第39話 体育祭の準備

「体育祭の準備なんだよ!」


「会長、手を動かしてください」


夏休みも明け、体育祭が間近にせまる。

生徒会の面々は準備に追われていたのだった。


「も~風ちゃん、ノリ悪い~」


「体育祭が間近に迫っているのに関わらず、生徒会主催の競技が決まってないんですよ。少しは焦ってください!」


「なら、何かいい案は浮かんだ?」


「そ、それは…ないですけど……」


「でしょ?他のみんなはどう?」


美玖は意見を求めるが、誰も意見を上げない。


「夜海先輩……どうしたんで、しょうか…」


「みっくん、最近生徒会室に来ないもんね~。最低限の仕事は、しているみたいだけど、どうしたのかな~?」


「そうねぇ。私は最近、避けられているみたい。だから、あまり話せてないのよね」


「雪乃先輩もですか?私もなんです。話しかけても『今は忙しいから後で』って言うんです」


彼女たちは、しばらく生徒会室に姿を見せていない、夜海のことを話す。

夜海は夏休みが明けてからは、生徒会室には姿を見せていなかった。

正確に言うと、彼女たちが居るときには、生徒会室には来ていない。

最低限仕事(生徒会室の掃除と備品整理)はしているのだが、必要以上にかかわるのを避けるようになっていた。

そのため話し合いの場にも来ておらず、会議が進んでいなかった。

というのも、このように会議が行き詰ったとき、夜海が発する一言がきっかけで、話が進むことが多かったのだ。


「逃げないで、って言ったのになぁ。…ズルいや」


「柑ちゃん、訳知りだね。なになに?柑ちゃんは一体、何を知っているのかな?」


寂しげに呟いた美玖の事を、天音は見逃さなかった。

天音に問われた美玖は、少し考えるように目を伏せたのち、とある話を始めた。


「これは、んっと昔の事なんだけどね、ミー君には幼少からの友人がいたの。私と知り合う前からの友人。つまり親友だね」


「親友……ですか?それは、高垣先輩……ですか?」


月乃は自分が知る限りの中で唯一、自分たち以外で夜海がよく話している人物、輔の名を挙げた。

しかし美玖は、首を振って否定する。


「彼は確か、小6の頃に知り合ったはず。ミー君とその親友は、それよりもっとも~っと前に出会ったんだよ」


「聞いていると、今はそうじゃ無い…っていう風に聞こえるのですが…?」


「その通りだよ、風ちゃん。丁度タスクと入れ違い?いや、交代……って感じかな?ミー君はタスクと出会う少し前に、親友と喧嘩別れしたんだ」


「分からないわね。それがどうして、今の状況に関係して来るかしら?」


雪乃が首を傾げ、疑問を述べる。話を聴いた限り、その親友と喧嘩別れした事が原因と言いたいのは分かった。

しかし、それがどうして、自分たちを遠ざけることに繋がるのか。雪乃含め、美玖以外の全員が理解できないでいた。


「どんな喧嘩をしたのか、詳しくは省くけど……ミー君はその時、親友の言い分を聞かずに行動したんだ。その結果、積もり積もった些細な食い違いは、二人の関係を一気に崩していった。最初は私も、すぐに仲直りするって、思っていたんだけど……」


「そうは、ならなかったのね?」


「うん…お互い譲らずで、一切口を利かなくなっちゃった」


場が静まり返った。話を聴いてそれぞれ思う所があったようだ。

普段のフワフワした喋りではなく、やや真剣な喋りで天音が美玖に訊ねる。


「その親友君は、今どうしているのかな?」


「分かんない。中学に上がってから一度も、見かけないんだ……。一番の親友だったのに、あえなくなって…それでミー君、思ったんだって。他人も自分も信用しない。友達と呼べる存在はつくらない。もし出来たのなら、それは大切にする。けれど…親友と呼べるほど、したたしくなったなら」


「自分から距離を作る事を選ぶ…かしら?それとも、それ以上親しくならないようにする、って言ったのかしら?」


「ねえさま、それは……どちらも……殆ど同じ、意味かと。でも………夜海先輩なら、言いそう」


月乃の言葉に頷く、美音たち。


「その通りだよ。ミー君は自分を偽って、距離を取る事を選んだの」


雪乃たちの言葉を肯定する美玖。美玖の言葉を聞いて、また部屋は静まり返ってしまう。

そんな中あるものが、唐突に喋る。


『「つまり僕たちは、古詠にとって親友に値する人、と言う事だ」と、お母さまがいっています』


「ナ、ナナさん⁉びっくり……しました。急に、喋らないで……下さい」


莉桜の代わりに書記の仕事を行っている、AIのナナが喋ったのだ。

彼女はパソコンのスピーカを通して、喋っているのだか……


『すみません、いきなりで。ですけど、そろそろ慣れて欲しいものですね』


急に喋って、驚かせてしまう。不満は取り敢えず措いておいて………


『それより皆さん、暗くなっていないで、マスターをどうにかする方法を考えた方が、良いのではないですか?』


ナナの言葉に雪乃たちは、顔を見合わせ頷き合う。


「そうね。その通りだわ」


「ですね。赤城先輩の言う通りだと思います。先輩にとって私たちは、とても大切な存在であることは、間違いないはずです!」


雪乃は赤城の意見に納得を示し、美音は自信満々に言い切る。

そんな中、月乃が次を見据えた発言、つまり……


「じゃあ……どうやって、先輩に……分かってもらう?」


根本的な問題を口にする。

現在夜海は、生徒会の面々を避けて行動している。

となると、場を設けたとしても避けられる可能性が大、なのだ。

月乃の発言に再度、悩みかけていた一同の耳に、不敵な笑い声が聞こえてくる。声の人物は自身気に語った。


「ふっふっふ、天音さんにお任せあれ!」


「何かいい案でもあるのかしら?」


「もちのろんだよ!そもそも、みっくんの言ってる事とやっている事は、穴だらけのちぐはぐだしね~。それなら、正面からぶつかって、認めさせればいいのさ!……ま、頑張るのは天音さんじゃなくて、フーちゃんだけどね!」


天音の発言を聞いた瞬間、全員が天音の考えを理解した。

が、美音はそれどころでは無かった。天音が最後に付け加えたひと言、その真意が判らず、戸惑いを見せる。


「わ、私ですか⁉」


「そうだよ~。フーちゃんの頑張り次第で、簡単に解決&っと、これ以上は……ムッフッフ」


「ちょ、何ですかその笑みは⁉」


「あ、だったら体育祭の競技、借り物競争なんてどうかな?」


美音の天音に対する抗議は、無情にもスルーされ、柑條は最初の議題であった、生徒会主催の競技の案を提案する。


「成る程~、さすが柑ちゃん!その案良いね~」


「そうね、期限が迫っているし、いいんじゃないかした?」


「ですね。一石、二鳥……ですし」


『「僕も賛成だ」だそうです』


「じゃ、決定!」


ほぼ満場一致で決定し、(この場において)一人をおいてけぼりにして、準備に取り掛かる一同。

そんな一同に対して、おいてけぼりな人物は、


「も~~~‼一体どう言う事なんですか~⁉ちゃんと説明してくださいよ!」


納得のいく説明を、求めているのであった。

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