第27話 一線解放

 一線解放いっせんかいほう


 それは戦いに身を投じる一部の人間が使える最後の切り札とも言うべき必殺技。


 その効果は本来眠っている能力を解放し、身体的機能の上昇や固有スキルを使えるようにするものだ。


 固有スキルはその者にしか扱えないもので、唯一無二の特別なスキル。


 光よりも早く動けるようになったり、時空をゆがませたり、複数の武器を召喚し自由自在に操ったり人によって異なる能力を持つ。


 強力なスキルであるがゆえ、劣勢な状態から戦況を覆すことも可能だと言われている。


 一線解放に関してこんな逸話がある。


 とある3人の冒険者が森でクエストを行っている最中、強力な魔物と出会った。


 その魔物は、付近の街や村で危険視されており、体調は3m超える大柄な体型。一見熊にも見える四足歩行の魔物が持つ爪は凶悪。攻撃されれば、鎧など紙切れ同然の威力を持つ。


 逃げられないと悟った3人は戦うことを決意するが、噂通り恐れられている魔物。硬い皮膚に刃や打撃が通らず、魔法もさほど効いていない。


 このままでは全員死ぬと察した隊長は、唯一パーティー内で一線解放を使い形勢逆転を狙う。

 

 一線解放後の隊長は、今までとは比べ物にならない動きをする。それは目にもとまらぬ速さで攻撃を繰り出しあれほど苦戦していた魔物を一瞬にして塵に返すほど。という話だ。


 これが戦況を覆すことができると言われる所以である。


 この話を聞けば、最初から一線解放を使って戦えばよかったと思うかもしれないが、使うことを躊躇せざるを得ないデメリットが2つあるのだ。


 1つは一線解放後、丸1日スキルも魔法も使えなくなるということ。


 一線解放を行うと、底が尽きるギリギリまで魔力を消費し続ける。そして魔力が最低ラインを下回ると自動的に一線解放が解除される仕組みになっている。


 そうなると、限界値に達したことからの頭痛や吐き気などに襲われ、まともに動けなくなる。加えて魔力自然に回復するまで丸1日かかり、その間はスキルも魔法も使えないという訳だ。魔力回復ポーションなども効果はない。


 つまり、一線解放を使うタイミングとして相手が一線解放中に倒せることが前提なのだ。一線解放が解除された後に敵がまだ生きて入れば、何も抵抗することができず死を待つことしかできないだろう。


 そして2つ目のデメリットが『サイコ化』だ。これが最も恐れられるデメリットでもある。


 サイコ化とは一線解放を何度も使用した先に起こりうる攻撃的衝動を発症する病気だ。


 一線解放は体や精神に負担がかかる。それを何度も使用するとやがて体や精神がイカれてしまうことは容易に想像できるだろう。そしてイカれる一歩手前の状態で一線解放を行えば『サイコ化』を発症する可能性があるのだ。


 発症するまでの使用回数は人それぞれだが、何百回と使わなければ基本発症することはない。過去の例でもサイコ化を発症したという症例は少ないからだ。


 サイコ化を発症するとまず攻撃的になる。敵味方関係なく攻撃し始め、動く者はすべて殺すという状態だ。


 加えて魔力が底をついていても一線解放が解除されないということ。


 つまり、常に身体能力の上昇した状態になり、固有スキルが自由に使えるのだ。


 そのような者が敵対するのだから、サイコ化を発症した人間からは逃げるのが一番の得策と言わざるを得ない。


 それでもサイコ化した人物を治癒したいというのならば方法はたった1つ。殺してあげる事。サイコ化して人ならざる者となった以上、殺す他ないのだ。


 サイコ化した例は限りなく少ない。


 よく言えば簡単にはサイコ化を発症しないということ。悪く言えば、サイコ化を発症したらもう二度と平和な人生を歩めないということだ。

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