第52話 出立
「おはようリリー。ごめん待たせた?」
「私も今来たところだ。……マリーはどうした?」
「イーチノと少し話をしてからくるって。まぁ、相棒とも言えるような人としばらく離れるわけだから、それぐらいの時間は与えてもいいんじゃないかなって」
日が昇り始め、周囲が明るくなり始めたころ、ハルとリリーはハルゴ村への出立に向け正門前へと集合していた。
リリーはいつもの身軽な装備ではなくやや重装型の装備をしていた。とはいっても、身を守るプレートが何枚か増えた程度だが。
一方ハルはというと、イーチノから譲り受けた鎧を装着して万全な状態となっていた。加えてマリーを救ったお礼としてもらった軍資金でポーションと冒険に必要そうなアイテムを一通り買い揃え、ショルダーバックに詰め込んで持ってきていた。そして背中には小さめのバックパックを装備している。
「ハル、今回の冒険でもし記憶の一部でも取り戻したとき、貴様はどうする。どんな記憶でも素直に受け止めるか? それとも拒絶するか」
「内容によるかな。でも、自分の記憶だし大事にしたと思えるものだと信じているから、どんな記憶の手掛かりだとしても素直に受け止めるかな。記憶がないってこれほど悲しいことはないから」
「そうか。記憶の手掛かりが見つかるいいな」
ふたりが他愛もない話をしているところへ最後の同行者、マリーが駆け足でやってきた。
「すみません、お待たせしました」
マリーはというと、いつも通りの装備である。違うとすれば少しばかり荷物が多いことだけだろうか。
「イーチノと話せた?」
「はい。イーチノ様とは短いながら有意義な時間を過ごさせてもらいました。しばらくの間は代わりの者が護衛についてくれるとのことでしたので、安心して行って来いと言われました」
イーチノに言われたことが相当嬉しかったのか、今までに見たことのないような笑顔をふたりに向ける。
いつもとは違う雰囲気のマリーにハルはギャップを感じ、少しばかりドキッとした。
その様子を見ていたリリーは、不愛想な表情で言葉を返す。
「そうか。よかったな。では行く前に最終確認だ。ハルゴ村へはここから歩いて約3日かかる。何事もなくいければの話だ。何かしらのイレギュラーが起きれば、その分たどり着くまでの日にちはかかる。つまりここへ戻ってくるのは一週間以上後の話になる。それまで、満足のいく生活はできないがいいか?」
「僕の記憶のためなら、そんなのへっちゃらだよ。強くなるための修行もしたし、きっと大丈夫」
「私も冒険に出たことはないですが、これもイーチノ様を守るための良い経験になると思って同行します。もちろん、ハルへの恩返しも兼ねてですが」
各々意気込みを言ったところで、3人は正門の前に立つ。
この冒険にはそれぞれ目的がある。
ハルは記憶の手掛かりを探すため。
マリーはこの冒険を通して、自身の恋心をハルに気づいてもらうため。
そしてリリーは2人修行の成果をみるため。
各自目的を胸に秘めながら、街の門をくぐるのであった。
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