五十三話 次期頭首様の悩み事

簡単なあらすじ『次期頭首様はお怒りのご様子です』




コルリス、ジェリアに話を聞いた所、外に出ていた二人にサチエはまた同行し町の案内をしてくれていたらしい。


そして御守りの完成が近いはずだと考えた彼は二人と魔物達を連れて戻って来……俺達の話を聞いてしまったようだ。


……そうなる事など予測出来そうなものだが、ダマレイも話に熱が入り過ぎてしまい、失念していたのだろう。


実際、気が付けば少し話し過ぎてしまっていた事を駆け出して行ったサチエの背中にも、そして俺にも謝罪し続けていたし……


そんな俺は今、ダマレイ氏に許可を得てサチエを追い掛けている最中だった。


〝あの話〟をしてしまったダマレイや、それを知らない他の者&魔物では彼を落ち着かせるのは難しいだろうと、自身でその役を買って出たのだ。


それに、全員でわちゃわちゃと来てしまうとサチエも気まずいだろうし……ちなみに、そんなワケでその他大勢は族長宅に残してきた。


とにかく、サチエと会ったらまずは謝るとしよう。

話し始めたのは俺ではないとは言え、あのような話を聞いてしまったのだからそれなりの責任は負わなければならないはずだ。勿論、その覚悟も出来ている。


でも……サチエは許してくれるだろうか?

彼が心優しい人物なのは既知の事実ではあるが、限度というものだって必ずあるだろう。それがトラウマ級の話であったならば尚更だ。




サチエはいつか見た魔王城を一望出来る、あの町はずれの丘にいた。


その後ろ姿で俺はすぐに分かった。

今、彼もあの時のダマレイと同じく遠い目をしてそこにある景色を……いや、過去を眺めているであろう事を。


俺の足音に気が付き、サチエはこちらを振り向いた。

走り来る者の存在を知っても尚、彼はもう駆け出そうとはしなかった。


そして、その顔はどこか達観したような表情をしていた。


「クボタか……全て、聞いたんだろう?」


サチエは言う。


その通りであったが返答に迷った俺は、その数秒後に返事をする。


「う、うん…………ごめん」


「気にするな。どうせ父が勝手に話し始めたのだろう……そう言えば確か、君は最初、魔法や武術を我らアトラン族から学ぶためにここへとやって来たんだったな……ならもう分かったかもしれないが、私からは魔法を教える事が出来ないんだ。殆ど何も、知らないんだからな。すまない」


サチエはそう言って詫びる。

謝るのは俺の方であると言うのに……


「いや、謝らないでよ。そりゃあんな事があったんだから仕方な……あっ!ご、ごめん!」


「フフ……ありがとう、クボタ。私の事を友人として気遣ってくれて」


「え?」


「言葉通りの意味だよ。〝あれ〟を知っている者の殆どは、哀れみで私を気遣う者ばかりなんだ」


「…………」


それから、俺達の間には暫くの沈黙が流れた。

その沈黙は、ダマレイの作るものと何処か質感が似ている。ような気がした。


「……次期頭首がこれではこの町の者達もさぞかし心配だろうな。魔法も使えず、そのせいで儀式にも参加出来ず……町の警備や門番しか出来ないような者が、自分達の上に立つと言うのは」


不意に、サチエが言った。

彼がそうした任に就くのは、そのような事情があったようだ。


「…………それならさ。あ、これはダマレイさんに言われたからってワケじゃないんだけど。もしサチエが良いなら、俺と一緒にもう一度魔法の勉強をやってみない?俺、さっきダマレイさんに色々と教わったんだけど、全然分からなくてさ、俺よりかは大分魔法について詳しいサチエが一緒なら、心強いかな〜って……」


少しばかりの勇気が必要だったが、俺は思い切って自身の考えを口に出してみた。


確かに、彼のトラウマを無視してもう一度魔法の勉強をやってみないか?などと言っては怒らない方がおかしい。かもしれない……


かもしれないが、そのままの状態で族長になってしまったら、サチエはきっと『魔法を使えない』というハンデをどうにか覆そうと必死になり、壊れてしまう……


そんな気がした俺は、敢えてそう言ってみたのだ。


「一緒に、か……でも、私はもう……

……ん?何だ?」


「あれは……」




俺達から見て東にある平原。

そこで蠢く幾つかの影に、俺とサチエは気が付いた。

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