五話 実際よくある間違い

翌日。


結局お泊まりしたジェリアは今もなお目を覚まさず、彼女に抱かれたプチ男は動けずにいた。そしてジェリアのマネをしたまま寝たルーも未だ夢の中におり、その腕に挟み込まれたケロ太は『いい加減離せ』とばかりにもがいている。


その全てを放置してカエル親子に朝ごはんを与え終えた俺は、自室に籠り昨日やった登録関係の書類を通覧していた。


申請はこれで全て完了だ。今日からいつも通り依頼を受けたり、大会に参加したりする事が可能となる。


そうそう、これは登録関係の書類を渡してきたスタッフ的な人から聞いたのだが、俺はFランクになったのでこれからはカムラ、ドロップ地方だけでなく全ての地方の依頼を受ける事が出来るようになったようだ。


しかし、行った事もない場所でいきなり何かをするというのは少々不安だ。というワケでもう少し時間が経ってからにしようと思う。



さて、それではお待ちかねの……


我が魔物達の能力発表を行うとしよう!


まずプチ男!

『力』408(まあ、これは俺の出した数字だが……)

『魔力』2

『機動力』279


お次はケロ太!

『力』180

『魔力』288

『機動力』183


最後にルー!

『力』何と861!

『魔力』……1

『機動力』456


まあ、こんな感じだな。


プチ男とルーはFランクにいる同種族の魔物の平均値よりも高い数値らしく、それを聞いた俺の鼻まで高くなった。


しかし、一方で魔力は一桁という残念な結果……


かといわれればそうでもないらしく、1だろうが2だろうが魔力を保持しているのならば鍛える事によってそれを増強する事ができるので、伸び代がある分ゼロよりかは遥かにマシなのだそうだ(魔力なんか無い方が良かったとかいってた自分が恥ずかしい……)


ケロ太は魔力以外の数値が並程度だった。しかし俺の元に来てからはまだ日が浅いので怒るつもりはないし何かいうつもりすらない。これからゆっくりと成長していってくれたら嬉しいなあ、とそれだけの事を俺は思っている。


コツ、コツ


すると、ふいに部屋のドアをノックする音が聞こえた。多分コルリスだろう。


「コルリスちゃん、かな?どうしたの?」


「はい。失礼します。おはようございますクボタさん。あの、アートード達にご飯あげてくれたのクボタさんですよね?すみません、今日は私の当番だったのに」


「いいよ謝らなくて、たまたま早く起きたからなんとなくやっただけなんだ」


俯き加減で謝るコルリスに、俺はできるだけ穏やかな声を作ってそういった。


……が、これは嘘だ。


昨日、闘技場を背にして歩き始めた時くらいからだろうか、コルリスが少し浮かない表情をしているように見えるのだ。丁度今のように。


俺は体調でも悪いのかと思い、今日は早起きして彼女の仕事を肩代わりしたワケだが……改めて観察してみると、どうやらこれは体調ではなくて精神的な方向に何か原因があるような気がする。


「えーと、コルリスちゃん。もし体調が悪いんだったら休んでて良いんだよ?家の事なら俺達でやるからさ」


「いえ、そう言うわけじゃないんです。じゃあ、失礼しますね」


そういうとコルリスはぺこりと頭を下げ、部屋を出て行ってしまった。


一体、彼女はどうしてしまったのだろう?


とはいえ、身の内からその答えが導き出せるのならば、俺は既に解決策を講じている。


つまり俺だけの力で彼女の憂いに満ちた表情を晴らすのは不可能……そう判断した俺はそこにあるはずがないと知りながらも、答えを探すかのように再び書類へと目を落とした。


(仕方ない。もう少ししたら話でも聞いてみようか。)






……そんな事を考えていた時だった。


俺は、自身の登録者名が〝窪田トシオ〟になっている事に気が付いた。

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