバイオマシンのコックピットは憧れるよなっ」
タクトはシートの後ろ、前にシリアスの僚機さんから抜き取ったターバン巻き
最初はシリアスが嫌がったから、コックピットの中じゃなくて外に、シリアスの頭の上とかに乗って移動しようかと思ったんだけど、そんな事を話してるとルベラお兄さんからダメ出しが入ってこうなった。
なんでも、帝国の法律で、バイオマシンで移動する際は搭乗規格を満たしている場所にしか人は乗っちゃダメなんだって。事故が起きるから。
小型でも数メートル、機種によっては十数メートルから数十メートルの高さにも成るバイオマシンの上に乗って移動なんかしたら、滑って落ちたら大変な事に成る。高確率で死ぬ。
なので、移動する時はしっかりとコックピットに入るか、もしくは搭乗規格を満たした場所に居る必要がある。搭乗規格を満たした場所って言うのはつまり、手摺とか付けて人を乗せる為に整備をして、人が落ちない様に加工した場所の事だ。
バイオマシンの機種によっては、コックピットの外にも建物の屋上みたいな感じのスペースがあったりするんだけど、そう言う場所が『搭乗規格を満たした』スペースに成る。
観光用に改修された民間輸送機とかなら、そう言うのも有るらしい。
お金持ちが人を集めて山程の護衛を雇って、警戒領域に行って輸送機の上部で野生のバイオマシンを見ながらパーティとかする。そんな場合も有るそうだ。お金持ちって凄いことするね。
「て言うか、すげぇなラディア。お前バイオマシンの操縦出来んのかよ」
「あ、うん。ほら、僕の父って傭兵だったからさ。四年前に死ぬまでは、たまーに乗せてくれたんだよ。その時に基礎は教わったんだ」
「マジか。……良いなぁ。お前を置いて戦争行ったっての聞いた時はどんなゴミだよって思ったけど、そう言うの聞くと普通に羨ましいな」
「……なんなら、乗り方教えようか? 基礎しか教えられないけど」
「マジかっ!?」
シリアスが嫌がるから、シートに座らせる事は出来ないけど。でも、後ろで見てるタクトにこのままコックピットの装置を教えたり、フットペダルとかアクショングリップを動かしたらシリアスがどう動くのか、なんて事を教えるくらいなら大丈夫だろう。
流石に都市の中で変な機動する訳にもいかないから、ちゃんと教える時は都市の外に出たり、もしくは機体を好きに動かせる特定の場所でないとダメだけど。
「…………もうちょっとお金稼げるようになったら、タクトの乗機も用意しようか?」
「マジかッッッ!? …………いや待てダメだっ! それは流石に額がデカ過ぎる! 施しとか借りとか、そんなレベルの話しじゃ無く成る!」
「いや、お金は多分、言うほどかからないと思うよ。それに、最悪は僕に借金って事にして、乗機に乗ってお金稼いで、ちょっとずつ返してくれば良いんじゃ無いかな?」
「……いや、魅力的な提案だけど、金額がヤバいだろ。バイオマシン一機とか、何百万シギルもするんだろ?」
「あー、デザリアでも正規で買うと二五○万シギルくらいだって、おじさんが言ってたよ」
「流石に借金の額がヤバ過ぎる」
「いや、正規で買ったらその値段ってだけだよ。処理済みの
僕が「ねーシリアスー?」ってハンドルを撫でると、シリアスは右ガチガチでお返事をくれる。僕の考えはシリアス的にも実行可能な判定みたいだ。やったぜ。
「…………マジか。…………えっ、マジか? いやマジかっ!? えっ、じゃぁ、なんだ? これ結構、現実的な話しなのか?」
「僕はそう思ってるよ。タクトに返したい恩なら、これくらいしないと足りないって思ってるし」
「マジかぁー!」
タクトが「マジか」しか言わなくなっちゃった。
でも、本当に実行は可能だと思ってる。
僕にとってシリアスは世界最高のバイオマシンだけど、世間的にデザリアは最下級の方に分類されるバイオマシンだし。
おじさんに今朝聞いた話しだと、高ランクの警戒領域に居る機体とかを正規の手順で購入すると、値段が軽く数億とか行くそうだ。ヤバいねぇ。
それと比較したら、二五○万で買えるデザリアは本当に安い機体だ。それを更に本体は
「デザリアの処置済み
「マジかー。…………いやぁ、なんか、ラディアお前、本当に凄い奴になっちゃったんだな」
「何回も言うけど、今の僕があるのはタクトのお陰なんだからね? 僕が凄い奴って言うなら、そんな凄い奴を助けて凄く成るまで生かしたタクトはもっともっと凄い奴だよ?」
砂漠は過酷だ。
古代文明には及ぶべくも無いとは言え、それでも相応に凄まじい技術を積み重ねて来た帝国の領土であろうとも、砂漠の過酷さが消える事は無い。
と言うか陽射しがヤバいだけでも普通は十分に人が死ねる環境なんだ。ナノマテリアルの服を着てても、頭に直射日光を受けまくったら普通にヤバい。
ナノマテリアルの帽子も必要だ。帽子があったらかなり危険が減るけど、結局は水が貴重ってだけでも人間にとっては危ないのだ。
ほんと、父はとんでもない場所に僕を置いて行ったもんだよ。なんで寄りによって砂漠に置いて行ったんだ。
シリアスに出会えたから今は全面的に感謝してるけど。崇めても良いけど。でも普通に考えたら鬼畜の所業だと思う。
そんな場所で、僕は生き残った。
生きてシリアスに出会えた。それはタクトが生き方を教えてくれたから。つまり僕とシリアスの恋のキューピットがタクトなのだ。
…………え、凄くない? どうしよう、そう考えたらタクトを信仰しそう。縁結びの神かよ。ご利益が盛り盛りだ。
「……お前、いま変な事考えてるだろ?」
「ふぇっ、いや、……なんで?」
「お前さ、変な事考えてる時、口がモニュモニュする癖があんだよ」
「なんだってッ!?」
そんな恥ずかしい癖が僕にあったのっ!?
「お前が『井戸がポンポン』って言った時も口がモニュモニュしてたぞ」
「井戸ポン事件の事は忘れて下さいお願いします!」
僕が昔、お水を飲みた過ぎて頭が沸騰してる時に、その時喋ってたタクトとの会話内容とは別に、頭の中で『そこら中に井戸がポンポンと掘られてお水が飲み放題』な妄想してた事がある。
それでその時に、タクトに「おい、大丈夫か?」って肩を叩かれて正気に戻った僕は、ビックリして「井戸がポンポンッ!?」って叫んだ。
めっちゃ恥ずかしかった。二度とやらない。なんだよ井戸がポンポンって。巫山戯んなよ僕。
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