第7話 もう一人の時間旅行者1
ポツポツと3人で歩いているとドイルの眼科に到着する。ナギは眼科に入ると真っ先に近くの長いソファに倒れ込む。
「ぐへー疲れたー」
「手がかり、簡単に見つかってくれてもよかったんだけどなぁ~。観光も殆どできなかったし」
せっかくの誘拐作戦も無駄に終わったのだ。そんなに早く原因が見つかるならどっかの誰かが狙って呼んだということだ。現代科学でもできないことを130年前にするという狂気、そこまでいくともはや異世界である。
「というか、ナギちゃんがあんなに強いとは思わんかった。自分から誘拐されに行くと言ったときはいよいよ頭のネジが外れたと思ったぞ。」
ドイルがそう言うと、2人の話をそばで聞いていたベストの男が初めて口を開く。
「あれは確かに常人なら考えようともしないだろうね」
「いや、なぁにしれっと付いて来てるの?」
ナギは目を細めてベストの男に質問した。
「僕は君たちに尋ねる為にここに来たんだ」
「君たちは何者だ?」
ベストの男はナギの方を真っ直ぐ向いて問いかける
「そりゃー私は未来人だけど」
「ほう。自分で未来人と名乗るということは、やはりあなたが僕をこの時代に連れて来たのか?」
ナギはその言葉を聞いてソファに倒れ込んでいる姿勢をムクッと起こした。
「えっ、もしかして私と一緒!? 私も突然この時代に連れて来られて困ってたんだよ。同類いたんだ。ちょっと安心したわ~。」
ベストの男は戸惑ったように追加で質問を投げかける。
「ちょ、ちょっと、じゃぁあなたは一体いつから来たんだ?」
「2022年…だけど」
ナギは嫌な予感がした。
(こんな質問をするということは…)
「遠い未来…私は1860年からやってきた」
ナギの予想ではベストの男は現代人の筈であった。現代にいても別に不思議ではない格好であったからである。しかし結果は約160年前という大昔の人間であったのだ。驚かない訳がない。
「はぁ!? いや、えぐ…未来に近づくどころかかけ離れて行くんですけど…」
ナギは本日、立て続けに異常なことを体験しているため、少しは耐性がついていたつもりだったが、それでも驚く。
「これ以上面倒事を増やさんでくれ…」
ドイルからの小さい叫びが聞こえた。
「あ゛ー今日は色々有りすぎて疲れた。ドイルさん、家に連れて行って下さい。」
「そうしよう、私も疲れた。すまんが、そこの兄ちゃんまた明日来てくれるか? その時また聞こう。はぁ…しかし、ルイーズにどうナギちゃんを紹介したものか…」
しょんぼりとした笑みを浮かべたドイルはメモを手に取りポツリと独り言をこぼす。
「小説のネタが手に入ったからよしとするか…」
その独り言を聞いたのかナギはドイルにこう問いかけた。
「あ、そういえば今どんなとこ書いてるの? まぁホームズがモリアーティ教授に殺されるところまでしか知らないんだけどねー」
そう言うと二人はガンギマった目でナギを見つめていた。ナギは2人の形相に「えっ…」と言葉を漏らす。ジロリとこちらを見るその目を見て、文化祭の打ち上げでカラオケに行ったときにメンバーの浮気を意図せず晒して公開処刑となった記憶が鮮明に蘇ってしまう。
(私なんか不味いこと…言ったな。確実に言ったな。多分まだそこまで書いてなかったんだこれ。ほら、割りと序盤のほうだから…つい…)
ドイルが持っていたメモを手から落とし声を出す。
「な、ナギちゃんそれホント?」
「えっ…は―――」
ナギが肯定の意を示そうとするとベストの男が割って入った。
「その二人のフルネームは!?」
ベストの男は鋭い目つきでナギを見た。
「シャーロック・ホームズと…えーと、ジェームズ・モリアーティだけど……」
ナギが浅い知識を必死に思いで頭の中から見つけ出し、伝えるとベストの男は黙って考え込んだ。
「えーと、それがどうかした?」
「ああ…いや…」
生返事である。
「そういえば、まだ名前も聞いとらんかったな? 君、名前は?」
ドイルが家に帰る準備をしつつ質問を投げかけると、ベストを来た男は両手の指先を合わせて人差し指をぐるぐると回転させながらキョロキョロしていた。まるで悪い点数を取って親に見せられない子供である。
「その…僕もシャーロック・ホームズだ」
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