生徒会の会議
東條 九音
第1話 身の無い会議
「と言う事で、役委員決めをするよ」
引き継ぎが3日程前に終わり、昨日は引き継がれた資料を整理していた。
そして今日、やっと本格的な活動を始める事となった。
「ちょっと待て、その前に改めて自己紹介をするべきだろ」
「ミー君……。全員知り合いでしょ」
会長・
まぁ柑條とは長い付き合いだから、お互いの事は知ってはいるけども。
「その眼はやめろ。とにかく、自己紹介はして貰わないと困る」
「何で?」
おかしいな、長い付き合いだからわかるだろうに。
「柑條お前さん、俺が必要最低限の事しか記憶しないって事、忘れている訳じゃないだろうな?」
そう、俺は人の名前や話などは余り憶えていない。
何故なら、名前を覚えてなくても会話は成立するし、話の内容は特に身の無い事だ。だから、殆ど聞き流している。
けどこの事は、少しは反省している。そのせいで、友人と呼べる存在がほとんどいないからだ。だからこそ、柑條は数少ない友人と言える。
「そういえばミー君って、興味ない事は特に覚えてなかったね」
まぁ、確かに興味がある事だけは、無駄によく記憶していたな~。
「それじゃあみんな、仕方ないからして上げようか」
仕方ないと言った感じだが、自己紹介をしてくれるらしい。
「柑ちゃんも大変だよね~。それじゃ私から。ハロハロ~、私は副会長の
「如月…天音…。あぁそういや、柑條の友達にいたな~」
ハロハロ~とか、なんかいろいろと独特の雰囲気を持っていたから何となく覚えたんだった。
「全くよ。それにしても、隣の席なのに、覚えてないのかしら」
「姉さま、それ、仕方ない事。それでこそ、
何かサラッと、酷い事を言われた気がする。
「確かに、その通りね。それじゃ改めてだけど、わたしは副会長の
しかも、なんか納得されている。
「書記。姉さまの妹、月乃です。夜海先輩、私の事も、憶えていない?」
お構いなしのようだ。
だが思い出した。雪姫さんって言ったら、ペア学習の時いつも組む人だ。
なぜか他の人からの誘いを断って、いつもペアを組んでくれるもんだから、憶えようかなぁ~って、思っていた人だ。そう言えば何で組んでいるのだろ。
ツッキーは覚えている。困っていた所を助けてあげて、その時少し話したら意気投合して、今でもよく話をしている後輩だ。
それに雪姫姉妹と言ったら、姉は美女、妹はマスッコットで、人気だったはず、多分。
「会計の
「そういえば、そんな事があったような」
「先輩にとっては、そんな事程度だったんですね。出来ればちゃんと、憶えていて欲しかったです」
この後輩は確か、真面目で成績優秀者なのだが、たまに見せるドジな所が、可愛らしいと周りの男子が言っていたな。
「最後は引きこもりの書記、
柑條の視線の先には、チャットが開かれた状態のパソコンが置いてあった。
「引き籠りなのに生徒会って、おかしい気がするが、なぜ役員になったんだ?」
「それがね、先生がスカウトしたんだって」
俺の質問に、柑條はそう言って、「詳しい理由は、先生に聞くのが早いよ」と付け足した。
それよか、先生たちって俺以外の人にもスカウトしていたんだな。
あの時は、そんなこと全く言ってなかったのに。
と言うか俺のスカウトのされ方、あれはおかしかった気がする。
まぁ、今思い出す必要のない事だが。
「赤城先輩とは、どんな人ですか?」
歌風さんが柑條に、一番気になっていた事を聞いた。
姿が見えないとなると、一体どんな人物か気になってくるものだ。
「それが私たちと同学年という事以外、私も良く分らないのよ。去年同じクラスだった人の話だと、必要な出席日数分は来るらしいけど、ホームルームの時しか見かけなかったって」
「不思議な人ですね。授業で見かけないと言う事は、授業には参加していないと言う事ですよね。それなのになぜ、出席がついているのでしょう?」
