十八話 ジェリアのお願い

「…てワケ。だからミドルスライムと私が出会ったのは運命なのよ!」


皆で昼食をとっている時にジェリアにミドルスライムをどうやって捕まえたのか聞いてみたが、彼女の脳内でドラマチックに改変されてしまっていて肝心な所が全く分からなかった。


コレ呼んだ意味なかったんじゃないか?つまり俺達って怒られ損…


「ん?どうしたのクボタさん。そんなヘンな顔しちゃって」


「な、なんでもないよ」


俺は口から出そうになった不満をコルリス特製プチスライム入りのサンドイッチと共に胃袋に押し込んだ。あ…今日のやつはちょっと美味しい。


「さて!皆食べ終わった事だし、そろそろ再開しましょ!」


「あのさジェリアちゃん、その事なんだけど、まだやるの…?」


「当たり前でしょ?何のためにここまできたと思ってるのよ」


「…は〜い」






ジェリアと俺含め愉快な仲間達がやってきたのはもうすっかりお馴染みとなったカムラ地方…ではあるが、その奥地だ。


そこで何をやっているのかといわれると、ジェリアに先日頼まれたもう一つのお願い事である『全身が水晶のようなカエル』探しを手伝っているのだ。


こいつはこの世界でのいわゆるUMAみたいな存在らしい…俺のよく知っている奴に置き換えてみればツチノコを探してるようなものだろう。そしてUMA的生物ならば発見と捕獲の難易度もツチノコと大体同じくらいだと思われる。


見つかる気は全くしないが俺はこーゆうのは大好きだ。小さい頃友人と共に山に入り、未確認生物にかけられた懸賞金を何に使おうかと想像を膨らませ、膨張し過ぎた想像だけを家に持ち帰った事は何度もある。


ただし、思い出の中にある山とこの場所では話が違う、いつも薬草を取りに行っている辺りよりも魔物が格段に強いのだ。ギガントトロールなんかと鉢合わせてしまう前に早く帰りたい…


しかもこれは依頼でもなんでもない、強いて言えばジェリアのための奉仕活動、〝タダ〟のボランティアだ。


というわけで…ってのもアレだが、俺のやる気は午後の捜索からはほぼゼロに近い数値になっている。


いや、今のは聞かなかった事にしてくれ。償いの目的で引き受けた者がタダ働きにブツブツ不満なんていってたら好感度が下がってしまう。


まあ口に出していってるワケじゃないし大目に見てほしい、それに例えそうした所で俺の隣にはプチ男しかいないから大丈夫ではあるのだが。


そんなプチ男はというと、俺にまとわりつく事なく真面目に周囲を確認している…ように見える。流石クボタ班のリーダー、こんな時くらいは頼りになる。


…この際だ、不満をこぼしてしまったついでにもう一つ愚痴をいっておきたい。


捜索の前に俺達は二班に分かれたのだが、一つが俺とプチ男のクボタ班。もう一つがコルリス、ジェリア、ルー、ミドルスライムで構成されたジェリア班という感じだった。


まず人員の配分がおかしいと思うのだが、ジェリア班のリーダーからは『か弱い私達に何かあったらどうするの?』と圧力をかけられ何もいえなかった。(それは屈服したという事と同義ではあるのは重々承知している)


これを聞いてどう思う?人員配置もおかしいが一番おかしいのは俺の扱いだろう、そう思わないか?全く酷い話だ。


しかし、あのジェリアがプチ男と離れて行動するとはなかなか珍しい事だ。流石の彼女もこんな場所に送り込んでしまったのだからせめて見知った間柄の者を一人くらいは俺に同行させてやろうと気を使ったのかもしれない。


そんな微妙に気を使われても困るのだが…


ぷるぷるぷるぷる。


その時、プチ男がなんか震え始めた。何か見つけたのだろうか。


それにしても健気な奴だ。よくよく考えてみればコイツだってこの班に配属されている時点でいい加減な扱いを受けているのは火を見るよりも明らかなはずなのだが、さっきから文句もいわずに黙々とUMAガエル捜索活動を続けているのだから。


「あっ」


ヤバい…これ震えてるんじゃない、威嚇してる。近くに何かいるのか!?


最悪の登場人物はギガントトロール…その次が普通のトロール…


いや!確か前にギガントトロールを見た時こいつはビビっていた。それなら今近くにいる生物は多分、大した事ない奴の可能性が高い。


そう思い俺がいくらか安堵していると、目の前の雑草の一角ががさりと音を立てて揺れ動いた。


「…やっぱりな」


良かった、恐らく小型の魔物か何かだ。ただ…気のせいだろうか?こちらへと近づいてきているような…


プチ男は全身を伸び縮みさせ、まだ見ぬ敵に向けて威嚇を続けていた。野生のミドルスライムと出会った時といい、コイツはめちゃくちゃ強い魔物でなければすぐ喧嘩をふっかけようとするふしがあるようだ。頼むからもう少し落ち着いてほしい。


ガサガサ。


プチ男と呼応するように目の前の生物もまた、こちらへと前進を続けている。もうそろそろ姿が見えるだろう。


さて、どうせ逃げる機会は失ってしまったのだ。こうなれば鬼が出るか蛇が出るか、しかと見届けてやるとしよう。


ガサッ!


「…………!」


茂みから飛び出してきたのは、鬼でも蛇でもなくただのカエルだった。それも多分、俺達が探している奴。

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