五十四話 また、声が聞こえる
簡単なあらすじ『東の平原に何かが……』
東の平原に突如現れた、蠢く四つの影。
そのうちの三つはまるで人間のように、慣れた様子で二足歩行をしていた。
だが、首から上は鳥、獣等に近く、しかもそれぞれが異なるものを有している。
オークだ。
恐らくコイツらが討伐対象の個体なのであろう。人里付近に現れたから討伐依頼を出されたのだ。
しかし……もう一体はそれらとは違う。
間違いなくオークではない。
対象が遠くはっきりとは確認出来ないが、オークではないその一匹の周囲にはそれを取り巻くように何かが浮かんでいた。
何だか、見た事のある姿だ。
多分、アンデッドだろうか……
いや!他の魔物を引き連れているなら、ネクロマンサーという可能性もある。
まあ、それがどちらにせよ俺とサチエという今のメンバーだけでは到底かなわない相手なのだ。急いでアイツらを呼んで来なければならないだろう。
それに……その四匹は真っ直ぐに町へと向かっているのだ。
何の目的でかは分からないが、絶対に誰かが立ち向かわなければ町は最悪……
とにかく、急がなければ。
族長宅まで十五、六分程度……間に合うだろうか。
「クボタ!!応援を呼んで来てくれ!」
その時、サチエはそう言って俺から短剣を奪い取ると、いきなり丘を駆け下り始めた。
それはあまりにも性急な行動……ではなかった。
あの四匹が今いる場所から1km程の地点には学校があるのだ。あれでは助けを呼びに行くよりも早く、奴らが学校へと到達してしまうだろう。
しかし……族長宅まではそれなりに時間がかかる。
それまで一人で持ち堪えるのは不可能だ。
「サチエ!待て!」
そう考えた俺は彼へと向けて叫んだが、サチエは前進を止めない。というか、止まる素振りすら見せなかった。
流石に無茶だ……
このままでは、サチエが……
そう思った俺は、気が付けば彼の元へと走り出していた。
もう少しでサチエに追い付く。
日頃鍛えておいて本当に助かった。
そうでなければ、今頃俺は荒い息をして立ち止まっていただろうからな。
勿論、この身体である事もそうだが。
「クボタ!?どうして来たんだ!?」
サチエは枯れ草に覆われた大地を蹴り、前進する〝二人目〟の存在に気付いたようで、そう言った。
「一人じゃ無理だ!!俺も手伝う!!」
「ダメだ!!私達二人がやられてしまえば奴らの存在を町に知らせる者がいなくなるだろう!!それに、そもそもクボタは……」
「だけど俺が行ったら!サチエは!!」
そうこう言っている間に、四匹が向かい来る者達の存在を知ったようだ。皆が立ち止まり、身構えている。
「……気付かれたか。なら仕方ないな。クボタ!!死ぬなよ!!」
そう言ってすぐに、サチエは姿を消した。
それは、そう例えても差し支えない程の素早い動きだった。肉眼で捉える事が難しい程の……
その速度でサチエは一匹のオークに接近し、手にしていた短剣を真横に払い、それを切り裂く。
攻撃が命中したオークは胸から鮮血を流し、後退った。致命傷とはまではいかずとも、なかなかのダメージを与える事は出来ただろう。
……凄い。
そうとしか言えないくらいの〝流れ〟だった。
やはり彼は魔法を使えずとも、それを犠牲にして得た武術は本物であるらしい。
が、そう感心してばかりもいられない。
それを見た残り二匹のオークは怒り狂っているのだから。
ならば、今こそ俺が彼の助けとなる時だ。
そのためにこうして来たんだからな。
そう思い、俺がサチエと肩を並べて拳を握り締めた……次の瞬間。
〝お前……いや、君は。
良かった。やっと会えた。やはり、『仲間だったもの』を倒してくれたのは君だったんだな……それが果てた場所の付近を探し続けてみて正解だった。いやあ良かった。本当に、良かった…………アァ〟
自分の発したものでも、サチエのものでもない〝人のものであるかのような声〟が聞こえ、それと同時に目の前で驚くべき事が起こった。
なんと、一匹だけいた異質な存在であった謎の魔物が黒い影のような体を伸縮させ、触手のようにしてから滅茶苦茶に動かし、三匹のオークをそれで雁字搦めにしたのだ。
その時、三匹のオーク達は皆が何故か、達観したような表情をしていた。
どう言う事なのだろう?
コイツらは〝アレ〟が何をしているか、分かっているのだろうか?
などと思っていたのも束の間、魔物はそうして捕らえた三匹のオークを自らに引き寄せ、バリバリと……
「え……」
「な、何だ……?クボタ!気を付けろ!何をしてくるか分からんぞ!」
俺とサチエは動揺した。
まあ、目の前でそんなものを見せられたのだから当然であろう……ただ俺の方は、謎の声を聞いた時点で既に動揺していたのだが。
しかし、本当にアイツは一体何をする気なのだろう?
それに、あの声は
「いっ……」
突如、俺の頭に激痛が走った。
こんな時に頭痛だと……?
おかしい。絶対におかしい。俺は偏頭痛持ちどころか、そんなものとはほぼ縁の無い男であるはずなのだが……
「どうしたクボタ!?大丈夫か!?」
サチエがそう問いかけてくるが、返事すらも出来ない程の痛みに俺は、ただ頭を抱えるばかりだった。
……すると、痛みに混じって、またあの声が聞こえてきた。
〝またやってしまった。またやってしまった。またやってしまった。すまない。すまない。すまない。許してくれ。許してくれ。許してくれ〟
ぞくりとした。
今聞いた声の主はまだ何者かは分からないが、少なくともそれは『もう一生癒える事のない悲しみ、苦しみ』をその身に溜め込んでいる者であると、その言葉と、声の響きだけで気付いてしまったからだ。
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