人は見てる。
「黒ちび、お前、町中でも良くゴミ拾いとかしてるだろ?」
「え、あ、はい。してます」
「そう言うの、周りはちゃんと見てんだよ。不法滞在者だったから構えなかったが、町の清掃に協力的なお前は、清掃課に好かれてんだ。…………そこのお姉さん方みたいな感じでな」
「……………………好かれ、てる?」
なに、誰が? 僕?
孤児で、不法滞在者の僕が? 町の、都市の職員さんに? 公務員に? 好かれてる? なんで?
「おお、すげぇ顔してら」
「し、心底理解出来ないって顔してるわね……」
す、好かれる? 好かれてる? すかれるってなんだっけ?
あれ、もしかして僕が言葉を間違えて覚えてる?
「好かれてる? 都市でゴミ拾いしたら『コレも捨てとけや汚物がよォ』って追加でゴミを投げ付けられた僕が? 携帯端末落として困ってた人に落し物見付けて持って行ってあげたら『汚い手で触るなッ!』って殴られた僕が? 同じスラム住まいなのに結構な数の闇店舗に入店拒否されてる僕が? なけなしの水ボトルを町の子供からいたずらにひっくり返されて死にかけた僕が? 悪い事したくないから仕事を選んでたら使いにくいって言われてスラムからも干されかけてる僕が? 誰に? なんで? どうして? どうやって--……」
「もう! もう良いのちびちゃん! 思い出さなくていいわ!」
「……好意に慣れてないって言うか、アレルギー反応が出てやがる」
「根が深いわね。こんなに成るまで助けられなかった事実に、罪悪感で胸が裂けそうよ」
お目々ぐるぐるの頭ぐるぐるしてたら、シリアスから頭撫で撫でさてれ正気にもどる。えへへシリアスぅ♪︎
そう、もう良いんだ。僕はもう、幸せにしか成らないから。シリアスが僕を幸せにしてくれるから。
だから良いんだ、過去がどうとか、もう良いんだ。
よし、もう大丈夫だぞ。
「取り乱しました! ごめんなさい!」
「謝るちびちゃん可愛いっ。…………それはそれとして今聞いた色々の犯人は調べ上げて潰しましょう」
「会に情報回しとくわね」
「都市監視課と管理課にも要請するわ」
「戦争よ…………」
な、なんだろう。なんか良く分からないけど、清掃員さん達が怖い。
触らない方が良いだろうか。職員さんの事情とか僕が知っても仕方ないし。気にしないでおこう。それよりも、赤髪お兄さんに聞かないと、僕は何も分からない。
「あの、兵士のお兄さん」
「ん? ああ、今更だが、俺の名前はルベラだ。ほら、今此処には『兵士のお兄さん』が十人も居るから」
「そ、そうですね。紛らわしくてごめんなさい。えと、ルベラさん……?」
結構長い付き合いだけど、初めて名前を知った。と言うか僕ってこの都市で名前知ってる人って、おじさんとタクトだけなんだよね。
基本誰も名乗ってくれないし。孤児に名乗る価値なんて無いんだろうけどさ、お陰で人の名前を覚える機会も無かった。
それに人と深く関わってトラブルに成るより、浅く浅く、すぐに引ける様な距離で付き合う方が安全だった。そんな生活をしてたのもあって、僕は誰の名前も知らない。
多分、名前を聞いても覚えてられない。覚える必要も無い生活を送ってたから、人の名前を覚えるのが苦手になってると思う。
「…………………………んー、待った。やっぱりお兄さんで頼む。もしくはルベラお兄さんでも良い。ルベラさんだとなんか、他人行儀で寂しいぞ」
えっと、あの、…………いや他人ですよね?
なんだろう。分からない。急に周りが距離を詰めて来る感じがする。昨日お兄さんに、ルベラお兄さんに褒められた程度なら、『泣いちゃうくらい嬉しい』で済んだのに、今くらいの距離感だと少し怖い。
でも、拒否するのも怖い。人によっては逆ギレとかするかもだし、何があるか分からないから。
いや、オリジンの権利を使えば大体の問題は片付きそうだけど、この権利は乱用する物じゃないと思うし…………。
「…………えと、はい。…………ルベラお兄さん?」
「良しなんだ要件を聞こうか。お兄さんが何でも答えちゃうぞ!」
結局、要求を受け入れてお兄さんと呼べば、心做しかルベラお兄さんは嬉しそうに笑ってくれた。
僕なんかにお兄さんと呼ばれて、嬉しい物なんだろうか……?
分からない。怖いなぁ。分からないのは怖いなぁ。
こう言う時は、怖く無く成るまで調べるに限るけど、都市の職員さんが僕をどう思ってるかなんて、どうやって調べれば良いんだ……?
都市の内情とか僕みたいな孤児が探れる訳無いじゃん。無理だ。無理過ぎる。
「えと、僕、このあと何か手続きとか居るんですか? 始末書? とか」
「…………ん? ………………ああっ、馬鹿を殺した件についてか? いや要らないぞ? 本来なら報告くらいは必要だが、今なら俺らが居るし。と言うか見てたし。あとの処理はこっちで全部やっておくから、黒ちびは何もしなくて良いぞ」
「……えと、殺しっぱなしで、良いんですか?」
「ああ。無礼討ちってそう言うもんだぞ。あ、もしこの先も何人か殺すなら、一応こっちにも報告してくれな?」
「あの、今更なんですけど、僕みたいな子供に、こんな権利持たせるのマズくないですか? 殺し放題とは言わないですけど、似た様なもんですよね?」
「いや、お前なら馬鹿な使い方とかしないだろ? 他のガキならいざ知らず」
な、なんで僕こんなに信用されてるの……? 僕なんかしたっけ? 覚えが無いんだけど。
他のガキって言うなら、僕よりタクトの方がよっぽど信用出来ると思うんだけど。
タクトは凄いよ。僕と同い歳くらいで二○人ぐらいのグループ纏めてて、しかも四年前に出会った時から既にリーダーだからね。当時なんて六歳くらいなのに、歳上の孤児とかも纏めてたカリスマだよ。本当に凄い。
先代のリーダーから指名されての襲名らしいけど、誰からも文句出なかったんだって。マジで凄い。凄過ぎる。
ちなみに、タクトの年齢が「くらい」なのは、正確な年齢が分からないからだそうだ。病院とか行けたらDNAマップとか調べて年齢判別出来るんだけど、不法滞在の孤児だから病院も利用出来ないんだ。
ちなみに、タクトもすぐそこに居るけど、都市の職員さんが沢山居るから気配を消して空気になってる。凄い気配の断ち方だ。アサシンかな?
「えっと、じゃぁ、もう行っても良かったり……?」
「おう、構わんぞ。何か用事か?」
「あ、用事って言うか、買い物です。端末買ったりしないと、色々不便なので……」
そんな訳で、何故か清掃員の皆さんから惜しまれつつ、ニコニコしてる兵士達にも挨拶をしてからその場を去る。
何事かと心配したけど、ルベラお兄さんが大丈夫だと言うので気にしない事にした。
もちろん兵士さん達にも同じように挨拶をしたら、初めて笑顔で手を振り返してくれた。なんなんだろう、周囲の態度が変わり過ぎてちょっと戸惑う。
うん、僕がちゃんとした人権を得たらきっと皆優しいんだろうなって思ってたけど、なんか想像してたのと違う。
なんか、こう、ベクトルが違う。想像してた優しさのベクトルが違う。
まぁ良いや。お買い物に行こう。
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