ただ、ありがとう。
シリアスが嘘を付かないなら、逃げられない聞き方をする。
僕とシリアスの間に、嘘をつかないなんて約束は無い。けど、僕はシリアスが嘘を付かないって勝手に思ってるし、仮に嘘をつかれても、騙し切ってくれるならそれで良い。
でも、やっぱり、シリアスは優しくて、素敵で、理性的で、頼りになる、この世で一番素敵なバイオマシンだった。
右が、動いた。
「…………なんで? なんで僕にそこまでしてくれるの? 嬉しいけど、シリアスが何かを捨てるのは、僕、嫌だよ」
泣きそうになる僕を見て、シリアスは背中に僚機を乗せたままアタフタしてる。
ごめんね。肯定か否定か、どちらでも無いか。三択でしかやり取り出来ないのに、こんな質問ばっかりする僕はズルいんだろう。
でも、他に聞き方が思い付かない。どうすれば良いか分からない。だから次の言葉が出て来なくて、そしたらシリアスがビシッと右のシザーアームで、兵士さんを指した。
刺したじゃなくて、指した。急でビックリしたし、兵士さんもビックリしてる。
「お、俺ぇっ!? え、俺、何かしたかっ? やらかしたか?」
「えと、いえ。シリアスは凄い理性的なので、やらかしとか、そう言うのは特に……」
「いや、まぁ。今のやり取り見てりゃぁ、信じられねぇくらい気の良いオリジンに見えるが……」
戸惑ってる僕と兵士さんは、シリアスが何を伝えたいのか分からずに右往左往する。すると、兵士さんの胸元からピリリリっと電子音。
「あん? 仕事中に誰だよ……。あぁん? 短距離通信? しかもテキストデータ?」
なにか起こったらしくて、兵士さんが制服の胸ポケットからスタイリッシュな形の端末を取り出して、ホロディスプレイで操作する。
「…………ぅぉおっ、マジかよマジかよ! すげぇマジかよ! うわすげぇ!」
突然兵士さんは、端末とシリアスを交互に見ては大興奮。何があったんだろうか?
「おい、お前の相棒からメッセージだぜ」
「…………えっ」
端末を受け取って、画面を見る。
ホロディスプレイは本来、持ち主以外からは見えない様に設定されてるけど、お兄さんは僕に見えるようにしてから貸してくれた。
そこには、『貸して欲しい』とだけ書かれてて、最初は意味が分からなかった。けどすぐに、シリアスがお兄さんに端末を貸してくれって、そうテキストを送ったのだと分かった。
シリアスはこんな事も出来たんだ。びっくりして、でもシリアスとちゃんとお話し出来ると思うと、ドキドキしてふわふわする。
「…………シリアス、教えてくれる?」
右ガチガチ。そこはシザーアームを使うだと、なんか少しだけおかしかった。
「シリアスはなんで、そこまでしてくれるの? シリアスにとって、僕って何?」
なんか、クソ重いメンタルの女の子みたいな事言ってる自覚はある。兵士のお兄さんも近くに居るのに、ぶっちゃけ恥ずかしい。
けど、今これを聞かないと、僕はこの先ずっと、シリアスとの距離感を間違えると思った。
だから聞いて、答えが欲しくて、そして一拍の間があって。
-ピリリリッ。
…………あ、お兄さんごめんなさい。操作方法分からないです。
「お、おう。こうして、受けた通信開いて、テキスト出して…………」
そうやって見た、シリアスからのテキストは一言だけ書かれてた。
『幸せにする』
胸がギュッッッッてなって、死ぬかと思った。
膝から崩れ落ちて、涙がポロポロ出て来た。
「…………こいつぁ、すげぇなぁ」
うん、凄い。
一発で僕はやられてしまった。
もう、なんか、良いや。全部どうでも良くなった。
シリアスは、僕を幸せにしてくれるらしい。
おかしいよ。だって、僕はもう、出会ってからずっと、ずっとずっと、ずぅぅーっと、幸せなのに。
これ以上は、破裂しちゃうよ。
だけど、それも、良いや。破裂しても、シリアスに壊されるなら、僕は幸せだ。
シリアスは、僚機を壊して、それを売り払っても、僕と一緒に居てくれるらしい。
吠え声。または嗚咽?
もう、気が付いたらワンワン泣いてた。幸せで胸がいっぱいだ。
耐性無いんだって。ちょっと手加減してよ。
「おまっ、大丈夫かっ!? そこまでガチ泣きされると流石に居づれぇ……!」
ごめんなさい。すら、マトモに言えない。
もう、自分がなんで泣いてるのかも、分からない。
気が済むまで吠えて、泣いて、今日までの人生を全部涙と一緒に絞り出した。
一緒に居てくれる。
犯してはならない、その何かを犯しても、シリアスは僕と一緒に居てくれる。
その証明が、シリアスの背中に積まれてる。その想いが兵士さんの端末に届いてて、シリアスの愛情は僕の心に届いてた。
なら僕は、この気持ちは、どうやってシリアスに届ければ良いんだろう。
クソだった。僕の人生はシリアスに出会う瞬間まで、何から何までクソだった。
電脳小説の題材になれるほどにヒロイックな悲劇も無く、ただ一山いくらの不幸として溢れては消えていく、文字通りゴミその物の人生を歩いて来た。
その辛さも、緩くて終わりの無い絶望も、全部がシリアスに出会う為の、幸福の前払いだったのだとしたら、僕はもう、ただ納得するしか無い。
今度こそ、今度こそは納得しよう。
僕は、僕の人生に納得した。報われた。幸せになれた。
そして今日から、いや昨日から、もう僕は幸せ以外の人生など歩めない。
全部絞り出して、想いの丈を吠えて、背中を摩ってくれるお兄さんにも、必要も無いのに全部語った。
そしたらシリアスも、テキストでいっぱいお兄さんの端末に何かを送った。ずっとピリピリ鳴ってて、鳴り止まない。
お兄さんが「端末がバグったかッ!?」って慌ててるのが面白くて、泣きながら吹き出してしまった。
笑ってるのか泣いてるのかも、僕ももう分からない。
ああ、幸せだ。
クソ親父。いやお父さん。
今日まで胸に溜めた罵詈雑言全部捨てるから、一言だけ贈らせて欲しい。
ありがとう。
僕は置いて行かれて幸せだった。
シリアスに出会う為の準備だったんだ。だから良かったんだ。今日までの全部、僕はきっと幸せだったんだ。
だから、ありがとう。
ただ、ありがとう。
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