四十九話 アトラン族の長

簡単なあらすじ『やっとアトラン族の町に入れました』




その後、サチエが同行を申し出てくれたので、町に入った俺達は彼と共にアトラン族の長の所まで行く事となった。


そして今回初潜入となるアトラン族の町はと言うと……失礼を承知で言わせてもらうと、かなりど田舎……じゃなくて、そう!非先進的な感じであった。(これもかなり失礼か。)


屋根は枯れ草や何やら分からない植物のようなものが使われており、その他の材料はほぼ全て木材が使用されているであろう建造物。


子供達が沢山いるあそこは雰囲気からするとただの広場なのではなく、恐らく青空を堪能しつつ授業の出来る教室……


それを見ている俺の足元では、リトルシーフの兄弟らしき二匹が喧嘩をしている。


とまあ、このような具合なのだ。

なかなか発展しており、そこそこ文化的な生活のある街を見た後ではこんな感想にもなってしまうだろう。


まあ、これはこれで……住めば身体が丈夫になりそうで素敵……


いや、すまない。

これ以上喋ると友人の住む町をフォローするどころか軽んじていると思われてしまうのでお口にチャックをさせてもらう。決してそんなつもりはないのだがな。


「ふむ……ならつまりコルリスは、二人とはまだアライアンスを組んでいないんだな?」


「……あー、そう言われるとそうですね。でも、それを済ませていたらGランクの私はFランクの依頼に同行出来なかったワケですし、これで良かったのかもしれません」


「あら?だから敢えてクボタさんは申請を出さなかったんじゃないの?コルリスを〝黙って連れて来られる〟ように。何も聞いてないの?」


「ううん、私は何も。クボタさん、どうなんですか?あれ……クボタさ〜ん」


集団の先頭にいるサチエ、コルリス、ジェリア達が何か話している。


初っ端に門番と、そして何故かサチエからもアトラン族式挨拶を受けたジェリア、コルリスは『きゃ!』とか『はわわ……』みたいな声を出し、当初は彼を警戒していたが……少々慣れてきたらしく、今は普通に会話している。


魔物達はと言うと……通常運転だった。

むしろ、プチ男との再会を喜び、ケロ太、ケロ太郎の手触りに満足し、ルーの可愛らしさに顔を赤くし、でかスライム達には興奮し……等々の行為をしていたサチエの方が彼等との遭遇に対してハイテンションであった。


あ、そうそう。あのサワコという人物だが、女性であったようだ。


じゃあ俺は……いや、これ以上は言うまい。

挨拶にハグとかする国は結構あるらしいし、そんな事を考えても意味はないのだからな。


「クボタさ〜ん!」


コルリスがなかなか返事をしない俺へとやや心配そうな表情で声をかけ続けている。


しかし、今返事をする事は出来ないのだ。

何故ならば、彼等の話はだいたい聞こえていたし、しかも彼女のしてくるであろう質問には返答が出来ないのだから。


そう……どうなんですか?と言われると。


『そこら辺の事は俺もよく分からなかった。と言うか全然知らなかった。』としか答えられないのだから。


と、言うわけで俺は暫くした後に『魔王城があるのってあっちだっけ?』とわざとらしく話題を変え、彼等の後方を歩く魔物達とこれまたわざとらしくコミュニケーションを取るフリをしてその質問を回避し、とうとう何も聞かれるまま、アトラン族の長の待つ建物へと辿り着く事に成功したのであった。


フッ……こうなる事を予測して最後尾にいて正解だったな。


しかも、そのお陰でコルリスが諦めた直後に発せられたジェリアの呟き、『……知らなかったみたいね』も殆ど聞こえなかったし。




本当にしょーもない身内での心理戦(?)に勝利した俺とその他大勢はこれから始まる長との接触にやや身を固くしていた。


俺とコルリスはまあそうなるのも分からんでもないが、俺達の中では気丈な精神を持っている方であるジェリアでさえもそわそわとしている。ように見える。


まあ、何故かサチエが『私はここにいるよ』と言って入口で立ち止まり、長の自宅(?)にまでは入って来てくれなかったのだからそうなるのも頷ける。


我々にとってここは、完全なるアウェイな空間となってしまったんだからな。


しかし……気掛かりだ。


サチエが一瞬、悲しそうな目をしたのだ。

それも、そう言った直後に。


一体どうしたと言うのだろう?

住み慣れたこの町の、この場所に、何か嫌な思い出でもあるのだろうか。それとも、サチエは長の事が嫌いなのか?


ガタリ


戸の開く音が聞こえた。

俺達は恐らく、数秒後くらいにはもう目当ての人物と顔を合わせている事だろう。


(サチエには後でそれとなく聞いてみようか……とりあえず今、失礼のないようにしないと。戦いのプロであるアトラン族の長を怒らせたりしたら、何をされるか分からないからな)


そう思った俺は居住いを正し、グデーっとしているプチ男をぶにぶにとつついて元の形状に戻した。


そして、目前で俺の真似をして正座しながら、こちらを正面にしているルーも180度回転させておいた。

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