繋がりは交換日記

岡山ユカ

第1話 初めまして

 私の住んでいる村に一つの噂がある。私の村は山の中にあるけど、更に上に小さな神社がある。獣道のような狭い道を通ると神社にたどり着く。しかし、その神社は呪われていて入ってはいけない。更に、神社の本殿の中にあるノートに文字を書いてはいけない。厳密に言うと交換日記をしてはいけない。

 交換日記をしてしまうと人ではないものが現れ、相手を呪うのだそう。こういう噂があるから、みんな神社に行こうとしない。好奇心を持っていても、呪われるかもしれないという恐怖から途中で断念する人が多い。

 だけど私は違った。私は誰も居ない、誰にも邪魔されない深夜で神社に向かった。持ってきた懐中電灯をつけて獣道を照らす。懐中電灯がなければここは灯りがない真っ暗な道。迷う可能性がある。

 獣道を歩いていると夜風の音が鮮明に聞こえた。私の体に夜風が当たり、冷やされる。寝間着ではなく、ちゃんと防寒対策をしている服装だから、震えるほど寒くはない。この日に神社へ向かう予定を立てていたから準備は万端。背負っているリュックには筆記用具、メモ帳、下敷き、そしてお守り。さっきまで懐中電灯も中に入っていたけど、今はもう取り出している。

 白い光が先の道を照らしていると石の階段が見えた。光を上に移すと色あせた鳥居が私を見下ろしていた。横には石垣のようなものもあるから、どうやらいわくつきの神社に到着したらしい。

 私は一段一段、慎重に階段を登っていく。苔がびっしりこびりついていて、慎重に登らないと足を滑りそうだから。私の靴は滑り防止の機能は搭載していないため、滑る時は滑る。

 少しだけ長くて急な階段を登り終え、神社の本殿が私を待っていた。立派というほど大きくはなく、町中に所々ある無人の神社のようだった。実際、神社にあるお守りなどを販売する建物がない。ということは管理する巫女さんしかいないというわけだろうか。境内は誰も入っていないと言う割にはきれいに掃除されているから。

 神社の石の道の端っこを歩いて、本殿の中に入る。端っこを通ったのは神様が通る道だと聞いたことがあるから。そこまで神様のことを信用しているわけじゃないけど、怒りを買ってはいけないかなと思って、端っこを歩いていた。

 本殿の中に入ると噂の交換日記をすると呪われるノートがあった。暗くても、ノート自体が白色だったから月光で十分わかる。私はリュックを下ろして、ノートを手に取る。リュックの中から下敷きと筆記用具を取り出し、ノートを開く。誰も使っていない、学校でよく使うノートだと分かった。どうでもいいことだけど。私は人ではないものに挨拶する。


 初めまして。私は白糸つむぎ(しらいと つむぎ)です。えっと、中学一年生です。この交換日記の噂を聞いてやってきました。このノートで交換日記をすると呪われるという…。あの、本当に呪われるのでしょうか。そして呪われると、どうなるのでしょうか。私を呪う人ではないものが知っていたら、教えていただけると幸いです。


 まるで自ら呪われる事を望んでいるような文章になってしまった。

 ノートに書き終わると、私は少しの疑問を思い浮かべていた。

 いつになったら返事が書かれるのだろうか。返事なんて来ないかもしれないけど、もしかしたらと思って少しだけここに居座ることにした。ノートを開いたまま。

 夜風の音が聞こえている。不穏な音を辺りに鳴らしている。まるで人ではないものが近づいてきているかのように。噂通りなら私は呪われるのだろうか。月光しか届かない暗い本殿で呪われる。別に私は良い。

 少しだけ書き足されるのを待っていると、ノートから鉛筆を走らせるような音が聞こえた。気づいて、ノートの方に目を向ける。だけどそこには誰も居ない。誰も居ないのに鉛筆を走らせるような音がする。ノートを覗き込むように見てみると、文字が書き足されていた。それにはこう書いてあった。


 アナタ、呪ワレタイノ?

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