過剰摂取。


 余りにも幸せで混乱しちゃう。


 え、大丈夫なの僕? 幸せの過剰摂取で死なないッ!?


 健康用ナノマシンでも過剰摂取は体に悪いんだよッ!? もしかしたら幸せも過剰摂取はダメじゃないッ!? だってこんなに幸せなんだよっ!?

 

 ああダメだ。混乱して来た。過去も未来も、一生分の幸せが今、いっぺんに来た気がする。確かに全部纏めて一撃で終わらせてって願ったけど、幸せの事じゃないよ。僕は罪と罰を寄越せって願ったのに、こんなに弩級の幸せをくれちゃってまぁ、でへへへぇ嬉しいですぅ。


「…………ん! よし、これ以上デレデレしたら液状化しそうだから、ちょっと引き締める!」


 あんまり効果無さそうだけど。


「ああ、そうだ。天使さん、じゃなくてシリアス。…………呼び捨てでも良いですか……?」


 違う。聞きたかったのはコレジャナイ。けど急に気になって、気になったら心配になっちゃった。

 

 でも右ガチガチしてくれたから幸せ。えへぇ……。

 

 あぁーダメだ。頬がゆるゆるンなる。


「……僕、その、シリアスのお仲間の、残骸とか、集めて、お金に替えて、生きてました。四年間、やってました。…………シリアスは、怒ってますか?」


 右のハサミが持ち上がった瞬間、心臓がギュッッッてなった。死ぬかと思った。胸がズキズキして痛い。

 

 けど、シリアスは右ちょいガチからの尻尾フリフリ、からの左ガチガチ……?

 

 な、なんて高度な返答をして来るんだ…………!


「……右のちょいガチは、ちょっと怒ってた?」


 左ガチガチ。


「あ、違うんだ。じゃぁガチめに怒ってた……?」


 右ガチガチ、


 あぅ。辛い。死にそう。シリアスに嫌われたら本当に、多分、何もなくても勝手にショック死する。比喩じゃなくて。

 

 ああでも、今は謎解きだ。


「…………本当に怒ってたけど、ちょいガチから尻尾フリフリの、左ガチガチだから、……今は怒ってない?」


 右ガチガチ。

 

 …………あぁ、ほっとした。凄いほっとした。そうか、これが「ほっとする」って感覚か。


「……えと、右ガチ、フリフリ、左ガチガチだから、前は怒ってたけど、何かあって、今は怒ってない?」


 沢山の右ガチガチ。良かった。ああ本当に良かった。


「その、これからは、もうやらない方が、良い?」


 左ガチガチ。…………え?

 

 え、やらない方が良いって聞いて、否定されたから、やった方が良い? やっても良い?


「え、良いの? シリアスの仲間の、亡骸だよね?」


 右ガチガチ。


「僕、それを集めて、売り飛ばしたんだよ?」


 右ガチガチ。


「……本当に、良いの?」


 右ガチガチ。


「…………僕に、気を使ってる? 本当は嫌だったりしない?」


 …………左ガチガチ。そして右ちょいガチからの、尻尾フリフリ、左ガチガチ。

 

 えっと、これは? ああ、気を使ってるに否定。それで本当は嫌だったりするかで、右ちょいガチからの、さっきと同じか。

 

 前は怒って、もしくは嫌だったけど、今は嫌じゃない?


「僕に気は使ってない。前は嫌だった、もしくは怒ってたけど、今は大丈夫?」


 右ガチガチ。


「…………ほ、本当に良いの? 死んじゃってるって言っても、シリアスの仲間だよ? その先どうなるかも分からないのに、売ったんだよ?」


 こんなに聞いても、それでも、右ガチガチ。それで、また僕の頭を撫で撫で。

 

 泣きそうだ。恋人に、て言うか恋仲の相手に、彼女に? 縋り付いて謝って泣きたい。

 

 けど、シリアスは良いよって言うから、泣いて謝るのは違う気がする。

 

 だから、代わりにコッチを言おう。


「…………シリアス、ありがとう」


 右ガチガチ。

 

 あー、ダメだー! もうダメだー!

 

 僕はもうシリアス無しじゃ生きて行けない。もうシリアスのコックピットに乗れない生活とか考えられない。シザーアームをガチガチして尻尾フリフリするシリアスが見れない生活とか絶望だ。

 

 ああ、そうか。僕はシリアスに恋して、それと一緒に庇護されたかったんだ。

 

 大きくて、強くて、優しくて、頼りになって、慰めてくれて、僕が欲しかった物を全部くれる、そんなシリアスがお母さんで、お父さんなんだ。

 

 つまり僕は、機械に本気で恋した超弩級の変態で、人工知性にときめいたクッサいロマンチストで、ヤバいレベルのファザコンで救いが無い程にマザコンなんだ。

 

 もう何なんだ。何冠達成する気だよ。誰か僕を殺せよ。でも死んだらシリアスと一緒に居れないからやっぱ良いや。このままで。


「…………じゃぁ、僕は、シリアスの仲間の遺品を集めて、売って、お金を稼いで良いの?」


 右ガチガチ。からの頭撫で撫で。もうめちゃくちゃ繊細。なんでそんなに大きなアームで僕の頭を優しく撫でられるの。凄くない? 僕は最愛の彼女の何処に惚れ直せば良いの?

 

 すぐ撫でてくれる優しいところ? 撫でて欲しい時に撫でてくれる気遣いなところ?  それとも僕に痛みを全く甘えないで沢山撫でてくれる超絶技巧派なところ?

 

 もう大好きだ。あーダメんなるぅ……。


「……シリアス、ずっと僕と一緒に居てね?」


 右ガチガチ。もう結婚します。シリアスは僕のお嫁さんです。


「……………………はっ!? そう言えばあの子の陽電子脳ブレインボックスはッ!? 何処どこ行った!?」


 外か!? 置きっぱなしか!? 砂漠の陽射しの中で屋外放置は流石にマズイですよッ!?

 

 と、思ったらシリアスがアームをクイクイ。僕の頭を撫でないで、僕の方をツイ、ツイっと指し示す。んー?


「…………あ、シートの後ろに!」


 あるぅー! 僕のボロボロ&抱き締めてたせいで血塗れターバンにグルグル巻かれた陽電子脳ブレインボックスが、あるぅー!

 

 凄い、こんな場所にあんな大きなアームで、どうやって置いたんだろう? 流石だ、流石技巧派……。

 

 多分、シリアスがセクサロイドとかだったら、僕三秒とかで終わっちゃう気がする。初め、終わり! 早い! みたいな。

 

 ……んー、クソだ。自分で言うのもアレだけど、十歳の癖にこんな、妙にマセてるの、クソだ。

 

 もうちょっと、なんかこう、お淑やかになろう。……男がお淑やかにってちょっと違う? まぁ良いか。


 ………………あれ、て言うか、あれ?


「…………ねぇシリアス。僕ってどれくらい寝てたの?」


 

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