十四話 次期頭首様の……秘密? その2
簡単なあらすじ『街へと着いたクボタさんとプチ男君でしたが、サチエのハイテンションに少々疲れてしまったので休憩も兼ねていつもの集会所兼酒場へと彼女を誘ってみる事にしました。』
サチエは俺の誘いを二つ返事で了承してくれた。
というワケで現在我々はいつもの酒場にてテーブルを挟んで向かい合わせに座り、頼んだ食事が届くのを待っている。
ほんの少し大人しくなったサチエは周囲の客に運ばれている色々な料理を羨ましげにキラキラとした瞳で見つめている。
だが時折俺の視線を確認し、自分がキャラ崩壊していないか欠かさずチェックしていた。この子はやはり、想像していた人物像よりもカワイイ……ついつい目が離せなくなってしまう。
「そうだクボタ。君に礼をするのをすっかり忘れていたな、すまない。」
そういうとサチエはおもむろに服の中に手を入れ、そこから短剣のようなものを取り出し、テーブルの上に置いた。
「これは?」
「さっき買った武器だ。私が選んだのだ、きっと良いものだぞ」
サチエは何故か誇らしげな顔でそう言った。今は髪を下ろしているのでにんまりとしている口元もはっきりと見える。
「……もしかして、これをくれるのかい?」
「そうだ」
なるほど、この武器は俺への礼、プレゼントだったらしい。聞けばアトラン族は自分が何かしてもらった時、武具を相手に渡すのが最もポピュラーな感謝の示し方なんだそうだ。
「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……」
そうして短剣に手を伸ばした俺は、数秒後いらぬ事を口走ってしまう事となる。
「あったかい……」
まあ、彼女はこれをずっと身に付けていたのだから当たり前ではあるが。
発言が変態的だとは俺も思う。でも許して欲しい、だって刀身に無いはずの温もりを感じたら驚くだろう?それに、この失言に一番焦ったのは俺自身だ。
俺は恐る恐る、サチエの顔色を窺う。しかし、その真っ赤な顔はすぐに彼女の両手で隠されてしまった。
「……すまない」
彼女の指の間から、今にも消えてしまいそうな程のか細い声が聞こえてきた。
俺はひとまずサチエに謝罪し、とりあえずプチ男を彼女の側に置いた。
これは何でやったか俺もよく分からない、気が動転していたのかもしれないな。
その直後に料理が運ばれてきたお陰で助かった。それを見たサチエが少し元気を取り戻したからだ。
今彼女は食事を終え、側にいたプチ男を再びこねくり回している。
ザキ地方には凶暴で人に懐く事のない魔物が多いらしく、こうして魔物と触れ合うような機会は滅多にないそうなのだ。だから楽しくて仕方がないのだろう。
「それにしてもプチ男よ。君はなかなか強かったのだな、こんなにもぷるぷるしているのに……ん?少し感触が変わったな」
サチエがずっとプチ男を弄んでいると、彼の触り心地が変化したようだ。
それと同時に、俺はプチ男から向けられる敵意のようなものを感じた。ような気がした。
「おや?プチ男はどうやら君に何か言いたいようだぞ、クボタ」
サチエにそう言われ、彼女の胸に抱かれているプチ男に目をやると、何故だか彼はぷるぷるしながらまるで吠え立てる犬のような動きをしていた。一体何が言いたいのだろう?
……と、考えていたが、一つ思い出した。
コイツとした『ザキ地方に着いたら何か買ってやる』という約束を。
もしかすると、コイツは俺に『約束を反故しただけでなく、サチエのご機嫌取りに自分を使うとは!もう許せんぞ!』みたいな事が言いたいのかもしれない。
「だとすると、マズイな……」
「何がマズイんだ?」
口からこぼれた俺の言葉に、ハテナマークを頭上に付けたサチエが質問する。
ついでなので俺はそこで彼女に真相を告げると、彼女は『それはいけないな』と俺を嗜め、すぐにプチ男への謝罪の品を用意するように言った。
ちなみにこの後俺はサチエからプチ男を拝借し、彼に聞いてみた所……やはりその事で怒っていたのだと分かった。
と、いうワケで時間も時間だし、食事も終わったのでサチエとはここで別れる事となった。
そして、俺達は彼女に隠された最後の秘密を知る事となる……
それは会計を済ませてサチエと別れの挨拶をしていた時だ。
「クボタ、今日は色々と世話になったな、ありがとう。また来てくれるのを待っているぞ。今度は客人としてではなく、友人として歓迎させてもらう」
「うん、必ずまた行くよ。俺の方こそ今日はありがとう」
そうして俺達は手を振り合い、サチエは帰路に、俺はプチ男への詫びの品探しに街の中心へとそれぞれの道を進み始める。
そう、ここまでは良かった。
「クボタ!また会おう!」
「またね!
〝サチエちゃん〟!」
これだ、この言葉がマズかったのだ。
「…………」
これを聞いたサチエは沈黙し、物凄い顔をしていたのが今でも目に浮かぶ……
「どうかしたの?」
「クボタ、今何と言った?」
サチエは凄まじい速さで俺の元へと歩み寄り、両肩をがっしりと掴み。
こう言った。
「私は男だ!!」
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