天使とアンドロイド(仮称)

@nazca_desuga

序 第一章

夢を見ていた、地球ではないどこか他の星、あるいは地球の裏側のように奇妙な場所を探索する夢を。少し緑色がかった灰色の砂漠には巨大な塔が建っていた。塔と言っても入口はなく、「石柱」に近いのだが、それは塔だった。その塔には記号が刻まれていた。読むことはできないが、何か定まった意味内容を伝えている。古代ルーン文字のようにも、極東の国の「片仮名」にも似ているが細部が異なる。また単語と単語の空白から察するに、英語や中国語と文法が似ているようにも思える。「まるで、多言語話者の子供だな。」と僕は思った。言語の海の水を手で掬い上げたかのように混ざり合っている。興味をそそられた僕はその刻印に手を触れた。その瞬間凄まじい轟音と共に、刻印は光を放ち、僕の視界は真っ白になった。そこで僕の夢は終わった。

第一章

「zrrrrrrrrrrrrrrrrrrr」脳内に直接電子音が響く。目を瞑ったまま、空中に浮かんだディスプレイをタッチして、目覚ましを止めた。ベッドから降り、食物提供装置から朝餉を取り出す。

豪華でもないが質素でもない、人工培養肉ベーコン、ハイ小麦のパン、人工卵の目玉焼きの定番メニューだ。指を空になぞらせ、ディスプレイを起動し、朝のニュースを見る。

「・・・続いてのニュースです。深夜二時ごろに○▽□で謎の爆発が確認されました。幸い負傷者はなく、近隣住民に寄ると、隕石が空から飛来したとのことです。只今国家委託警察が事実確認を行っています。次のニュースです。桜の開花が・・・」

なんと家のすぐ近くじゃないか!僕は驚いて外を見た。

すると次の瞬間、パリーーンという硝子の割れる音と共に、人が飛び込んできた。いや、正確に言うとこれは人じゃない人型のナニカだ。そのナニカは声を発した。

「オリジン。オリジン。オリジン。」

その‘オリジン’とは何なのか、問いたい衝動にかられたが、本能が告げている。「逃げなければ死ぬ」と。その声に従い駆け出した。部屋を出て、エレベーターに走る。運よく自分のいる23階に止まっていた。

「乗りまーーーーーーーーーーす!!」とまるでトランスポーターに乗り遅れた女学生のようなセリフを叫びながら飛び乗った。

「ア」

僕は絶句した。そこにはさっきの人型がいた。

「ははは・・・また会いましたね・・・」

いくらなんでもこれは厳しいだろ。

「くっそー――――――――――」

僕はエレベーターからおりて廊下を走った。時折後ろを振り返ると人型が追いかけてくるのが分かる。

「何なんだあれ、何で僕を追ってくるんだ」

分からないことだらけだ。しかし、そんなことを考えている余裕はない。

廊下の終わりが近づいてくる。

このままじゃ追いつかれる・・・!

階段を駆け下りようとしたその時だった。

「上へ上がれ。」

自分は身構えた。さっきの人型にもう追いつかれたのかと思った。

しかしその声の主は女であった。

どう考えても悪手である。下に降りれば誰か助けを呼べるかもしれない。しかし、僕はその最後の望みを捨て、その声に従い僕は階段を駆け上がった。

上る。登る。昇る。

今まで味わったことのないほどの緊迫感と共に上る。

上る、登る。一生分の呼吸をしながら昇る。

人型はついてきている。

上には逃げ場がない。行き止まりだ。いずれ捕まってしまう。そんなことはわかっている。それでも上る。あの声が何なのかもわからない。それでも信じる。この身体がそう判断した。登るべきだと。

だから昇る。

そして僕は屋上の扉を開けた。

一面に広がる青空。全く皮肉なものだ。こんなに爽やかな終わりがあってたまるか。

数秒後奴らが屋上に上がってきた。僕は諦めの境地にいた。彼らが何者かは知らない。何が目的かは分からない。それでも理解る。僕はここで殺される。

諦念により、初めて頭が冷静になった。彼らの容貌、挙動、音、全てを観察する。身体は、二つの腕に二つの脚、人型アンドロイドに近い、しかし顔は存在しない。近頃のアンドロイドは表情を作り出すことが出来るってのに、不愛想な奴らだ。動きはとても速く、こちらの動きに即座に反応している。人工筋肉を用いているのだろうか。そして音、機械の排気音はしない。おかしい。いくら人間に近いアンドロイドと言ったって、排気音はするはずだ。人間が息をするように、機械は熱を排出しなければならない。

これらの観察から導き出される答えそれは、、、

「天使だよ。」女の声が聞こえた。

「君はいい観察眼をもっているね。そうやって冷静になれるのは素晴らしい才能だ。」

女は続けた。

「天使・・・?」何を言っているんだ。まずお前は誰だ。

「質問は後さ、ほら前!」女が叫んだ。

前から奴らが突進してきた。かろうじてそれを躱す。

「何なんだ!お前は!どこから話しかけてる!」

「君の脳内デバイスに電気信号を送っているのだよ、N君」女はさぞ当たり前かのように答えた。脳内デバイスでの双方向意思疎通はまだ実用化されていない技術なんだ。そんなのどうやってるっていうんだよ。

「それはね・・・」

っておいお前もしかして僕の思考も読み取れてる?

「うん!」

もう意味がわからない。

人型が方向転換をして、またこちらに突っ込んできた。右に避け、、、人型が視界から消えた。その瞬間。

「いっっってえ!」腹部を腕で捕まえられ、そのまま投げられてしまった。すかさず受け身を取る。

速度が速すぎる。やっぱり普通のアンドロイドじゃない。

「だから天使だって、言ってるでしょ!」

女の声が聞こえる。

そんなのに構っている余裕はない。次の攻撃に警戒する。

「もういい!」女が愚痴をこぼす。

人型がまたこっちに向かってくる。さっきの異常な速度で突っ込まれるともうこっちには何もできない。くそ、万事窮すか・・・

しかし人型の速さは変わらない。この速度なら・・・!避けられる!

何故だ。何故あの高速移動を使わない。

観察するんだ、じっくりと。

身体に目立った変化はない。挙動の変化は、通常速度の移動から、高速移動への変化。音はやはりない。視野を広げる。人型個体から個体周辺へ観察対象を拡張する。なんだ・・・?陽炎が立っている。おかしい。こんな春に陽炎なんて立つわけがない。そんな熱源なんて、・・・!

「はいはい、やあやあ、気づいたかな??そう!あの陽炎は人型もとい天使ちゃんの熱によって生まれているものなのさ。やはり君の観察眼は素晴らしいね!ほんと」

何分かぶりに女の声が聞こえる。

超高速移動、高温の躯体。もしや超高速移動の即座的な人工筋肉の収縮と弛緩により、大量の熱が発生している?

「ピンポーーーーン!ご名答だよ少年。それから?」

それから??あと何があった。

「カーカー」どこかでカラスが鳴いた。

そうだ音だ。人型から排気の音はしなかった。ならば熱を排出する装置は付いていないはずだ。

超高速移動により発生した高熱を逃がすための装置が存在しない。ということは。

自然に冷めるのを待つしかない!

つまり高速移動後、次の高速移動までにはインターバルが必要ということだ。

「そうだカー、やっと分かったカー」

うるさいカラスだ。全く。

しかし、この謎が解けたところで、反撃する手段がない。ただ、逃げ続けるのは不可能だ。何せ相手は人間じゃあない。

「武器ならここにあるよ」

女が言った。

「どういうことだ。」

「私はオリジン。私が君の武器になってあげる。」

女は微笑みながらそう言った。

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