五十一話 頭首様の悩み事

簡単なあらすじ『ダマレイさんにお守り作ってもらってます』




「完成にはまだ少し、かかりそうです……しかし、クボタさんは何と言いますか、そう!勉強熱心な方ですなぁ!ご自身で使うワケでもないのに、こんなにも魔法の話を聞きたがるなんて……」


ダマレイが鉱石に魔力を注ぎ込み始めてからというもの……


ずっとそうしている族長に魔力、魔法、魔石についての話を色々と聞き続け、メモも書き書きし続けていた俺は、彼が不意に発したその言葉が耳に入り、顔を上げた。


「いえ、僕はその方面に関しては本当に無知なので……それよりすみません。ダマレイさんも忙しいのに、こんな事を頼んでしまって……」


「いえいえ、構いませんよ。こちらこそ、久し振りに子供に教えているようで……おっと失礼。とにかく、楽しかったですよ」


ダマレイはそこで「ふぅ」とため息を吐いて言葉を区切るが、その後すぐにまた口を開き、こう続けた。


「我が息子も今のクボタさんのように、魔法に……いや、自分自身に、もう一度向き合ってくれればどんなに嬉しいか……」


彼の声は嘆声と共にその悩み全てを身の外に押し出してしまいたいかのように、悲しそうに、寂しそうに響いた。


やはりサチエとこの人の間には〝何か〟あるのだろうか?


いや、むしろ親子なんだから無い方がおかしいか。


しかし……どう反応しよう?

「どうかしたんですか?」と言うのも何だか噂話が好きな奴だと思われそうで、嫌だしなぁ……


「そ、そうなんですね」


「……聞いて頂けますか?」


俺から親子間の問題を聞きたがるのも無粋かと思い思案した挙句、「そうなんですね」とか自分でもワケの分からない返事をしたが、そんなクボタトシオへと向けてダマレイはそう言った。


……この人が良いなら、まあ良いか。

よし。そうと決まればしっかりと聞き手に回らせてもらおう。


丁度数十分前からの『色々と話してもらった御礼』をしたかった所だ。愚痴ぐらいどんと来いだ。




「我が息子、サチエは……実は、ある事がきっかけで魔法の修練をやめてしまったのです」


そう言って、ダマレイは話し始めた。

どうやら彼の話とは、愚痴の類いではなかったようだ。


「あれは十年程前の事でした。丁度その頃のザキ地方は、客人や商人達が漸く落ち着いてこの場所へと訪れる事が出来るようになった頃でもありましたね。


そして、その頃のサチエは、稚拙ながらも御守りくらいならば作れる程度には、魔法の扱いに慣れていました……


そんな折に、あるひと組の家族がこの町へとやって来たのです。


その時もこうして御守りを作り、彼等に手渡す予定だったのですが……その準備をしていると、突然サチエが言ったのです。


『あの人達に渡す御守りを、私に作らせて欲しい。』と。


私はそれを承諾しました。

サチエは既に、そう出来る程の技量がありましたし、何よりその家族の一員である少年ともう仲良くなっていた息子が、『あの子に自分の作ったものを渡したいんだ!』と張り切っていましたからね。そうさせてやらない、というのは酷なものです。


そうして息子はしっかりと、夫婦とその少年へと渡すための、三人分の御守りを完成させました。


私もその時、側にいたのでよく分かります。

あれはよく出来たものでした……父親である私がそう言うのも何ですがね。


しかし……あれは本当に、本当によく出来た御守りでした。息子が、息子が少年とその両親のために、丹精込めて作り上げた……


それを持って家族は一度町を離れ、魔王城へと物見をしに出かけて行きました。その際、少年が息子の作った御守りを大切に手に握っていたのをよく覚えています。


そして……


彼等はそのまま、帰らぬ人となったのです」


そこで一度話すのをやめたダマレイは、遠い目をしていた。


もしかすると彼は、その時の情景を目に浮かべているのかもしれない……


が、余計な詮索はせず、俺は彼が再び話し始めるのを待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る