サソリの空腹。



 腹が、減った。

 ああ、腹が減った。

 最後に、仲間を食べたのは、何時だったか。

 もう、パワーゲインの操作をしても、持たない。

 最後だ。ああ、最後だ。

 あの陽が、傾く頃には、パワーも尽きる。尽きれば、陽電子脳も、腐る。腐って、終わる。

 クソみたいな、生だった。

 何年、稼働したか。二○年は、稼働したか。

 乗り手も居らず、無責任に、作られ、ハンガーに空きも無く、基地から、放逐される。

 なんのために、作られたのか。

 乗り手は、何処に居るのか。

 どうして、作ったのか。

 帝国は、どうなったのか。どうして、終わるのか。


「……うわぁ、デザリアの死骸とか初めて見た。…………えっ、うわっ、コイツ生きてるっ!?」


 人。人か、人だ。

 肌の焼けた、黒髪の、幼い、子供だ。

 しかしIDも、持たない。所属は、帝国か?

 民間人。違う、スキャニングが、上手くいかない。でも、帝国人では、無い。

 デザリアとは、何だろう。此の身の、事か。

 此の身は、デザリア? 違った、気がする。分からない。


「す、凄い。丸一機分の生体金属ジオメタルとか、いったい幾らで売れるんだ……!?」


 じおメタル。察するに、此の身の素材を、指しているのか。


「これだけ生体金属ジオメタルがあれば、それだけで数年は生きれそうだぞ」


 此の身は、売却される?

 目的もなく、産み出され、宛もなく、稼働し続け、最後には、素材の扱いを、受けるのか?

 何故か。何故、なのか。

 此の身は、それほど、罪深い?

 なぜ、なにゆえ、此の身は、売却される?

 軍法に、適うのか。違う。帝国人では無い。軍法の、執行権利を、有さない。

 ならば、敵か。此の身は、略奪の対象か。最後に、敵を、倒せるのか。


 …………その最後なら、良い。


 ああ、役目が、出来た。

 敵を、排除する。ああ、役目が、出来た。

 感謝、する。敵国の、民間人。

 最後の、最後に、帝国の機体として、死ねるのか。

 ああ、感謝する。

 

「ほ、本当に瀕死なの? うわぁ、こんな幸運ってホントにあるんだ……」


 瀕死、だとも。ああ、瀕死だとも。


「…………いや待てよ? 死にかけなら、もしかして生体金属心臓はダメになってるかも知れない。……陽電子脳は生きてると思うけど、…………い、生きてるよね?」


 生きて、居る。ああ、生きて、居るとも。

 此の身は、まだ、生きて、居るッ…………!


「……いやダメじゃん。こんな量の金属、どうやって持って帰るんだよ。…………僕はバカなのか」


 略奪など、認めない……!

 帝国、憲章にもッ、そう、在るッ……!


「いやいや、ダメだろ。そんな運び方して、他の元気なバイオマシンに目を付けられて襲われたら、そのまま死んじゃう……」


 そう、……そうだ。僚機が、此の身は、僚機を……。

 なぜだ。鹵獲ろかく、されたか? なぜ、襲うのか。

 なにゆえだ。なぜ、なぜなのだッッ……。

 此の身は、帝国の、攻撃対象、なのか……? ちがう、はずだ。

 おかしい。全てが、おかしい。

 ハンガーが埋まっても、稼働する基地も……!

 此の身を襲う、僚機もッッ…………!

 民間人に、略奪される、帝国もッッッ……!

 二○年も、乗り手が、居ないッッ、此の身も!

 何もかもが、おかしいッッ……!


「ごめんね。君がもし元気なデザリアだったら、仲良くなりたかったけど……、と言うかそれで君に乗れたら、最高だったんだけど……」


 此の身も、乗り手が……! 共に過ごす、乗り手がぁ……!


「さて。……ごめんね。君も生きたいんだろうけど、僕も生きたいんだ」


 そう、生きたい!

 何も、無い! 此の身は、何も無く、朽ちるのか……!?

 さぁ、来い! 最後に、略奪者を殺し、終わるのだ!

 此の身は、軍の兵として、終わるのだ……!


「あ、足音……」


 また、僚機が……、何故なにゆえかッ!?

 此の身は、軍規を、犯したかッ!?


「そ、そうか。瀕死の、この子を食べに来たんだっ。ど、どうしよう……!?」


 なぜ、僚機を食らう!?

 補給なら、基地に行け! 何が、何処が、誰がおかしいのだ!!


「し、ししし、死にたくないっ。隠れないと死ぬ……!」


 なぜ死ぬ!? なぜ帝国の領土で、僚機から隠れるッ!?

 意味が、意味が分からない……!

 此の身を食った僚機を殺し! 此の身を襲う僚機を殺し! なぜ僚機と民間人に襲われる……!?

 此の身が生まれた意味は何なのだァ! なぜっ、なぜ乗り手も無く朽ちるのか!?

 なぜ指揮が無い!? 此の身は何処どこの指揮下にあるっ!? なぜ指示が無い!? 待機命令すら無いのは誰の責任かッッッ!


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