ニンゲン型PC

@Loss

最初で最後

 [日々がつまらない? そんなあなたにおすすめ! 嫌な気分が吹っ飛ぶ、合法ドラック!!]

 視界の端に広告がチラつく。即座にトラッキング拒否と、アドブロッカーをインストール。

 【本日の予定はこちらです】

「あー、牛乳買うから、通知して。六限目の後」

【リマインダーに設定しました】

 予定表を確認しながら、諸々の準備を経て家を出た。



 暫く歩くと、同じ制服を着た人間がぞろぞろと現れる。その中に一際目立つ男女コンビがいる。男は長身で、穏和な顔つき。女はスタイルが良くて、きつめの顔立ち。美男美女だ。俺からしてみると、二人とも毛のない猿にしか見えない。やっぱり、この世界で一番美しいのは、第E3417系惑星のアイドル、カンナミアだ。

 「おはよう」

 振り返るとひとりの女。所謂、幼馴染。仲良くはない。けど、悪くもない。家族ぐるみの付き合いなので、挨拶や世間話程度はするように心がけている。

 「おはよう」

「昨日のテレビ見た?」

「あー、何の?」

「あれ、えっと、ホラー特集の」

「んー、あぁ、あれね。見たわ」

「怖くなかった?」

「どーだろ、俺はあんまり怖くなかったケド」

「あんた昔からそうだよね。心臓に毛が生えてるっていうか」

 そりゃそうだ。「ブラックホールの向こうから」を見たら、この世界の全てが怖くなくなる。

 「よく言われる。そんな俺は、期末試験も怖くない」

「げっ。嫌なこと言わないでよ」

「何の話してんの?」

 金髪で制服を着崩した男が声をかけてきた。

 「あっ、敦」

 そう言いながら髪を撫でつける斎藤(幼馴染)。海堂(敦)は、口元で笑いながら据わった目でこっちを見ている。盛りのついた猿だな、マジで。

 「おはよう」

「おはよう。んだば、俺先に行くわ」

「え? 何でよ」

「そこの彼が怖い目してっから」

「ちょっと、敦!」

 幼馴染の小言を背後に俺はさっさと歩いた。



 学校の授業はクソつまらない。

 「いいですか、この公式は・・・・・・」

 先公が物知り顔で挙げている公式は、極めて限定的な環境下でしか通用しないことが既に知られている。というか、常識だ。わざわざそんなドマイナーな公式を、特に数学者を目指しているわけでもない俺が学ぶ意味はない。数学だけじゃない。物理は迂遠すぎだし、生物学はワールドワイドに通じないし、化学は遅れているし、世界史とか日本史はちまちましているし、政治経済は幼稚だし。倫理ぐらいだ。俺が学ぶ価値があると思うのは。

「だからここは・・・・・・」

 暇すぎて寝そうなので、獅子紅蓮(ゲーム)を起動した。

 【サンゲントビードルがログインしました】

 チャットを開く。

 [誰かいる?]

【究極絶対サンゲントビードルの嫁がログインしました】

【サンゲントビードルがログアウトしました】

 即座に今のネット回線を遮断しつつ、別の回線を起動。鍵付きオープンチャットに[獅子紅蓮にメンヘラ出現]と書き込む。

 [ま?]

[まじ]

[やっば]

[ねえ? 何でログアウトしたの?]

 げっ! 

【サンゲントビードルがオープンチャットを退会しました】

 ほんまにあいつ厄介だわ。かまってちゃんがネットに詳しくてストーカーするとかやめてほしい。獅子紅蓮で知らず知らずのうちにチャットして、優しくしたのが悔やまれる。つーか、最近、垢BANされてただろ。

 【メールが届きました】

from:ゲンテンジンバクス(genBakusu@world.com)

to: サンゲントビードル(sansanbitoru669@tikyu.jp )

件名:なし

本文:これ、インストールしとけ。

URL:https://blocker.dd/perfectone


 おっ! 最新式のウイルスバスターアプリ。サンキューと送り、インストール。


 【メールが届きました】

from:ゲンテンジンバクス2(genBakusuVer2@world.com)

to: サンゲントビードル(sansanbitoru669@tikyu.jp )

件名:なし

本文:他のメール乗っ取られた。俺の別のアカウントからのメールは絶対に開くな! マジで!! お前がカンナミアの写真集100冊以上買って、イタイファンメール送ったの知ってんの俺だけだろ!