「不思議だよね~。あ、あとミー君たちと同じクラスらしいよ」
歌風さんの疑問に対する答えは、如何やら先生のみぞ知る、と言ったところだろう。
そう言えば、後ろの席がいつも空いていたな。てっきり空席なのかと、思っていたが赤城の席だったのか。
「ちゃんと仕事は、して貰えるのですか?」
歌風さんの質問に、柑條は「それは、大丈夫」と答えた。
「議事録と書類整理を中心に、コンピュータ関係の仕事を引き受けてくれるらしいよ」
成程つまりは、その電子系分野を評価されているから、特別枠なわけだ。
それにしても、仕事をちゃんとするか気にするあたり、歌風さんは噂通りの、真面目な人だな。
「あとこれが、メールアドレスだよ。これで、莉桜に連絡取れる筈だから」
柑條は、赤城のアドレスを全員に配った。
そのアドレスは、どこか見たことある気がするものだった。一体、どこだったかな。
「それと会議には、チャットを使って参加するらしいよ」
その事を聞くと、全員納得と言った顔で、頷いていた。
ん?チャット?そうか、思い出した。
珍しくオンラインゲームやっていた時に、何か気に入られて、その時アドレス交換したんだが、それと全く同じだ。
何でも、チャットを開く時そのアドレスをパスワードに使っているとか何とか言っていた。
さて、全員の自己紹介が終わった訳なのだが……。
「さてミー君」
「何でしょう」
聞き返すとそこには、何やら不穏な空気漂わせる人たちがいた。
「えーと、みっくん質問するね」
「先程の自己紹介は、本当に必要だったのかしら?」
「……夜海先輩、本当に、覚えていない?」
「先輩、本当の事言って下さいね」
「誤魔化したらどうなるか、分かるよね?ミー君」
やばい、結局柑條の言う通り、全員知っていた。しかも、思い出した事がばれている。
こういう時は、経験上買収するのが手っ取早かった。
「全員分の飲物で、手を打たないか?」
「よし、なら今すぐ買ってきてね」
買収に成功した。気が変わらぬ内に買いに行こう。
と言うか、一時離脱しよう。帰って来るまでにどうにかなっていればいいけど……
「よし、ミー君が居なくなった事だし、本題に戻りますか」
「いいの、柑ちゃん?」
ミー君が出っていて直ぐに、会議を再開しようとして、今度は天音に止められた。
「良いじゃないかしら。自ら買いに行くと言ったのだから。」
「雪乃の言うとおりだよ。それに時間は有限、有効に使って行こうよ」
「確かに、柑ちゃん言う通りかもね~」
うん、如何やら納得して貰えたみたいだし、会議を続けようかな。
「それじゃあ、みんなは担当したい委員会はある?」
「委員長を、サポートするだけよね~。ならどこに就いても、一緒だからな~」
天音がそう言うと、他の皆もどうやら同じような意見みたいで、頷いていた。
「それなら、先生から配置の要望が出ているから、それで良いかな?」
「はい、私は構いません」
「私も、異論はないわ。月乃はどうかしら?」
「私も、異論、無し」
「うん、だったら決まりで良いんじゃないかな~。そもそも私が、どこでも良いって、言ったわけだしね」
よし、莉桜については殆どこちらで決めて良いと、本人の了承も取れている。これで、一名を除いて満場一致。
「それじゃあ役委員は、先生が準備していたもので。詳しいのは、この紙を見てね」
私は、先生から受け取っていた紙を全員に配る。
「美玖会長、この会議必要なかったのでは?」
「……まぁこの後は、ミー君の奢りでゆっくり過ごせるからいいでしょ」
確かに風ちゃんの言う通りなのだけど、私の真の目的は、親睦会を開く事だからな~。
生徒会室でする親睦会って、憧れていたんだよね~。
でも、風ちゃんって真面目さんだから、反対するだろうなって。
でもどうしても親睦会をしたいから、ミー君の事、利用しちゃったけど、そのおかげで、自然な流れで親睦会が出来そうだから良いよね。