「愛しのカンナミア様へ〔以下略〕」


 あっ。

【インストールが完了しました】

【ウイルスを確認。・・・・・・。未定義のウイルスです。保護のため全プログラムを強制停止。初期化します。・・・・・・失敗しました】

 [やっぱり、あなたは私の愛を受け入れてくれるのね]

[愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる

【読み込み中・・・・・・。読み込みに失敗しました。リトライしますか? する。 しない。】

【する が選択されました】

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【読み込み中・・・・・・。読み込みに失敗しました。リトライしますか? する。 しない。】

【別の端末からの未知のアクセスを検知。・・・・・・認証しました。アプリをインストールします。インストール中。インストール完了。アプリを起動します。汚染領域隔離機能を起動します。隔離中。隔離完了】

 うぉぉ!

【しない が選択されました。読み込みを停止します】

【OSに著しい損傷を確認。修復します。修復中・・・・・・】

【バックアップデータより、修復完了】

 頭イテェ。俺は机の上に突っ伏した。ゴンっ、と重い音が響き、先公とクラスメイトが視線をやる。

 「大丈夫か? すごい音したぞ。おーい。体調でも悪いのか?」

 先公の手が額に触れる。

 「うおっ、熱いな! 誰が保健室の先生呼んで来い!」

「あっ、はい!」



 あー、頭イタイ。目を開けるとそこには、斎藤とあの美男美女カップル? が。

 「えーと」

「大丈夫?」

「おお。何で、このお二人が?」

「近藤くんと先生で運んで、遊佐さんが荷物まとめてくれたのよ」

「ま? お手数おかけして申し訳ねー。毛のない猿とか思ってごめん」

 あっ、口滑った。

「え?」

「いやいや、ごめん何でもない。ちょっとぼうってしてて。何でもない」

「あ、ああ」

 困惑した表情の近藤くんと、ムッとした遊佐さん。

 「起き抜けに軽口叩けるなら、もう大丈夫ね。近藤くん、行きましょう」

「まあ、長居するのも良くないし。そうだな。お大事に」

 近藤くんは、中身までイケメンなのか。嫌なこと言った俺にまで優しいとは。涙が溢れてくるぜ。兄貴って呼んでもいいですか?



 ちょっと待て。本当に俺か、これ。なんか違くない? [バージョン確認]。

【バージョンを表示します】

【バージョン 20.67】

 勝手にアップデートされてる。

【コミュニケーション時、心の中で相手に悪態をつく不具合を修正しました】

 それ、不具合ちゃう。ああ! 言いたいこと山ほどあるけど、まずはあのかまってちゃんをどうにかせんと。

 「今日この後どうするの?」

「お前の彼氏さんが来る前に帰るわ」

 ちょうどその時、保健室のドアを開く音がした。妙な緊張が一瞬、二人の間を走る。

 「あら、起きたの」

 保健医だった。

 「あのー、早退したいんですけど」

「私もそうした方がいいと思うわ。今、親御さんに電話して来たんだけど、繋がらなくて。ひとりで帰れる?」

「はい。そんな遠くないんで」

「分かったわ。じゃあ、この紙に名前書いてちょうだい」

「私のついていこうか?」

「彼氏さんに殺されるわ」



 帰り道にでも、かまってちゃんがいるんじゃないかとビクビクしていたが、そんなことはなく。普通に家に着いた。まだ、自宅バレはしてないらしい。

 「すみません。ここの家の方ですか?」

「えっ? ああ、はい」

 宅配便の人に声をかけられた。いや、宅配便の人というか、宅配便の格好をした、灰色で目がおっきくて、ツルツルした生命体、所謂グレイである。

 「ちょうど良かった。これ、お手紙です」

「あー、はい」

 受領書にサインして、グレイと別れて、中身を検める。A4サイズの、シワが入った、ボロボロで、生活感がある紙の中央にでっかく一言だけ書かれている。

[「見つけた」]

 後ろに・・・・・・。

 

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