ま、知り合いばかりだから親睦会と言うより、お茶会っぽいけどね。
あとは、お茶が届くのを待つばかりだね。
飲み物を買って戻って来ると、会議は終わっているようだ。
証拠に机の上には、お菓子が広げてあった。
「いや~待っていたよ。それじゃ早くお茶にしようか」
「いやいや柑條さん、会議はどうした?」
「それなら、賛成多数で先生の準備したものになったわ」
「結局この会議は、意味の無いものだったのか」
「プリントに詳しい事が書いてあるけど、聞きたい事はある?」
渡されたプリントを確認すると、ペアと担当する委員会、その他注意事項が書いてあった。
注意事項の一つに、妙な事が書いてある。
「柑條、使用条件の『生徒会での使用時は大部屋、委員会での使用時はペアが原則で指定の部屋』と言うのは、一体何のことだ?」
大部屋とか指定の部屋って、何のことだろう?なんか嫌な予感しか、しない状況になってきているような…。
「そのままの意味だよ?校内に泊まり用の寮が在って、そこを使う時の注意点だよ」
「そんなのあったか?」
そう言うと、柑條は呆れた風な顔をしていた。
「やっぱり、憶えてなかったか~。体育館に行く道の途中に、木造の建物があるでしょ、あれの事だよ」
体育館に行く途中にある、木造の建物って言ったら、今じゃ使わない校舎、みたいなやつか。まさかそれが寮とは、思わなかったな。
「まぁでも、使うのは書類が溜まり過ぎた時か、行事ごとの時だけだから大丈夫でしょ?」
「いや、大丈夫じゃないだろ」
柑條は簡単に言うが、事は簡単ではないはずだ。何故なら…。
「委員長は、殆ど女子」
ツッキーが言う通り、委員長は殆ど、と言うより全員女子だ。
つまり、その中に自分が居るのはおかしいだろ。
「なら私たちは、生徒会で泊まる時だけ心配すれば良いと言う事でしょうか」
ま、歌風さんの反応、それが当然の反応だな。と言うか、ペアが確実に女子ってどうかと思うぞ。
まぁ委員会は、仕事を溜めなきゃ大丈夫だろう。けれど、絶対に余計な事を言うであろう人物が、この場にはいる。
「それなら、大丈夫。ミー君なら、全く危険は無いと思うよ」
そう、柑條だ。付き合いが長いが故に、感覚がマヒしているに違いない。
「そうね、夜海なら大丈夫ね」
と思った所にまさかの、雪姫さんも問題ないと言うではないか。
一体どういうことだ?
「姉さまの、言う通り、安心、出来ます。それに、夜海先輩の事、嫌いでは、無いので」
「柑ちゃんやユッキー、ツッキーの言う通りだよね~。みっくんなら、大丈夫。むしろ私は、OKだよ~」
「先輩方が、そこまで言うなら大丈夫そうですね」
いつの間にか、歌風さんまで納得してしまった。
何かと、信頼されている様だが、全く持って心当たりがない。
一体何がどうなったら、こんなに信頼される事になるのだろう。
自分の事ながら、全く分からない。
「それじゃあ、他に質問はあるかな?」
皆、特にはないようだ。
そりゃ一番の問題の、ルームシェアに付いては解決したのだから、これ以上の物は他に出る事は無いだろう。
にしても、寮なのだから男子と女子を、分ければいいものを。そうしない理由は、一体何なのだろう。
「無ければ、次回は委員会の委員長と顔合せして、そのまま作業をし終えたら、各自下校する様にね」
「それじゃあ柑ちゃん、今日はもう解散でいいのかな?」
「そうなるね」
如何やら本日は、特に身の無い会議をして終わりらしい。その証拠に柑條は会長として、こう締め括った。
「それじゃあこれにて、本日の業務は終了ね。みんなお疲れさま。さぁ、ミー君が買ってきた飲み物とこのお菓子で、親睦会をしよう!」
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